今さら戻れと言われても....

きららののん

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ジュリアン殿下が逃げ帰ってから数日後。驚くべきことに、異母妹のセアラが自らヴォルガードの地へと現れた。

彼女はボロボロの馬車から降り立つと、見守る領民たちの前で、わざとらしくその場に崩れ落ちた。

「……お姉様! お願いです、お姉様! どうか……どうか私の毒を消してくださいまし!」

セアラの腕や首筋には、以前私が「刺客を雇って盛った」とされた毒の痣によく似た、どす黒い紋様が浮かび上がっていた。

「セアラ……。貴女、性懲りもなくまた自作自演を始めたのですか?」

私は冷ややかな視線で、地面に這いつくばる妹を見下ろした。

「ひどいですわ……! 私は本当に苦しくて……。王都の霧はお姉様の呪いのせいだと、皆が言っていますの。私に毒を盛り、国を呪い……そんなにお姉様は私が憎いのですか!?」

セアラの叫びに、周囲に集まった領民たちがざわめき始める。

だが、そのざわめきは彼女への同情ではなく、明らかな「困惑」と「不信」だった。

「……あの、聖女様。エリシア様が国を呪っているだなんて、本気で言っているのかい?」

一人の領民が口を開くと、次々と賛同の声が上がる。

「エリシア様は俺たちの命の恩人だぞ! この地を救ってくれたお方を悪く言うのはやめてくれ!」

「そ、そんな……。貴方たち、騙されているのよ! お姉様は恐ろしい魔女なのよ!」

セアラが必死に周囲に訴えかけるが、その瞳には隠しきれない焦燥が浮かんでいた。

「そこまでよ、セアラ。貴女が今纏っているその『毒の痣』……私の浄化の光で、今すぐ治して差し上げますわ」

私は一歩、セアラに近づいた。

「い、いや! 来ないで! 貴女の不浄な光なんて……!」

「不浄なのはどちらかしら? ……カシアン、お願いします」

背後に控えていたカシアンが、静かに頷き、その強大な魔力でセアラの動きを封じた。

「……離して! 離しなさいよ、この死神!」

「黙れ。エリシアの言葉を最後まで聞け」

カシアンの冷徹な声に、セアラが短く悲鳴を上げる。

私はセアラの前に膝をつき、彼女の「痣」にそっと手をかざした。

「『真実を照らす光よ。偽りの皮を剥ぎ、正体を暴け』」

私が祈りを捧げると、掌から眩いばかりの純白の光が溢れ出し、セアラを包み込んだ。

次の瞬間、セアラの体から立ち上ったのは、浄化の煙ではなく……どす黒く、腐臭の漂う魔力の残滓だった。

「……あ、ああああああっ!」

セアラが絶叫する中、彼女の肌に浮かんでいた痣が、ボロボロと剥がれ落ちていく。

それは毒などではなく、他人の生命力を吸い取る禁忌の魔道具が生み出した、偽りの刻印だった。

さらには、彼女が纏っていた「聖女のオーラ」までもが光に溶け、後に残ったのは、魔力が枯渇し、醜く顔を歪めた一人の執念深い女の姿だった。

「見て。これが、貴女のついてきた嘘の正体よ」

私は光の中に、過去の映像を浮かび上がらせた。

そこには、卒業パーティーの数日前、自ら毒を飲み、それを私のせいにしようとジュリアンに泣きつくセアラの姿が鮮明に映し出されていた。

「そ、そんな……嘘よ……消して! 今すぐそれを消して!」

セアラが狂ったように叫ぶが、領民たちの冷ややかな視線は変わらない。

「なんてことだ……。俺たちは、こんな嘘つきのために、エリシア様を追い出した国を信じていたのか」

「本当の魔女は、妹の方じゃないか!」

罵声の矛先がセアラへと向く。

そこへ、騒ぎを聞きつけたジュリアンが、騎士たちと共に駆けつけてきた。

「セアラ! 一体何の騒ぎだ……って、その姿は……!」

ジュリアンは、光に照らされて露わになったセアラの醜態と、宙に浮かぶ真実の映像を見て、言葉を失った。

「ジュリアン殿下。貴方が信じ守ってきた『聖女』の正体……とくとご覧ください」

私は勝ち誇ることもなく、ただ淡々と、かつての婚約者に告げた。

「……私は、私は……。セアラ、貴様……私まで騙していたのか!?」

ジュリアンが絶望的な声を上げる。

「殿下、もう遅いですわ。真実は暴かれ、貴方の目はもう開かれたはず。……この地から、この女を連れ去ってください」

カシアンがセアラを突き放すと、彼女は泥の中に転がった。

「嫌……嫌よ! 私は聖女なのよ! 皆、私を敬いなさいよぉぉぉ!」

セアラの悲鳴が虚しく響く中、ジュリアンは彼女の腕を掴み、引きずるようにして馬車へと押し込んだ。

二度と、この地を踏むことは許されない。

私はカシアンの腕に抱かれながら、遠ざかる馬車を静かに見送った。
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