​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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燦然たるシャンデリアの光が、かえって人の心の闇を深く照らし出していた。

王城の広間は、一瞬にして静寂の檻と化した。

その中心で、第二王子リュシアンが、実の兄である王太子マクシミリアンを指差している。

「マクシミリアン・フォン・アステリア! 貴様の非道、もはや看過できん。この場にて、エレオノーラ嬢との婚約破棄を宣言し、貴様を王位継承権から剥奪する!」

リュシアンの声は、劇場の役者のように朗々と響き渡った。

彼の傍らには、可憐な、あまりに可憐で毒々しい男爵令嬢クロエが、怯える小鳥を装って寄り添っている。

「……ほう。それは、国家の法に則った手続きか、それとも貴君の個人的な激情か。どちらだ?」

マクシミリアンの声は、氷細工を床に落としたような冷ややかさを帯びていた。

彼は手にしていたシャンパングラスを、給仕の盆に音もなく戻した。

「言い逃れは見苦しいぞ、兄上! 貴様がクロエに対して行ってきた、卑劣な嫌がらせの数々。証拠はこのリュシアンが握っている!」

「証拠、か。それは実に興味深い。私の書庫から消えた、あの退屈な手記のことではないだろうな?」

「白を切るな! クロエはこれほどまでに震えているのだ!」

リュシアンの怒声とは対照的に、マクシミリアンの瞳には深い虚無が宿っている。

私は、その傍らで、ただ立ち尽くしていた。

エレオノーラ・ド・ヴァランシエンヌ。

世間からは「毒婦」と揶揄される、マクシミリアンの婚約者。

私の心象風景は、いまや漱石の筆致を借りるならば「のっぴきならぬ暗雲」に覆われている。

「……マクシミリアン様。これはいったい、どのような趣向の余興でしょうか」

私は扇を閉じ、乾いた音を響かせた。

「エレオノーラ。余興にしては、役者の質が低すぎると思わないか?」

「左様でございますわね。喜劇としても、少々品性に欠けるようですわ」

「貴様ら! 死を目前にした罪人の分際で、まだそのような傲岸不遜な態度を!」

リュシアンが顔を真っ赤にして叫ぶ。

その隣で、クロエが「テア」という名の香水の香りを振り撒きながら、わざとらしく涙を拭った。

「マクシミリアン様……エレオノーラ様……。私、お二人のことは恨んでおりませんの。ただ、少しだけ、怖かっただけで……」

「黙れ、小娘。貴様のその、薄っぺらな同情が、かえって虫唾が走る」

マクシミリアンの言葉は、もはや剣であった。

「リュシアン。私が悪だと言うのなら、それで構わない。私は、私の美学に反する者すべてを排除してきた。それが王太子としての、私の『正義』だ」

「認めたな! ならば、同罪であるエレオノーラともども、貴様らを国外追放に処す!」

追放。

その二文字が、広間に集まった貴族たちの間に波紋のように広がっていく。

しかし、私の隣に立つマクシミリアンは、わずかに口角を上げた。

「……ついでに私も、悪なのですって?」

私は、独り言のように、しかし確かな拒絶を込めて呟いた。

「そうだ、エレオノーラ嬢! 貴様はマクシミリアンの悪行を助長し、クロエを精神的に追い詰めた。共犯者として、ついでに貴様も処罰の対象だ!」

ついで。

なんという、投げやりな言葉だろうか。

私の全霊をかけた「悪役」としての振る舞いが、この男にとっては「ついで」程度の価値しかないというのか。

「お聞きになりましたか、マクシミリアン様。私は『ついで』だそうですわ」

「ああ、聞こえたよ。随分と安い評価をされたものだ」

「屈辱ですわ。一生をかけて、この無作法な第二王子を呪ってやりたくなりました」

「ならば、付き合おう。地獄の果てまでとは言わないが、辺境の泥の中くらいまでは、道連れにしてやる」

マクシミリアンが、私の手を取った。

その指先は、驚くほど熱く、力強い。

「リュシアン。我々を追放するというのなら、今すぐこの場から消えてやろう」

「なっ……まだ兵も呼んでいないのに!」

「兵など不要だ。汚れた空気の中に留まるのは、私の肺が拒絶している」

マクシミリアンは、毅然とした足取りで歩き出した。

私もまた、彼の半歩後ろを、誰よりも優雅に歩く。

「……待ちなさい! まだ話は終わっていないわ!」

クロエの声が背後で響いたが、私たちは一度も振り返らなかった。

夜風が、広間の熱狂を冷ましていく。

「マクシミリアン様。私、本当に悪役になってしまいましたわ」

「案ずるな、エレオノーラ。真の悪役は、最後にはすべてを手に入れるものだ」

月光の下、私たちは王城を後にした。

それは、破滅への序曲ではなく、退屈な日常からの脱獄であった。

恥の多い生涯を送る予感はあったが、この男と共にあるならば、それもまた一興ではないか。

私は、扇に隠して、小さく微笑んだ。
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