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第4章 新しい管理人
また会いましょう
しおりを挟むトイレから帰ってくると、トリムクリムさんはお婆さんの椅子の隣に静かに立っていた。少し様子がおかしい。
「ありがとうございました。私、これで帰りますね」
声をかけるとこちらを向いた。何だか泣いていたみたい…?
「うん。デレファンによろしく」
「それから、これ…」
ポーチから指輪を取り出し、
「誰かの忘れ物らしいんですけど、お婆さん、寝ぼけて私に返してくれたの」
と、差し出した。すると、
「ああ、これ…、忘れ物だったのか。うん、婆ちゃんが大事にしてたな」
見覚えがあるらしい。
「でも、もう十年以上も前から持ってたはずだ。忘れた人ももう忘れてるんだろう。良かったら、君がもらってくれないか?……婆ちゃんの…形見に」
形見……?
「こんなに幸せそうな顔をして眠っている婆ちゃんは見たことがない。きっと、君とのお茶会が本当に楽しかったんだろう。ありがとう。婆ちゃんの最期の刻を幸せなものにしてくれて…」
視線の先に居る薔薇が大好きなノームのお婆さんは、ただ眠っているようにしか見えなかった……
「では、道中、気をつけてな」
大族長様が軽く手を上げて挨拶する。
いつもなら派手なパフォーマンスで見送られるらしいが、土手柳の家のお婆ちゃんが亡くなったばかりなので、鳴り物はやめたみたい。
私達も昨日、お通夜に参加した。たくさんの薔薇の花に囲まれたお通夜だった。
今日はもうマホテアに向けて出発するので、お葬式には参加できない。
良い事もあった。
見送りの列の中に、車椅子に座った青年とコラドモラドさんの姿。
「おら…おら、何て言っていいか…。息子はこの通り、起き上がれるようになったで」
青年が軽く頭を下げる。動くのが少しつらそうだが、表情は晴れ晴れとしている。
「今はまだうまく歩けなんだが、なあに、うんめぇモンたんと食わせて養生すりゃ元気になるって神官様が…ううっ」
コラドモラドさんは、うれし涙を流しながら、
「来月はきっと、息子の回復祝いのパーティーをやるだでよう。家族みんなで来てくんろ。畑さ取り戻してくれた末娘の嬢ちゃんも」
と、私を見る。
ああ、この人も、私をルーベンさんの養子だと誤解しているようだ。
「私ね、ルーベンさんの子供ではないの。マホテアまで送ってもらうところなのよ。名前は…、ミリアナ・グレウス・ユウレンド」
それを聞くと、コラドモラドさんは驚いた様に目を瞬いた。
「……ユウレンド…?」
それから急に笑顔になり、
「そうだったんかい。じゃ、ご両親によろしくな」
ズキリ、と胸が痛んだ。
未成年の子供に対する単なる社交辞令の挨拶だ。
そう、分かってはいるものの、少しつらい。
でも善意で言ってくれた言葉なんだから、気にしない様にしよう。
大勢のノームに見送られ、ルーベンさんの馬車は出発した。
「ミリアナ! またね! また来月、会いましょう!」
「ララウ!」
大きく手を振るララウ。
どうやら彼女も誤解したままの様だ。来月、また、ルーベンさんと一緒に私も来ると思ってる?
「ララウ、私……」
「バイバーイ!!」
あっという間にノーム達の姿が小さくなる。
馬車は、来た時とは少しだけ違う道を通って「外」へと向かう。
帰り道には検問はなかった。
ただ、どこからか、
ホー、ホ、ホ、ホー、ホルッホー
と、おかしな笛の音。
ルーベンさんも笛を口にし、
ホーーー
と、長くひと鳴き。
後ろの方ではキリキリキリ…と何かが軋む音。
きっと、作り物の岩が動いて道をふさいでいるのだろう。
私達はホルスト郷を出て、また聖域の「大森林」に戻ってきたようだ。
「大森林」の南側は、アゼッサ寄りの北側よりも暗く感じた。
木が多いのだろうか? 木漏れ日もあまり届かない。
美しいというより神秘的という感じ。
御者をデレファンに交代し、みんなを乗せた幌馬車は進む。
しばらく走っていると、突然、
「あーーーーーーーっ!!!」
デレファンが大声を上げた。
「どうしたの? 兄さん」
「何ですか?」
「大丈夫!?」
フレイムホースまで驚いて、耳をブルンと震わせ尻尾を神経質に振るっている。
「ルルーシェの伝言…、土蟲出現の件をギルドに念押ししとくって約束…忘れた」
ホルスト郷ははるか後ろだ。戻って門番に伝言を頼むのすら無理だろう。
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