​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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馬車が激しく跳ね、私の思考を断ち切った。

窓の外に広がるのは、もはや王都の整然とした石畳ではない。

赤茶けた土と、天を突くように尖った岩石が点在する、文字通りの「荒野」であった。


「……マクシミリアン様。あちらに見えます、廃墟のような、あるいは巨大な墓標のような影は何かしら」


私は、砂埃にまみれた窓を指差した。


「あれか。あれこそが、我々の新しい城——『メテオ城』だ。数百年前に星が落ち、その衝撃で土地ごと呪われたと言い伝えられている」


「星が落ちた。なんと詩的な、そして救いようのない絶望ではありませんか」


「絶望、か。君がそれを喜ぶ変人で助かったよ、エレオノーラ」


マクシミリアンは冷笑を浮かべ、馬車の扉を自ら開けた。

御者が梯子を下ろす間も惜しむように、彼は荒野へと足を踏み出す。

私もまた、彼の差し出した手を取り、呪われた大地へと降り立った。


「……ひどいものですわね。風が、まるで死者の呻き声のようですわ」


「ここでは、慈悲などという言葉は砂に埋もれている。生き残るには、他人を蹴落とすか、あるいは世界を欺くしかない」


「あら。それは、私たちが最も得意とすることではありませんこと?」


私は、ひび割れた大地をヒールで踏みしめた。

周囲を見渡せば、遠巻きに私たちを窺う影がいくつかある。

この地の住人——あるいは、王都から追いやられた「屑」たちだろう。


「マクシミリアン様。あの方々の視線、実に芳醇な殺意を感じますわ」


「気にするな。彼らにとって、我々は格好の餌食に見えているのだろう。……おい、そこの影」


マクシミリアンが、岩陰に向かって鋭い声を放った。

炯々(けいけい)とした彼の瞳に射すくめられ、薄汚れた布を纏った男が這い出してきた。


「……お、王太子様、でございますか……?」


「元、だ。今はただの、性格の悪い流刑囚だと思え」


「お助けを……。この地は、もう、食べるものも、水も……」


男が縋り付こうとした瞬間、マクシミリアンは冷徹にその手を払いのけた。

情けをかけるどころか、その瞳には軽蔑の色さえ浮かんでいる。


「助けてほしい、だと? 片腹痛い。貴様が飢えているのは、貴様が無能だからだ。奪う度胸もなく、耕す知恵もない。その末路がこれだ」


「そんな……あんまりだ……!」


「……マクシミリアン様。少々、言葉が過ぎましてよ」


私は一歩前に出た。

男は、私の美貌に一瞬だけ魂を抜かれたような顔をする。

これこそが、悪女エレオノーラの真骨頂。


「マクシミリアン様の仰る通り、無能は罪ですわ。……ですが、死なせてしまうのは、もっと罪深きことですわね。死体は、この荒野をさらに汚すだけですもの」


私は、ドレスの隠しポケットから、一つだけ持ってきた最高級のチョコレートを取り出し、男の足元に放り投げた。


「それを食べなさい。それが、私があなたに与える最後の『慈悲』ですわ。次に私の前に現れる時は、私を喜ばせる何かを持っておいでなさいな」


男は、泥にまみれたチョコレートを拾い上げると、脱兎のごとく走り去った。


「……エレオノーラ。君も、なかなかに性格が歪んでいるな」


「あら。死ぬよりは、私の奴隷として働かされる方が、彼にとっても幸せでしょう?」


「くくっ。奴隷、か。面白い。このメテオを、我々の『悪の帝国』に造り替えるのも、悪くない余興だな」


マクシミリアンの瞳に、奇妙な熱が宿った。

それは、王都で王座を狙っていた時よりも、ずっと危険で、ずっと魅力的な色。


「お供いたしますわ、マクシミリアン様。……ついでに、私も世界を呪いたい気分ですから」


「ああ、共に行こう。この地の底から、あの愚かな弟たちを見下ろしてやる」


私たちは、朽ち果てた門をくぐり、メテオ城へと足を踏み入れた。

そこは、新たな喜劇——あるいは、血塗られた叙事詩の幕開けに相応しい場所であった。
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