​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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王都を囲む石造りの城門が、重苦しい音を立てて背後で閉ざされた。

月は冷ややかに冴え渡り、私たちの影を長く、醜く地面に引き摺っている。

用意された馬車は、およそ王太子とその婚約者が乗るには相応しくない、古びた、それでいて頑丈さだけが取り柄の箱馬車であった。


「……お疲れ様でございますわ、マクシミリアン様。実に見事な廃嫡劇でございましたわね」


私は馬車の座席に深く身を沈め、溜息を一つ、夜の闇に溶かした。


「全くだ。あのような三流の演劇に付き合わされるとは、私の人生における唯一の汚点と言ってもいい」


マクシミリアンは向かいの席で足を組み、窓の外を流れる陰鬱な景色を見つめている。

その横顔は、廃嫡された男のそれとは思えないほど、毅然として、美しく、そしてどこか退屈そうであった。


「しかし、納得がいきませんわ。マクシミリアン様が『悪役』として追放されるのは、まあ、理解の範疇ですけれど」


「ほう。君の中で私は、そこまで徹底した悪党に見えていたのか?」


「ええ。呼吸をするように毒を吐き、視線一つで人を凍えさせる。その冷徹さは、もはや一種の芸術でございましたもの」


「……褒め言葉として受け取っておこう」


マクシミリアンは薄く笑い、視線を私に戻した。


「それで? 君が納得いかないのは、どの部分だ」


「私に対する評価ですわ! 『ついで』とは何事ですか。ついで、とは!」


私は扇を激しく打ち鳴らした。

私の脳内にある文豪の魂が、この無礼な語彙の選択に対して猛烈な抗議の声を上げている。


「私はあなたという『巨悪』の傍らに並び立つ、『毒婦』として名を馳せていたはずですわ。それなのに、リュシアン殿下は私を添え物のように扱った。これは、私のプライドに対する冒涜です」


「くくっ、はははは! なるほど、君の怒りの源泉はそこか」


マクシミリアンは腹を抱えて笑い出した。

その笑い声は、静まり返った馬車内に場違いなほど明るく響く。


「笑い事ではありませんわ! 追放されるにしても、せめて『この稀代の悪女め!』くらいの罵倒は欲しかったものですわ」


「君は相変わらず、物事の本質を履き違える天才だな、エレオノーラ。だが、安心したまえ。君は決して『ついで』などではない」


彼はふと笑い止み、真剣な眼差しで私を射抜いた。


「私が君を連れて行くのだ。リュシアンが決めたからではない。私が、君という毒を、独り占めしたいと思ったからだ」


……。

沈黙が、重く、甘く、馬車の中を満たしていく。

私の心臓が、不規則な拍動を刻み始めた。

これは、あれか。近代文学における「自白」という名の、最も洗練された暴力ではないか。


「……その言い草、少々卑怯ではありませんこと? 私を共犯者に仕立て上げるおつもりでしょう」


「そうだ。君はもう、私なしでは生きられぬ『悪の片割れ』だ。逃げようとしても無駄だよ。辺境の果てまで、私は君を離さない」


マクシミリアンが手を伸ばし、私の頬をそっとなぞった。

その指先は冷たいはずなのに、触れられた場所が熱を帯びる。


「……困りましたわ。私、不遇な境遇を嘆く悲劇のヒロインを演じる準備はできておりましたのに」


「そんな役は、あの男爵令嬢にでも譲っておけ。君には、私と共に泥水を啜りながら、世界を冷笑する役がお似合いだ」


「泥水ですって? あら、それは御免蒙りますわ。私は泥の中でも、薔薇の香りを忘れない女ですから」


「そうだろうな。だからこそ、君を選んだ」


御者が鞭を振るう音が、闇を切り裂く。

馬車は、王都から遠ざかり、未開の原野へと向かっていく。


「さて、マクシミリアン様。これから向かう『辺境』とやらは、どのような場所なのですか?」


「メテオと呼ばれる荒野だ。星が降る場所、などというロマンチックな名前がついているが、実際は石ころと魔物しかいない、呪われた土地だよ」


「まあ。それはまた、書き甲斐のありそうな舞台設定ですわね」


私は、膝の上に置いた手帳をそっと撫でた。

絶望は、私にとって蜜の味。

『ついで』の悪役令嬢として、この男とどこまで堕ちていけるのか。

少しだけ、本当に少しだけ、胸の奥が昂ぶるのを感じていた。
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