世界樹の管理人

浅間遊歩

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第4章 新しい管理人

挑戦者たち

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「はぁ…はぁ……は、はははは……」

 出て来たのは、あの姿勢の悪い痩せた男だった。

「やった…やったぞ……とうとうやった…!」

 男は目を血走らせて叫んだ。ヨロヨロと階段を降りてくる。

「よくやった! クルキエ!」

 レグアーデ卿が走り寄る。

「首尾は? いかに?」

 問いかける声が期待で震えている。だが、

「ああ、もう夜が明けたのですね。やったぞ! 俺は登り切った!」
「…クルキエ…?」
「途中で何度、登るのをやめようと思ったか…。何時間もひたすら足を動かし…夜の闇にも負けず…世界樹を、制したのだ。登り切った! この俺が! 何人なんびとたりともたどり着いたことのない高みに!」
「な、何を言うておるのだ、クルキエ。しっかりせい!」
「ああ、レグアーデ卿、なぜココに…? 卿も登ってこられたのですか? さあ、二人で世界を見下ろしましょう…」
「………ッ!」

 男は、一晩かけて世界樹を登り切ったと信じているようだった。少し混乱しているらしい。
 レグアーデ卿は男を蹴り飛ばし、離れた。

「次! ブロウワード!」
「は…はい!」

 呼ばれて前に出たのは、非常に体格の良い大男だった。

「行け」
「…しかし、レグアーデ卿……」
「行け!!!」
「は、はいっ!」

 大男は弾かれたように飛び出し、その勢いのまま階段を駆け上がった。そして苦もなく扉を開け、世界樹の中に入る。

「む?」
「えええ?」

 ラグナルとジーナが驚く。

「どーなってんの?」

 どうやらあの扉を開けるのですら、本来は難しいみたい。
 ジーナの声に、レグアーデ卿がジロリとこちらをにらむ。

 そして10分、いやそれ以上が過ぎた。

 バタン!

 突然、扉が開いた。
 出て来たのは、さっきの大男。
 二、三歩歩いてから両手を広げ、満面の笑みを浮かべる。

「ああ……」
「ブロウワード!」

 レグアーデ卿は、今度は近づかずに遠くから声をかける。

「ブロウワード! どうであった? ブロウワード!?」
「あ、ああ、あああ~~~………」

 大男の声が次第に大きくなる。

「あぁ~っはぁ、はっ、ひっ、ひゃあはははは……」
「…………」
「ヒッ、ウヒッ、はあっ、ハッ、はっ、は、ヒアッ、ははは…アはハハ……」

 笑い続ける男の目はうつろで、焦点が合ってなかった。

「ふうむ。合格には見えんのう」

 ラグナルが首を振りつつ感想をべる。

「次は誰だ?」

 グルリと見回すドワーフの視線を避けようと、みんな目をそらす。

「お前さんか?」
「くっ…」

 レグアーデ卿がくやしそうに息を漏らす。だが、返事ができない。

 一体、中で何があったんだろう。

「世界樹の中には何があるの?」

 私は小さな声でジーナさんに聞いた。彼女は私を守るように立ってくれていたので、内緒話のように聞いたつもりだった。
 けれども静まり返っていたので、その質問はみんなに聞こえてしまったらしい。
 一斉にみんなが私を見た。

「ええっ?」

 ジーナが驚く。

「な、何だと? この子は住人の子ではないのか?」

 八つ当たりできる対象を見つけたレグアーデ卿は、ジーナに甲高い声で怒鳴り始める。

「自分らは部外者を入れておきながら、余を批判したのか? 世界樹をわたくしせんとは思い上がりもはなはだしい!」
「待ってくれ、この子は見学の…」
「あ、違うんです、私、コレ…!」

 急いで薄緑色のカードを取り出し、ジーナさんに見せる。

「ここには面接を受けに来たんです。さっきはすぐに説明できなくてごめんなさい!」

 カードがよく見えるように、ぐいと手を伸ばす。

「面…接?」
「はい」
「こ、このカード…」
「通行許可証です。私の。世界樹が…」

 世界樹が目的地なんです、と言おうとしたが、その前にジーナさんがガッとカードをつかんだ。

「見ろよ、ラグナル! クレヴァンシアスだ! アイツのサインがある!」
「ほう?」

 ラグナルは片眉を上げた。

「間違いない! 他の部分は読めないけど、このサインには見覚えがある。子供の頃、アイツの手紙を何度も配達したからサァ。間違いないよ!」

 ジーナがしがみついたカードを、ラグナルも横からのぞき込む。
 それからこちらを向き、うなるように聞いた。

「おい。用件は、何だと言った?」
「面接です。仕事の面接を受けに来ました」
「ふむ…」

 長いヒゲをつかみ、口をへの字にしたドワーフが、興味深そうに私を見る。
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