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第4章 新しい管理人
薔薇のお茶会
しおりを挟む(あら……?)
気がつくと、お婆さんが目を閉じている。うつらうつら…。うたた寝をしているようだ。
(どうしよう。寝ちゃった?)
けれどもちょうど、お茶が出来上がる頃には目を覚まして動き出した。
「さあ、いただきましょう」
薄く色づいたお茶をカップにつぎ分ける。小鉢に山盛りの焼き菓子もおいしそう。
「いただきます」
ふうわり、薔薇の香り。薔薇の実や山葡萄が入っているので味も良い。
ナッツの入った焼き菓子も美味しい。
(うう、食べすぎちゃう。でも、おいしい……あら?)
気づくとお婆さんはまた居眠りをしていた。うつらうつら…。
かと思うと動き出す。お茶をひと口、焼き菓子をひとかじり。そして花の話や里のうわさ話。
「お茶のお代わりはいかが?」
「はい! いただきます!」
(ふふっ。ウモグル村の道具屋のお婆ちゃんも、こんな感じだったなぁ…。お店の前で日向ぼっこして、おしゃべりしながらうたた寝してた。今日は気持ちの良い天気だから、なおさらよね)
暑くなく、寒くなく。花に囲まれたこの庭で、一日中過ごしたいような陽気である。
お婆さんの椅子には体を包み込むような背もたれが付いていて、お昼寝にもピッタリ。
何度目かのうたた寝から目を覚ましたお婆さんは、突然、今までとは違う声色で、
「そうだわ、アシェア。あなたこの間、コレを忘れて行ったでしょう?」
そう言うとエプロンのポケットから何か小さな物を取り出し、私の手に押し付けた。
「婆ちゃんがちゃんと取っておきましたからね。もう失くしては駄目よ」
どうやら、寝ぼけて人違いをしているらしい。きっとお孫さんか誰かだろう。
手を開いてみると、それは指輪だった。木の葉の彫刻がある金の指輪。朝露を模した宝石まで付いている。見るからに高級品だ。さすがにもらうわけにはいかない。
「さ、今度は忘れないように。すぐにしまって」
「あ、はい。…ありがとう」
お婆さんがあまり心配するので、とりあえず受け取ることにした。後で家族の人に返そう。ララウか大族長様でもいい。
私が指輪をベルトポーチにしまうのを見て、お婆さんは、ようやく肩の荷が降りたという風に大きく息をはいた。
「良かったわ。あなたに返せて……」
そう言いながら、また眠ってしまった。
安心したのか笑顔を浮かべている。
ノームのお婆さんは、今度はなかなか目覚めなかった。
帰って来いと言われた夕御飯の時間までにはまだ間があるけど、だいぶ日が傾いてきた。お茶は何杯も頂いたので、もう、おいとましても失礼ではないだろう。
でも、黙って帰るわけにもいかない。かといって、気持ちよく寝ているのを起こすのもかわいそうだ。
(どうしよう…。おトイレに行きたくなってきちゃった…)
空のカップを見つめて途方にくれていると、
「婆ちゃん、ただいま。……あれ?」
声に振り向くと男の人がいた。ノームにしては背が高い。私が来たのと同じ小道を通って来たようだ。ここの家の人だろうか?
「君は……ルーベンさんとこの娘さん」
ちょっと勘違いされてるけど、私のことを知っている。
確かどこかで……ああ、そうだ。
「冒険者ギルドの人?…ですよね。ここのお家の方ですか?」
六角館で見かけた顔だ。
「うん、そう。…ははぁ、婆ちゃんのお茶に呼ばれたな?」
テーブルの上を見て察したようだ。
「私、飾り小庭を見て歩いてたんですけど、うっかりこちらのお庭に迷い込んじゃって…」
「はは。この辺りの家の多くは大通りの方を向いてるけど、うちは土手柳をシンボルツリーにしたもんだから川の方を向いてるんだよねー」
と、薔薇の茂みの向こうに揺れる大きな柳の木を指差した。
「だから気がつかずに迷い込んで来る人が時々いる。そんで婆ちゃんに捕まるんだ」
あははー、と土手柳の家のトリムクリムは明るく笑った。
「あ、あの、会ったばかりでなんですけど、その…、おトイレ貸していただけませんか?」
恥ずかしいけどしょうがない。
「いいよ。そこの、赤い薔薇の向こうにある小屋がそうだ」
「ありがとうございますっ!」
場所を聞くや否や急いで向かう。
だって、薔薇のお茶を5杯も飲んだんだもん~!!
「ほら、婆ちゃん、起きて…」
後ろで、トリムクリムさんがお婆さんを起こす声が聞こえる……
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