52 / 77
第3章 まもり草の黒い花
トラブルの内容
しおりを挟む広間の中央、大族長の特別室前には、案の定、人が居た。人間族が一人とノームが一人。
「黄金楓の家のグラウフラウ様、豊かなるノームの里の大族長様、お初にお目にかかります…」
人間の方は大族長に会見している。威厳ある風体の男性だ。今、到着したところなのだろう。
それを後方から見守る少し年配のノーム。立派な髭を生やしている。
滞在許可をもらった人間を連れ、髭のノームが冒険者ギルドへと歩いて来た。
「戻ったぞ」
「あ、支部長!」
相談室を飛び出したトリムクリムが泣きそうな顔で走り寄る。
「いやぁ、先生だけでも里に入れて良かった。連絡をもらった時には肝を冷やしましたよ」
支部長らしい髭のノームが後ろの男性に向かって話しかける。
「やれやれ…、護衛に雇った冒険者が良くなかった。聖域を抜けるだけだからと無石を二人ばかり安く雇ったのだが……姿を見せない門番にキレて剣を抜いたのだ。事前に言い聞かせておいたのだが……申し訳ない」
「えええっ!? 大丈夫でしたか?」
慌てるトリムクリムに支部長のポルトコルトは笑いながら、
「もちろん、二人とも弾き飛ばされたさ。かなり遠くまでな。死にはしないが、打撲や擦り傷は免れまい。さらに半日分の記憶喪失だ。戻っては来れないだろう」
「馬鹿者どもには良い薬だ! 運ばせていた私の荷物が飛ばされなくて良かった。いや、私まで危ない所だったぞ、全く」
「そういう所は細かいですからね、あの門番達。さあ、先生。こちらへ」
プリプリと怒っている先生をなだめつつ、相談室へとやって来るノーム達。
部屋に入ろうとして、ようやく扉の陰に居るデレファンに気づいた。
「どうぞ」
デレファンが道を譲ると、先生と呼ばれた男は目礼しながら小部屋に入る。
だが支部長の方は、怪訝な顔で問いかける。
「君は?」
「マホテア所属のデレファン・ルーベン」
デレファンは首から下げた認識票を指に引っ掛け、支部長に見せた。
「デレファン…?」
先に反応したのは、部屋の奥に入った先生の方だった。
「あの、デレファンかい? 鬼殺しのデレファン?」
「はあ、まあ、その様に呼ばれる事もあるみたいです」
「そうか、君はホルスト郷に入れるのか。君を雇えばよかったよ」
「行商人の護衛任務中なんで」
「ああ、ルーベン氏の息子か」
支部長はようやく、毎月やってくる商人の護衛だと気づいた様だ。
トラブルがあって迎えに行ったというのが、この先生なのだろう。
連れの冒険者があの門番達に剣を抜いたとなれば、命があっただけめっけもんだ。
「私は植物学者のハリス・ヒューロン。ホルスト魔法薬草商会の招待でやってきた。正直に言えば、私は植物の学者で、植物の病気の学者ではない。だが、まずはこの未知の病気について可能な限り調査をしようと思う」
デレファンは、うなずきながら机の上を目で示した。学者先生はすでに気づいていたようで、
「うむ。初めて見る」
慎重に、机に置かれたリアン草に近づく。
上着を脱ぎ、トリムクリムに預けてから、花の前にある椅子に腰掛けた。
リアン草が入っている平たい箱をがっしりとつかみ、顔を近づける。
「大きさや形状に異常はない。ごく普通の、質の良いリアン草に見える。花の色以外は。……カバンを」
「あ、はい。どうぞ」
支部長のポルトコルトに持たせていた革の鞄から虫眼鏡とピンセット、それに小さなメスを取り出す。
「あっ! 待ってください!」
リアン草を触ろうとしたハリスに、トリムクリムが声を上げる。
「黒い花の咲いたリアン草を大量に処分した若者が、原因不明の体調不良で倒れたのです。毒があるかも知れません!」
「またか、トリムクリム。検査したが毒は検出されなかったじゃないか」
「ですが支部長…」
「いや、ありがとう。気をつけて調べるとしよう」
ハリスはカバンから薄い布の手袋を取り出してはめ、メスを持ち直した。
「まずは、この黒い色素がどこまで広がってるか知りたいのだ」
「そういや、茎や葉の色はそのままだな」
「うむ」
デレファンの言葉を肯定するハリス。
「綺麗に見えるが、例えば芯が腐っているとか寄生虫がいるとか、……とりあえず切り開いて中を見てみよう」
そう言うと、ハリスはゆっくりと薄い刃をリアン草に差し込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語
紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。
しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。
郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。
そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。
そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。
アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。
そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる