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第3章 まもり草の黒い花
ノームの隠れ里
しおりを挟む「ホルスト郷ってどんな所?」
馬車の荷台に寝っ転がるデレファンに聞く。
今日は珍しくルーベンさんが手綱を握っているのだ。
「そうだなぁ……うーん…」
言葉を探すデレファンの代わりにマグリーが答える。
「魔法の村。土精族の隠れ里さ」
「え? ノーム?」
私は思わず聞き返す。
「ノームって本当にいるの? 物語の中だけじゃなくって?」
物語に出てくるノームは、どこからともなく現れる勤勉な妖精だ。
真面目な働き者が大好きで、眠っている間に仕事道具を綺麗に磨いてくれたり、見渡す限りの麦畑を一晩で刈り取って納屋に麦を積み上げてくれたり、母親思いの子供に魔法の薬を分けてくれたりする。
ただしとっても気難しい。気に入ればすごく良くしてくれるけど、見限ったらプイと居なくなってしまう。
でも、本物のノームに会ったという話を聞いた事がない。
「何だよ、ミリアナ。物語に出てくるエルフは信じてるのにノームは信じないの?」
笑うマグリー。
「いじわる!」
ほっぺをふくらませてにらんだら、さらに笑われた。
「ノームは、あまり友好的ではないんだ。乱暴だって意味じゃないぜ? ひっそりと自分の仕事、細工物や魔法の研究に打ち込むのが好きで、邪魔をされるのが好きじゃない。一度仲良くなってもノームの事を言いふらすと嫌われてしまうんだ。だからノームと付き合いがあるヤツは絶対にしゃべらない」
デレファンが起き上がりながら説明する。
「そうだったの。私…仲良くなれるかしら」
「ミリアナなら大丈夫だよ」
マグリーが軽く請け負う。
「いつも通りにしてれば。挨拶をきちんとして、ゆっくりと歩いて、会話はよく考えて時間がかかってもいいけど大声を出さない。それから、仕事の邪魔をしない。立ち入り禁止の場所に勝手に入らない」
「あとは…、仕事の出来栄えを褒める。つまり、細工物や庭仕事や料理を褒める。身長の話はタブーだ。天気は大丈夫。お茶に誘われたら断ってはダメ。二杯飲んだら席を立っても構わない」
マグリーが基本的な注意を、デレファンが追加のコツを教えてくれた。
ルーベンさんが御者台からチラリとこちらを見たが笑顔だったので、たぶん注意は間違っていないのだろう。
馬車が進むにつれ、周りの森の様相が変わってきた。
木は高くなり、下生えの雑木はうっそうと生い茂り、今までとは違う植物が目立つ。
途中、いくつかの分かれ道を経て森の奥まで来たようだ。何回か同じ場所を通ったような気もするが気のせいだろう。
薄暗い森の中、車輪の音だけが響いている。
やがて、馬車が止まった。
大きな岩壁の前。左右に森が迫っているので、方向転換も難しそうだ。
(…道を間違えた?)
恐る恐る御者台の方をうかがう。でもルーベンさんに慌てている様子はない。
デレファンとマグリーも黙っている。
「…何?」
「しっ」
状況を聞こうとしたら、マグリーに止められた。唇の前に人差し指を立て、声を出さない様にと合図される。
やがて、
ホーホー、ホーホー。
フクロウの鳴き声が聞こえた。
(こんな昼間に?)
訝しがる間も無く、ルーベンさんが内ポケットから何かを取り出す。
小さくて丸い焼き物?
穴がたくさん開いている。
それを両手で包み込む様に持つと、口を当て、静かに吹く。
ホー、ホー。ホゥ、ホゥ、ホゥ。
フクロウの鳴き声に聞こえたのは、どうやら笛の音の様だった。すると、
「よう!」
近くにあった小さな茂みが持ち上がり、その下の穴の中から小柄な男が顔を出した。
え? この人がノーム??
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