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第1章 初めての旅
人混みで
しおりを挟むアゼッサは本当に大きな町だ。
建物がビッシリと立ち並び、馬車が通れるほど広い道は全て石畳で舗装され、大勢の人々が行き交っている。
基本的に商業の町であり、食べる物も自分で採ったり育てたりするのではなく、お金を出して買う。近隣の農家の人が作った野菜を毎朝売りに来るらしい。
街の中はいくつかの区画に分かれ、高級品を扱う区画は貴族のお屋敷の様な建物で一杯。静かで優雅な雰囲気が漂ってる。
私達がいるのは庶民向けの商店街。つまり、活気があって騒がしい。
「さあさ、見とってくれ! アゼッサ土産ならウチが一番!」
「ちょいとそこの嬢ちゃん、どうだい? このフルーツ! 今が食べ頃だよ!」
「え…ええと…」
「女の子なら食い気より色気だ! 見てくれ、このアクセサリー! 色もデザインもいいだろ?」
「あ、あの、その…」
「いやいや、この染物を見なよ。他では手に入らないよ?」
売り子に囲まれてしまった。ど、どうしよう~…
「こっちだ」
売り子の間に強引に割って入って来たマグリーが、腕をつかんで引っ張り出してくれる。
「あまり立ち止まるな。店の商品はチラチラと横目で見るんだ」
「そんなぁ、難しいよ。話しかけてくるし…」
「大丈夫。無視していいんだ、こういう所は」
「そうなの?」
でも無視するのは難しいから、売り子と目を合わさない様に早足で歩く。
「見てみたい店があったら覚えておいて。後で寄ろう」
「うん!」
返事をしてチラリと横の店を見た、その時、
ドンッ!
突き飛ばされた。
倒れない様に地面に手をついたが、すうっと背中が寒くなる。
あわてて振り返ると、見慣れたバックパックを持って逃げる人影。
「え…?」
背中に手をやると、背負っていたバックパックがない。
盗まれた!?
「ドロボーッ!!」
マグリーが鋭い声を上げる。
背負いヒモをしっかりと握りしめていたつもりだったが、突き飛ばされて手を離した隙に引ったくられたらしい。
「エルフの通行許可証!」
現金が入った財布よりも、あの綺麗なカードが先に浮かんだ。
世界樹のシルエットが美しい薄緑色のカード。あれがないと、これから先、通れない場所があるかもしれない。それに何より、あのカードはもう、私の宝物なのだ。
「返して! お金はあげるから!」
走って追いかける。だが引ったくりの足は速く、すいすいと人混みをすり抜けて遠ざかって行く。
ひらり。
目の端に、灰緑色の布地がひるがえった。
「……え?」
一陣の風と共に、灰緑色の塊が頭の上を飛び越えて引ったくりの方へと向かう。
ひらり、ひらり。
灰緑色のフード付きマントをまとった何かは、地面を蹴っては風と共に大きく飛び上がり、ほんの数歩で引ったくりを追い詰める。
「ゲッ! な、何だぁ?」
あせった引ったくりは奇声を発し、急いで細い路地を曲がった。
吸い込まれる様に、灰緑色の影も角を曲がる。
「ぐげぇっ!」
路地の奥から、うめき声が聞こえた。
ようやくたどり着いて角を曲がると、路地の奥には、手のひらに矢が刺さった男が居た。足元に私のバックパックが落ちている。手前には小型の狩弓を構えた人影。
ダン!
「ひぃっ!」
次の矢は男の顔の横をかすめ、後ろにある板塀に突き立った。
「盗んだ物を置いて去りなさい!」
射手は新しい矢をもう一本、弓につがえながら叫ぶ。
驚いた。フードで顔は見えないが、声は若い女性だ。
「ミリアナー! どこだー! 返事をしろーっ」
通りの方からマグリーの叫び声。私達が路地へと曲がるのを見落として見失ったのだろう。必死になって私を探している。
「ここよ! 私はここ!」
「ミリアナ! 無事か!?」
声に気づいたマグリーが路地に飛び込んでくる。これで3対1だ。
引ったくりの男は足元に落とした獲物にチラリと目をやったが、舌打ちをしながら横へと走って逃げた。
路地は行き止まりではなく、奥でLの字に曲がっていたのだった。
マントの女性は弓矢を構えたまま路地の奥まで行き、男が逃げた方向を確認してから荷物を拾い上げると、私の方を振り返って聞いた。
「盗られたのはコレだけ?」
「あ、はい!」
私は急いで走り寄る。
フードの奥には若い女性の顔があった。かなりの美人だ。
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