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第3章 まもり草の黒い花
足りない薬草
しおりを挟む冒険者ギルドの奥の部屋へと消えて行ったデレファンを見ながら、ルーベンさんは苦笑い。
「お忙しいようですな」
「そうですね。詳しい事情は知りませんが、朝からずっと人を待っているようでした」
ルーベンさんは毎月行商に来ているので、今日到着することが分かっていたのだろう。デレファンは実際に魔獣に遭遇した本人だし、何だったら食べられかけたくらいなので、きっとうまく説明するに違いない。
「では、これが今月分の申請です」
ルーベンは懐から用紙を取り出し、ララウに渡した。事前に必要な薬草類の量を書き出しておいたものだ。
「承ります。しばらくお待ちください」
私達は取引カウンターの横にあるベンチに座った。
ララウが持って行った申請書に従い、奥の作業場では机の上に薬草類が積み上げられてゆく。
私達が聖域で摘んだのと同じ薬草もある。ただし量は桁違いだ。
よく使われる薬草類は大きな束で数えられている。見たことのないキノコや乾いた根のような物は魔術の触媒かも知れない。
しばらくして、作業員の手が止まった。ノーム語でララウと何やら話し込んでいる。
ララウがちょっと困った顔をしながら戻って来た。
「すみません、ルーベンさん。実は……リアン草の畑がいくつか病気で全滅してしまい、必要な数がそろわないのだそうです」
「おやおや。ノームの畑でもそんなことが?」
「私達は草木を育てるのが得意ですが、万能ではありません」
ララウは申し訳なさそうに、
「そこでご相談なのですが…。新しく種をまいたリアン草が、そろそろ花を付けるまでに育っているので、少し早いがそれでどうか?と。畑で現物を見て、自由に選んでもらって構わないそうです。よろしければ畑までご足労願えませんか?」
ルーベンさんに異存はなく、私達はノームの畑を訪ねることになった。
ノームの畑が見られるなんてちょっとワクワクする。
リアン草は、邪気を祓い呪いを解く解呪薬の材料だ。
すらっと長い茎と葉に、頭頂に咲く六弁の白い花。薬効が高いのは、その花が咲いて間もない頃だという。だから収穫間近なリアン草の畑は、風に揺れる濃い緑の草の中に白い花がそこかしこに咲く、とても美しい場所だった。
「わぁ、素敵!」
つい興奮してしまう。
「今日は暖かいからか、だいぶ咲きましたね。これなら集めれば足りるんじゃないかしら」
「ツボミが開きかけの物でも大丈夫だと聞いたことがあります。ええ、足りると思います」
ララウもルーベンさんも、取引がうまく行きそうで安心したようだ。
「これ…、全部、リアン草なのか」
「あっちはスクラト草で、向こうにはクラン・クランが植えてあるだで」
マグリーの隣に立っている麦わら帽子のノームが答える。
「すげえや。こんなにたくさんの薬草、見たことない!」
「それに…とっても元気が良くて見事ね!」
私達の言葉に、畑の持ち主であるコラドモラド氏は照れ臭そうに鼻をかく。
「じゃ、選んだら声をかけてくだせえ。すぐに刈りますだで」
と、手に持った鎌を見せる。
私達は畑に入り、リアン草を踏まないように気をつけながら採取する株を探す。
花が開ききっているものはほとんどない。でも、ツボミの中が見えるくらい開いているのがあれば教えて欲しいと言われ、手分けして探し始めた。
サクリ。
見つかったら、地面から5cmくらい上を鎌で切り取る。
そのまま養生しておくと、来年また芽が出て花が咲くのだそうだ。
サクリ、サクリ。
次々と収穫されるリアン草。あと少し欲しいというルーベンさんのために、隅々まで見て回る。
「あら…コレ……」
花を見つけた。
この畑に植えてあるのは全部、リアン草のはずだ。
「でも、コレって………」
リアン草、だろうか?
「見つけたかあ?」
のんびり声を掛けながら近づいて来るコラドモラドさん。
「あの…コレ……、そうですか?」
「どおれ?」
自信なさげに聞く私の手元を覗き込んだコラドモラドさんの表情が凍りついた。
そこに咲いていたのは、真っ黒な花だった。
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