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第3章 まもり草の黒い花
トラブルの内容
しおりを挟む広間の中央、大族長の特別室前には、案の定、人が居た。人間族が一人とノームが一人。
「黄金楓の家のグラウフラウ様、豊かなるノームの里の大族長様、お初にお目にかかります…」
人間の方は大族長に会見している。威厳ある風体の男性だ。今、到着したところなのだろう。
それを後方から見守る少し年配のノーム。立派な髭を生やしている。
滞在許可をもらった人間を連れ、髭のノームが冒険者ギルドへと歩いて来た。
「戻ったぞ」
「あ、支部長!」
相談室を飛び出したトリムクリムが泣きそうな顔で走り寄る。
「いやぁ、先生だけでも里に入れて良かった。連絡をもらった時には肝を冷やしましたよ」
支部長らしい髭のノームが後ろの男性に向かって話しかける。
「やれやれ…、護衛に雇った冒険者が良くなかった。聖域を抜けるだけだからと無石を二人ばかり安く雇ったのだが……姿を見せない門番にキレて剣を抜いたのだ。事前に言い聞かせておいたのだが……申し訳ない」
「えええっ!? 大丈夫でしたか?」
慌てるトリムクリムに支部長のポルトコルトは笑いながら、
「もちろん、二人とも弾き飛ばされたさ。かなり遠くまでな。死にはしないが、打撲や擦り傷は免れまい。さらに半日分の記憶喪失だ。戻っては来れないだろう」
「馬鹿者どもには良い薬だ! 運ばせていた私の荷物が飛ばされなくて良かった。いや、私まで危ない所だったぞ、全く」
「そういう所は細かいですからね、あの門番達。さあ、先生。こちらへ」
プリプリと怒っている先生をなだめつつ、相談室へとやって来るノーム達。
部屋に入ろうとして、ようやく扉の陰に居るデレファンに気づいた。
「どうぞ」
デレファンが道を譲ると、先生と呼ばれた男は目礼しながら小部屋に入る。
だが支部長の方は、怪訝な顔で問いかける。
「君は?」
「マホテア所属のデレファン・ルーベン」
デレファンは首から下げた認識票を指に引っ掛け、支部長に見せた。
「デレファン…?」
先に反応したのは、部屋の奥に入った先生の方だった。
「あの、デレファンかい? 鬼殺しのデレファン?」
「はあ、まあ、その様に呼ばれる事もあるみたいです」
「そうか、君はホルスト郷に入れるのか。君を雇えばよかったよ」
「行商人の護衛任務中なんで」
「ああ、ルーベン氏の息子か」
支部長はようやく、毎月やってくる商人の護衛だと気づいた様だ。
トラブルがあって迎えに行ったというのが、この先生なのだろう。
連れの冒険者があの門番達に剣を抜いたとなれば、命があっただけめっけもんだ。
「私は植物学者のハリス・ヒューロン。ホルスト魔法薬草商会の招待でやってきた。正直に言えば、私は植物の学者で、植物の病気の学者ではない。だが、まずはこの未知の病気について可能な限り調査をしようと思う」
デレファンは、うなずきながら机の上を目で示した。学者先生はすでに気づいていたようで、
「うむ。初めて見る」
慎重に、机に置かれたリアン草に近づく。
上着を脱ぎ、トリムクリムに預けてから、花の前にある椅子に腰掛けた。
リアン草が入っている平たい箱をがっしりとつかみ、顔を近づける。
「大きさや形状に異常はない。ごく普通の、質の良いリアン草に見える。花の色以外は。……カバンを」
「あ、はい。どうぞ」
支部長のポルトコルトに持たせていた革の鞄から虫眼鏡とピンセット、それに小さなメスを取り出す。
「あっ! 待ってください!」
リアン草を触ろうとしたハリスに、トリムクリムが声を上げる。
「黒い花の咲いたリアン草を大量に処分した若者が、原因不明の体調不良で倒れたのです。毒があるかも知れません!」
「またか、トリムクリム。検査したが毒は検出されなかったじゃないか」
「ですが支部長…」
「いや、ありがとう。気をつけて調べるとしよう」
ハリスはカバンから薄い布の手袋を取り出してはめ、メスを持ち直した。
「まずは、この黒い色素がどこまで広がってるか知りたいのだ」
「そういや、茎や葉の色はそのままだな」
「うむ」
デレファンの言葉を肯定するハリス。
「綺麗に見えるが、例えば芯が腐っているとか寄生虫がいるとか、……とりあえず切り開いて中を見てみよう」
そう言うと、ハリスはゆっくりと薄い刃をリアン草に差し込んだ。
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