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第3章 まもり草の黒い花
内密の話
しおりを挟む「本当に……よく来てくださいました」
ホルスト冒険者ギルド職員、土手柳の家のトリムクリムは何度も頭を下げながら言った。
「さ、さ、こちらへ」
窓のない小部屋は、いかにも内密の打ち合わせに向いた作りだ。ただし外壁には厚い擦りガラスが所々にはめ込んであって、外の光を取り入れてるので暗くはない。夜になれば魔法か魔道具の明かりをつけるのだろう。
「支部長の、桃花心木の家のポルトコルトが里の入り口まで迎えに行ったのですが……行き違いになったようですね」
トリムクリムは温かい薬草茶をデレファンの前に置きながら声をかける。
「迎えが来るとは知らなかった。馬車で来たんだ」
「そうでしたか」
デレファンの返事に、トリムクリムは納得したようだ。
「支部長はすぐに戻って来ると思います。しばらくお待ちください」
幸い、薬草茶は飲みやすいブレンドで苦くはなかった。
三杯目のお茶に手をつけようか迷っていると、トリムクリムが、
「支部長……遅いですね」
と、ため息をついた。
「アレの担当はわたくしなので、話を先に進めておいても構わないでしょう。…しばらくお待ちください」
そう言うと部屋から出て行った。すぐ隣でドアを開ける音がする。隣の部屋も冒険者ギルドの所有なのだろう。
やがてトリムクリムは平たい箱を抱えて戻ってきた。
「見ていただきたいのはコレなのです」
箱を、デレファンの前に置く。
低いテーブルなので身を乗り出すと自然とのぞき込む姿勢になった。
「コレが……」
ゆっくりと箱のフタを開ける。
「リアン草の『黒い花』です」
箱にはガーゼが敷いてあり、中央に一輪の花が置かれている。
すらっと長い茎と葉に、頭頂に咲く六弁の…黒い花。真っ黒な花だ。花弁だけでなく花芯まで黒い。
デレファンは一瞬、言葉を失った。だが、
「リアン草の花は、…白いハズだ」
ようやく、それだけ言った。
「ご覧の通りです」
「…珍しいな。色違いか?」
「いいえ。栽培家らは黒花病と呼んでいます。通常の花とは違い、黒い花は実を付けず、花が終わると株ごと腐るそうです。今までも何年かに一度は見かけたそうですが、それがこの一ヶ月、急激に増え始めたのです」
デレファンが顔を上げてトリムクリムを見ると、彼は言葉を続けた。
「畑丸ごとリアン草が全滅しました。5000株以上です」
「…………」
被害額は相当だろう。いや、それより、リアン草の供給が滞るのが痛い。
瘴気に当てられただけならともかく、呪いは放っておいても治るものではないのだ。
発動した呪いは編み込まれた呪詛の通りに瘴気で対象を蝕んでゆく。下手をすれば命に関わる。
アゼッサで見たリアン草の買い取り値段上昇はこれが原因かもしれない。
「それは……スゴイな。だけど……」
デレファンは首を傾げて聞いた。
「その話、何で俺に?」
「は!?」
トリムクリムは目を見開き、口をあんぐりと開ける。
「もちろん、病気の発生原因を探るためですよ。専門家のご意見を伺いたいのです」
「ちょっと待ってくれ。俺は薬草の病気なんか詳しくないぞ?」
「え、ええと。マホテアの冒険者ギルドから依頼を受けていらしたのですよね?」
「いや。俺はマホテア所属だが、マホテアから来たわけじゃない。行商人の護衛任務を遂行中に立ち寄っただけだ」
「ええええっ!?!?」
驚いて立ち上がるトリムクリム。
「そんな…、それじゃ、依頼受諾の連絡…あれ? 迎えに行ったのは……?」
混乱して右往左往するトリムクリムを見てデレファンは、
(ルルーシェの伝言がうまく通じなかったのって、コイツのせいじゃねーの?)
などと考えていた。
その時、ラッパの音がした。大族長が姿を見せる合図だ。
と言うことは、新しい来訪者の到着か?
デレファンは部屋のドアを細く開け、広間中央の様子を盗み見た。
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