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第4章 新しい管理人
中央特別区
しおりを挟むマホテアに入るためのチェックは、アゼッサよりもずっとずっと楽だった。
ルーベンさんはマホテアで店を構えているので信用があるんだって。
私の通行許可証を見た時の兵士の反応も全く違った。
薄緑色のカードを見た兵士はちょっと驚いた顔をしたけど、すぐにカードを目の高さに持ち上げて右下の枠の中にある印章を確認した。
枠の中に浮き出た印章は透明だけど、陽にかざすと虹色に光る。角度を変えてよく見えるようにして確かめている。これなら判定機を使うより早い。
マホテアには、エルフの身分証明書で出入りする人もいるのだろう。
荷物の検査が終わった。
また誰かが文句を言いに走って来るんじゃないかと心配したが、そんな事はなく、
「終わりました。どうぞ」
と、通してくれただけだった。あまりにもあっけない。
ポクポクポクポク…
フレイムホースの足音が石畳に響く。
馬車はゆっくりと馬車専用通行帯を進んで行く。
「ミリアナ、今日はうちに泊まるんだろ? 母さんとフウガ兄さんを紹介するよ」
「…うん……」
「何か食べたいものある? 夕飯に出してもらうよ?」
「…うん……」
時々マグリーが話しかけてきたが、私の心はここにあらず。ずっと外を見ている。
「ダメだ。聞いてない…」
「…うん……」
「おやおや。大丈夫ですか?」
「マホテアに初めて来た奴は、よくこうなる。ほっとけ」
と、手綱を持つデレファンが頭を振る。
私が見ているのは世界樹だった。
大きい…という言葉では表しきれない。
その幹は天を支え、その根が世界を支えているという伝承が本当に思える。
そして、とても美しい。梢の上の方では、木漏れ日とは違う光がチラチラと瞬いている。
ぼーっと世界樹を見上げていた私は、ふと、ある事に気付く。
「世界樹……。私、あそこに行くの…?」
声がかすかに震える。だって、ものすごく高い…
私の視線の先を見たルーベンさんは、私が青ざめた理由を察したらしい。
「てっぺんまで登る必要はないですよ。安心して、ミリアナ」
と、肩に手を置いた。
「ホント? 良かった」
ホッとした。木登りか、階段か、どちらにしろ登るならすごく大変だよね。
むう。横でマグリーが笑いをこらえてる。
「行き先は、地名としての『世界樹』でしょうからね。あ、デレファン、次の角を右に」
「え? まずは商会の倉庫で積荷を下ろすんじゃないのか?」
「いえ、マホテアに着いたら1秒でも早く彼女を送り届けてくれというのが先方の要望で。先に『中央』へ」
「了解」
馬車が曲がると、大通りの真ん前に世界樹が見える。世界樹が街の中心らしい。
馬車が進むごとに世界樹が近づいて……来なかった。
「何だか全然、進まないみたい」
「世界樹が大きすぎて距離感が狂うんだよ。すぐそこに生えてる様に見えるだろ? 実際にはまだだいぶ先なのさ」
「マホテア七不思議の一つだな」
マグリーの説明にデレファンがウンウンとうなずく。
それから数分も走り続けて、馬車はようやく世界樹の近くまで来たようだ。
世界樹を見上げる角度が変わってきた。もう少しで到着しそう…
すると、急に建物が少なくなった。街路樹や花壇、ベンチなどが規則正しく並んでいる。芝生が植えられた大きな広場もある。
「公園? 街の中央に?」
真っ直ぐ世界樹に向かっていた大通りが終わり、突き当たりは左右に分かれていた。
その向こうには高い柵で囲まれた区域がある。中には木や草が生い茂り、柵の手前とは全く違う雰囲気になっている。
「柵の向こうがマホテアの中央特別区・【世界樹】です」
ルーベンさんが静かに言った。
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