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第3章 まもり草の黒い花
六角館へ
しおりを挟む幌馬車は暗い森の中の一本道を進んでゆく。
しばらくすると道の両側に低い石垣が見えてきた。その石垣を境に森が終わり、周りが明るくなる。
「聖域を抜けたぞ」
デレファンが言う。
「ただし、ここからはもう土精族の領域だ」
「ノームの国なの?」
「国というほどじゃない。自治区、かな。先の大戦での功績で、この辺り一帯の権利を獲得したんだ」
「彼らは人見知りだけど、作った細工物や魔法薬は他の種族に売ってくれる。付かず離れずの関係なんだ」
マグリーも詳しい。
「あまり人見知りには見えなかったわ」
私は顔をしかめる。
「はははは。確かに少し、クセがありますな。でも、気の良い奴らですよ、さっきの門番達も。あまりに訪問者が少ないため、ジッと隠れているのがヒマ過ぎてツライんだそうです。だからああして、時々からかってやるんですよ」
「長い付き合いの父さんにしか、あんな遊びはできないよ。加減が分からずに迂闊な口を聞いたが最後、里から放り出されそうだ。俺なんかいつも文句付けられる」
「兄さんはちょっとガサツだからだよ。大丈夫さ、ミリアナ。里には親切な人が多いから」
ノームというのが皆、あの門番達の様な性格だったらどうしようかと思ったが、どうやらそうではなさそうで安心した。
やがて、道の左右には畑が目立つ様になってきた。
季節の野菜が育っている。遠くには小麦畑も見える。よほど手入れが良いのか土が良いのか、どの農作物も見事な出来栄えだった。
それだけでない。ちょっとした場所に色とりどりの花や草が植えてあり、それがまた素晴らしく美しいのだ。色や形、高さなどを考えて植物が配置されており、アクセントに石や彫像、小さな柵などが添えられ、通る人が見て楽しめるように考えられている。場所によっては、その植え込みを眺めながら一休みできるように小さな椅子まで置いてある。
気持ちの良い里だ。
「あれは何?」
見慣れない物を指差し、マグリーに聞く。
「どれ?」
「あの…、小さな丘みたいな物」
「ああ、あれはノーム達の家だよ」
「家!?」
所々にある小高い丘には、普通に雑草が生えたり花が咲いたりしている。
「んー、でも、よく見ると確かに煙突が出ているみたい…?」
目の上に手をかざし、背伸びして観察する。
「彼らの家は半地下なんだ。半分、土に埋まってる。そして壁にも土を塗り、屋根にも土を盛る。意外と夏は涼しく冬は暖かいらしいよ」
「へえええ…!」
「ほら、あそこ。窓が開いてる」
右手前方にある丘の中腹には、丸くくり抜いたように穴が空いていた。そこにはガラスをはめた窓らしき物が付いている。
窓からは小さな子供がこちらを見ている。
私が手を振ると子供は驚いたように飛び上がり、それから手を振り返してくれた。
ホルスト郷の中心らしい広場まで来ると、私はまた驚く羽目になった。
「人間族風の…家??」
「あはは、デカイだろう!」
マグリーが笑う。
目の前には石の土台と木材の壁と屋根が付いた一見「普通」の建物があった。
普通でないのは大きさだ。アゼッサの町にあった「歌う小鳩亭」よりもさらに大きく、広い。それに、よく見ると四角ではなく六角形をしていた。
「驚いたかい? ここはね、ノームの集会所なんだ。六角館と言ってね、族長達の会議室と、大族長の特別室と、客をもてなす迎賓館、それに役所と神殿と、そういった公共の施設を全部集めた建物なんだよ」
ルーベンさんは説明しながら手綱を操り、馬車を建物の前庭にある大きなテントの下に止めた。
派手な色の布を使ったカラフルなテントだ。何色もの色を使っていて楽しく華やかに飾り立てられている。側には「ルーベン商店 月に一度」の旗まである。
「すごい! 専用の車庫ね!」
「ノーム達がいつの間にか作ってくれたんだってさ。あ、ここ、花飾りが増えてる」
「見て! マグリー。ここの模様、こっちにつながってるよ?」
「ホントだ! 気がつかなかった。芸が細かい…」
建物の陰に、こちらの様子をうかがっているノーム達が見えた。
「とても素敵なテントね!」
声をかけると彼らは満足そうに眉を上げ、笑顔で去って行った。
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