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第3章 まもり草の黒い花
魔獣の行進
しおりを挟む「私の弓と精霊魔法だけじゃあんなに手際よく倒せなかったわ。さすが『鬼神デレファン』ね」
「何? それ」
思わずキョトンと聞き返す。
「デレファンの通り名」
「「「 通り名!? 」」」
驚きだ。
「通り名って…。あだ名とか愛称とかとは違うよね? 強い冒険者とかを、人呼んで…ってやつ? 二つ名とも言う…」
少し混乱気味のマグリーの質問にうなずくルルーシェ。
「去年の冬、討伐ミッションが発令されてね。その時についたのよ」
ミッションは冒険者ギルドが発行する仕事の1つで公的な意味合いが強く、基本的に冒険者は全員参加となる。
「秋ぐらいから、どうも魔獣が多いってんで討伐クエストが増えてたんだけど、結局、『行進』が発生したの。何種類もの魔獣が一緒になって狂ったように突進するアレよ。しかも…マホテアに向かって来たの」
魔獣は、魔境や魔窟と呼ばれる魔力の濃い土地に生まれる。聖域と違って安定していない魔力が渦巻く土地だ。
純粋な魔力を食料とする魔獣もいるが、ほとんどの場合は他の動植物をエサとする。魔獣が魔獣を食らう事すらある。
そんな魔獣達が示し合わせたように突然、一斉に移動を始めることがあり、それを「行進」と呼ぶ。
原因は不明。
彼らは本能のおもむくままに進み、壊し、食う。
森でも畑でも村でも何でも進路にあるものを全て、ひたすら食いながら移動する。
生あるものを全て食い尽くす「死の行進」だ。
デレファンが、いつになく真面目な顔で説明を続ける。
「小さな村なら村人たちが家族と家畜を連れて、家と畑は諦めて一時的に避難するんだけどな。だがマホテアは大きな街だ。逃げることはできない」
行進は放っておいても自然に終了するらしい。発生と同じく突然、行進していた魔獣がみな死に絶えるという。
だから対抗手段を持たない村などでは逃げてやり過ごす。けれども終了までには甚大な被害が出るため、できれば止めたい。特に大きな街や重要な施設がルート上にある場合には。
「馬車が北回りのルートから帰ったところで、その時、俺はちょうどマホテアに居たんだ。南は聖域を通らないから冒険者の護衛がなくても何とかなるだろ? だから討伐に参加した。だって、マホテアには母さんとフウガ兄さんが住んでるからね。守らないと」
「そういえばあったね。その時は確か、海辺の町へは父さんと二人で行った」
マグリーとルーベンさんが顔を見合わせてうなずく。
「特に大きな事故もなく討伐は終了したと聞いていたのですが…」
ルーベンさんが不安そうに眉をしかめる。
「全体的に見れば、そうね。街から遠い所で高ランク冒険者が待ち受けて大物を倒し、次の防衛陣では中堅が数を減らし、その残りを後ろに待ち構えた初心者達で片付けるって作戦だったんだけど…、途中で列から外れた暴鬼が高レベル冒険者を避けてマホテアに向かったの」
「オーガですって!?」
「それで? 兄さんはどうしたの?」
先を促され、ルルーシェの話に熱が入る。
「デレファンは戦闘実績が少ないから、後方の、敵が来なそうな場所に配置されたのよ。街の外にある農場の近く。行進のルートからはだいぶ離れてたから、せいぜい、道に迷った小鬼や風に流された屍喰い鳥くらいしか来ないだろうと思われてた場所。でももしも大きな農場がやられたらマホテアの食糧事情が一気に悪くなるから、念の為にね」
見張りの仕事だと思って気楽にやれ、そう言われて送り出された持ち場だった。
そこに突然、オーガが現れた。
大人の2倍はあろうかという上背に隆々たる筋肉。手には巨大な大腿骨を棍棒代わりに握っている。
ちゃんとした盾を持った前衛の2人は、一瞬で殴り飛ばされた。
革鎧の戦士が振り下ろした両手持ちの長剣は分厚い筋肉で止まり、腕の一振りで弾き飛ばされた。
あっという間に、その場に立っているのはオーガとデレファンだけになった。
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