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第3章 まもり草の黒い花
鬼神デレファン
しおりを挟む軽装のデレファンはおそらく、オーガにとって敵とは見なされなかったのだろう。
ナイフの刃ですら止められるか怪しい布の服。短剣を構えるデレファンには一瞥もくれず、オーガは倒れている冒険者の方へと足を向けた。
逃げようと思えば逃げられたかもしれない。
だが、デレファンは、くやしさのあまり全身の血が逆流するのを感じた。
「農場に残っていた使用人からギルドに連絡が来て、すぐに冒険者が派遣されたの。彼らが現場で見つけたのは、オーガとにらみ合っている血まみれのデレファンだった…」
「ひゃっ!?」「えっ!?」「なんと!」
ルルーシェの説明に、みんな声を上げる。
あわててデレファンを見ると、…あれ? 気まずそうな顔で目をそらしてる?
「デレファンの前にいるオーガも、同じように血まみれだったそうよ。利き手らしい右腕をダラリと下げ、足を引きずりながらうなり声を上げてた。デレファンは救援に来た部隊に気づきもせずに…、ううん、それが良かったのね。目線を外したら、やられてたかも知れない。そのままオーガに負けないくらいの大声で吠えて威嚇し、短剣だけでオーガに飛びかかって行った…」
殺られる…!
その場にいた誰もがそう思った。
オーガが全力で振り下ろす拳。当たれば頭蓋骨ですら砕きかねない。その風圧ですら、恐怖感を抱かせるには充分だろう。
だがデレファンはオーガの懐に飛び込んだ。体をひねって拳を避けながら、その手首の腱を傷付ける。短剣では深手を負わせられない。が、刃がブレぬ様に柄を支え、相手の攻撃を受け流すようにして肉を切り裂く。
刃は太い血管を傷つけ、大量の血が飛び散る。デレファンは全身に返り血を浴びながらも体勢を立て直し、振り返ってオーガをにらみつける。その鬼気迫る気迫に、救援に来た冒険者たちは冷や汗をかいたという。
両腕と両足の腱を傷つけられ、オーガは吠えた。
吠える事しか、できなかった。
もう手足は利かない。
そんなオーガにデレファンは飛びかかり、構え直した短剣でメッタ刺しに……
「あうあうあう~……」
あまりの恐ろしさに、私は震え上がった。
「ノリ過ぎだよ、ルルーシェ」
「ご、ごめんなさい。大丈夫?、ミリアナ」
デレファンに注意され、さらに私の目に涙がにじんでるのを見て、ルルーシェさんはあわてて話を打ち切った。
「つい、冒険者仲間に話す様な調子でヤっちゃったわ。本当にごめん」
「ううう、いいんです。それで? デレファンは助かったんですよね?」
「オイオイ、俺は幽霊かよ」
瞬間、部屋が笑いに包まれ、雰囲気が明るくなった。
「本当にごめんなさい。調子に乗っちゃって…。ごめんね」
ルーベンさんとマグリーにも謝るルルーシェ。
「兄さん…そんなに強かったのか」
いつになく真面目な視線でマグリーに見つめられたデレファンは、
「いやー、実はそん時ン事、あんまし覚えてないんだよなぁ」
と頭をかく。
「母さん達を守らなきゃ、とか、殺らなきゃ殺られるって必死になったのは覚えてんだ。自分の技量と武器でオーガを倒すには腱を狙うしかないって決めたことも。でも、その後は頭がカアッと熱くなっちゃって、…気が付いたら目の前にオーガが倒れてた」
オーガと言えば、場合によっては軍隊が出動することもある程の危険な魔獣だ。それを里に降りてきたイノシシか何かの様に倒しちゃうなんて!
「助けに来た冒険者達があわてて駆け寄ると、デレファンはケロッとしていたんですって。大出血に見えた全身の血は、全部返り血で怪我ひとつしてなかったそうなの。で、その時付いた呼び名が『鬼神デレファン』、なのよ」
聞き終わったルーベンさんは頭を振りつつ、
「いやはや。私は息子が二つ名を持っている事すら知りませんでしたよ。驚きです。さて、お茶をもう一杯、淹れてきましょう。いえ、ルルーシェさん、そのままそのまま」
そう言うと何か考え込む様子で炊事場の方へと歩いて行った。
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