世界樹の管理人

浅間遊歩

文字の大きさ
47 / 77
第3章 まもり草の黒い花

六角館へ

しおりを挟む

 ほろ馬車は暗い森の中の一本道を進んでゆく。
 しばらくすると道の両側に低い石垣が見えてきた。その石垣を境に森が終わり、周りが明るくなる。

「聖域を抜けたぞ」

 デレファンが言う。

「ただし、ここからはもう土精族ノームの領域だ」
「ノームの国なの?」
「国というほどじゃない。自治区、かな。先の大戦での功績で、この辺り一帯の権利を獲得したんだ」
「彼らは人見知りだけど、作った細工物や魔法薬は他の種族に売ってくれる。付かず離れずの関係なんだ」

 マグリーも詳しい。
 
「あまり人見知りには見えなかったわ」

 私は顔をしかめる。

「はははは。確かに少し、クセがありますな。でも、気の良い奴らですよ、さっきの門番達も。あまりに訪問者が少ないため、ジッと隠れているのがヒマ過ぎてツライんだそうです。だからああして、時々からかってやるんですよ」
「長い付き合いの父さんにしか、あんな遊びはできないよ。加減が分からずに迂闊うかつな口を聞いたが最後、里から放り出されそうだ。俺なんかいつも文句付けられる」
「兄さんはちょっとガサツだからだよ。大丈夫さ、ミリアナ。里には親切な人が多いから」

 ノームというのが皆、あの門番達の様な性格だったらどうしようかと思ったが、どうやらそうではなさそうで安心した。

 やがて、道の左右には畑が目立つ様になってきた。
 季節の野菜が育っている。遠くには小麦畑も見える。よほど手入れが良いのか土が良いのか、どの農作物も見事な出来栄えだった。

 それだけでない。ちょっとした場所に色とりどりの花や草が植えてあり、それがまた素晴らしく美しいのだ。色や形、高さなどを考えて植物が配置されており、アクセントに石や彫像、小さな柵などが添えられ、通る人が見て楽しめるように考えられている。場所によっては、その植え込みを眺めながら一休みできるように小さな椅子まで置いてある。
 気持ちの良い里だ。

「あれは何?」

 見慣れない物を指差し、マグリーに聞く。

「どれ?」
「あの…、小さな丘みたいな物」
「ああ、あれはノーム達の家だよ」
「家!?」

 所々にある小高い丘には、普通に雑草が生えたり花が咲いたりしている。

「んー、でも、よく見ると確かに煙突が出ているみたい…?」

 目の上に手をかざし、背伸びして観察する。

「彼らの家は半地下なんだ。半分、土に埋まってる。そして壁にも土を塗り、屋根にも土を盛る。意外と夏は涼しく冬は暖かいらしいよ」
「へえええ…!」
「ほら、あそこ。窓が開いてる」

 右手前方にある丘の中腹には、丸くくり抜いたように穴が空いていた。そこにはガラスをはめた窓らしき物が付いている。
 窓からは小さな子供がこちらを見ている。
 私が手を振ると子供は驚いたように飛び上がり、それから手を振り返してくれた。

 ホルスト郷の中心らしい広場まで来ると、私はまた驚く羽目になった。

人間族ヒューマン風の…家??」
「あはは、デカイだろう!」

 マグリーが笑う。
 目の前には石の土台と木材の壁と屋根が付いた一見「普通」の建物があった。
 普通でないのは大きさだ。アゼッサの町にあった「歌う小鳩亭」よりもさらに大きく、広い。それに、よく見ると四角ではなく六角形をしていた。

「驚いたかい? ここはね、ノームの集会所なんだ。六角館と言ってね、族長達の会議室と、大族長の特別室と、客をもてなす迎賓館、それに役所と神殿と、そういった公共の施設を全部集めた建物なんだよ」

 ルーベンさんは説明しながら手綱を操り、馬車を建物の前庭にある大きなテントの下に止めた。
 派手な色の布を使ったカラフルなテントだ。何色もの色を使っていて楽しく華やかに飾り立てられている。側には「ルーベン商店 月に一度」の旗まである。

「すごい! 専用の車庫ね!」
「ノーム達がいつの間にか作ってくれたんだってさ。あ、ここ、花飾りが増えてる」
「見て! マグリー。ここの模様、こっちにつながってるよ?」
「ホントだ! 気がつかなかった。芸が細かい…」

 建物の陰に、こちらの様子をうかがっているノーム達が見えた。

「とても素敵なテントね!」

 声をかけると彼らは満足そうに眉を上げ、笑顔で去って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました

蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。 だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...