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第4章 新しい管理人
契約書にサインを
しおりを挟むその頃、ミリアナは途方にくれていた。
いつまで待っても面接が始まらない。面接が終わらない事には帰れない。
「ゆうくんのおうちも探さないとならないのに…」
ミリアナの隣では、小さな男の子がクークーと寝息を立てている。
クッキーを食べてお腹が一杯になったのかもしれない。
「手をつないで、あの階段を降りられるかしら? それから……あら?」
ふと目をやった机の上に、何かある。
ゆうくんを起こさないように気をつけてソファを離れ、大きな机に近づく。
そこには、
「……契約書?」
置いてあるのは、記入前の契約書。隣には羽根ペンとインク壺も置いてある。
「ええと、本契約による業務内容は以下の……あ、本になってる?」
契約書と書かれた紙を持ち上げると、それは1枚ではなく、小冊子になっていた。
「中央特別区・世界樹および世界樹(居住区含む)の管理。清掃、修繕、もしくはそれらを行う者の手配。家賃の徴収、納税の代行……」
これが、クレヴァンシアスさんの言っていた「仕事」だろうか?
世界樹の管理人。
清掃や修繕……そういえば、管理人が居ないから庭の手入れができてないってジーナさんも言ってた。手入れをする人じゃなくて、その許可を出す係が居ないって事なのかな? それなら私にもできそう?
「家賃? あ、(居住区含む)って、やっぱりどこかに住宅があるのね。ジーナさん達はそこに住んでるんだ。きっと」
あのドワーフのおじさんも特別区の住人に違いない。
「管理人用の住宅兼執務室貸与……きっと、ココと隣の部屋ね。住み込みの仕事って言ってたもの……、それから月々のお給料……え?」
驚いた。こんなにもらえるんだろうか?
ウモグル村だったら家族4人で優雅に暮らしてもまだ余る。
「街は物価が高いって聞いたけど…、あ、ここから住民税も払うのね」
それにしても破格だ。何で今までなり手がいなかったんだろう。
みんな困ってるのに。
「あいー」
いつの間にか、ゆうくんが隣に来ていた。契約書にサインをするための羽根ペンを差し出している。
「ゆうくんも、世界樹に住んでるの?」
「うんっ!」
大きく首を縦に振る。その勢いで転びそうになり、あわてて受け止める。
ゆうくんはやっぱり葉っぱの匂いがした。
「私もここに住んでいいかな?」
「うんっ! あい!」
元気よく答えて羽根ペンを差し出す。
「ありがとう」
笑顔で受け取る。
契約書をざっと読んだけど、特別難しい仕事にも思えない。庭や公共設備の手入れがあるけど、今までも基本的には業者を雇っていたようだ。机の上に連絡簿が置いてあり、特別区の住人や友人の住所の他に業者の連絡先も書いてある。
私は契約書の署名欄にサインした。
「さあ、これで……あっ!」
目の前で、署名をした契約書が光に包まれる。キラキラと輝く光の粒になり、ガラスのはまっていない大きな窓から外へと流れ出す。
後を追って窓の外を見上げると、光の粒は世界樹の幹にそって空へ登り、そこからどこかへ流れていった。
「行っちゃった……」
大丈夫なのかな?
「たー!」
声に振り向くと、窓の外の枝に、ゆうくんが座っている。
「えっ!?、危ないよ、ゆうくんっ」
「ばいばーい!」
ゆうくんは、まるで子リスのようにするすると世界樹を登っていく。
その後ろから風が吹き上げた。風は、ゆうくんを守るように取り巻いている。
誰かが抱きかかえているかのように危なげなく枝から枝へ飛び移るゆうくん。
「もしかして……風の精霊? だからこんな所で木登りできるのね?」
ルルーシェさんが使っていた風の精霊に似ている。
その通り、と言っているかのように、小さなつむじ風がミリアナをくるりと一周した。
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