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第3章 まもり草の黒い花
長いつきあい
しおりを挟む「やあ、しばらく」
ルーベンさんは驚きもせず、片手を上げて小男に挨拶をする。
「今月も来たな? 太っちょの髭モジャの業突く張りめ」
「もちろんですよ。モグラさん」
「よく見ろ。俺はモグラじゃない。奴らはもっと小さいぜ。そして畑を荒らすクソッタレだ」
「これは失礼。お詫びにコレをどうぞ」
そう言うと、小さな水筒を小男に放った。
小男は上手に水筒を受け取ると、フタを開けてグビリと飲む。
「ふうむ。いいね。クラカッサの蒸留酒か?」
「12年物だそうですよ」
「ううむ。いいね」
もうひと口、グビリ。
「おい! コッチにも寄越せ!」
反対側の太い木の幹が音を立てたかと思うと窓の様に開き、別の小男が顔を出した。
「フン。俺の仕事は終わったんだ。お前も早く仕事を終えるんだな」
茂みの下の男が言う。手に持った水筒をこれ見よがしに振るとチャポチャポと音がした。
「く、くそう。よし、一人づつ名前と目的を言え。顔見知りでも規則は規則だ」
ハリボテの木の幹から顔を出した男が叫ぶ。
「コータルタイの商人、マクス・ルーベンです。今月も行商に参りました」
「よし、次!」
男の目がルーベンさんの後ろに移る。
「息子のデレファン・ルーベン。商人。親父の手伝いだ」
「お前は商人じゃねーだろ」
「商人だよ」
「冒険者」
「ああ、冒険者もやってる」
デレファンは渋々と認めた。
「よし、次!」
「マグリー・ルーベン。俺は商人…の見習いかな? 同じく父さんの手伝いです」
ノームはマグリーの申告には文句をつけず、フンと鼻を鳴らしただけだった。
「よーし、通って……いや、今月はもう一人いるな?」
男は背伸びをしてこちらをのぞき見る。
私は幌から身を乗り出し、みんなと同じ様に自己紹介をした。
「ウモグル村のミリアナ・グレウス・ユウレンド。仕事は…これから面接を受けに行くところなの。マホテアまでルーベンさんの馬車に乗せてもらっています」
男の返事はない。呆気にとられた様に私を見ている。
何か悪い事を言ってしまっただろうか?
「知人に頼まれましてね。非常に信心深い女性が親代わりで、とてもいい子ですよ」
ルーベンさんも言葉を添える。
「ああ、いや……その、」
小男は何か思い出そうとするかの様に、髭が薄いアゴをなでながら、
「…うん。問題ない。よし」
幹から顔を出した男はウンウンとうなずき、茂みの下の男に声をかける。
「終わったぞ。寄越せ!」
「ほらよ」
酒の入った水筒を投げる。ちゃんと半分、残してあったようで、つかみ取るとチャポリと音がした。
急いでフタを開けて口元へ。
グビリ。
「ふむう…」
ゆっくりと味わうように、もうひと口。
中身がなくなった水筒のフタを閉め、ルーベンさんに投げ返しながら小男がささやく。
「グーテルーデに子供ができた。祝いの品を勧めてみろ」
続いて茂みの下の男もささやいた。
「マジルカジルは新しい肩掛けを欲しがっている」
それから小男は二人とも、元通りに偽装の仕掛けをセットし直した。
すると、そこに誰かが隠れているなんて、全く分からなくなった。どこから見ても普通の茂みと木だ。
ホホゥ、ホホゥ、ホホゥ。
あの、フクロウの鳴き声のような音。すると、
キリキリキリキリ……
かすかに何かが軋み、馬車の前方にあった大きな岩がなめらかに動いた。
その先に道が続いている。
「「 ホルスト郷に、ようこそ! 」」
反響して出所の分からない声が来訪者を出迎える。
幌馬車が秘密の入り口を通り抜けると、岩の様なカバーはゆっくりと元の場所に戻った。
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