​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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城内は、外の荒野をそのまま室内に持ち込んだような有様であった。

埃を被った重厚なカーテンは、幽霊が纏うボロ布のように力なく垂れ下がっている。

足を踏み出すたびに、床板が「ギギ……」と、呪いの呪文でも唱えるかのように軋んだ。


「……これは、想像を絶する趣深さですわね。マクシミリアン様」


私は鼻先を扇で隠し、蜘蛛の巣が張ったシャンデリアを仰ぎ見た。

私の文学的感性が、この廃墟を「退廃の極致」と名付け、心の原稿用紙に書き込んでいる。


「ふん。王都の絢爛豪華な宮殿に比べれば、確かにここは死の庭に等しい。だが、余計な飾りがない分、人間の本質がよく見える」


マクシミリアンは、埃の積もった玉座に躊躇なく腰を下ろした。

彼が座るだけで、その廃材の山のような椅子が、恐るべき権威を帯びるから不思議だ。


「誰か。この城に息を吸っている者はいないのか。いないのなら、死体を並べて出迎えさせろ」


彼の傲慢な声が、虚空に響き渡った。

すると、影の中から、一人の少女が震えながら姿を現した。

継ぎ接ぎだらけの服を着ているが、その瞳には強い意志の光が宿っている。


「お、お呼びでしょうか、旦那様……お嬢様……」


「ほう。まだ生き残りがいたか。名は?」


マクシミリアンが冷徹な視線を少女に固定した。


「ティア……と申します。この城で、細々と掃除をしておりました」


「ティア、か。良い名だ。だが、その掃除とやらの成果は、私の目には全く映らないが?」


「申し訳ございません! 道具も、食べるものもなくて……」


ティアと呼ばれた少女は、床に伏して震え出した。

私はその様子を見て、ゆっくりと彼女に歩み寄った。


「……ティア。顔を上げなさい」


私の声に、少女は恐る恐る視線を上げる。


「良いかしら。この世界には、二種類の人間しかいないの。奪う者と、奪われる者。そして、私は奪われるのが何より嫌いなの」


私はドレスの裾を優雅に払い、ティアの目の前にしゃがみ込んだ。


「マクシミリアン様。この子を、私の専属侍女にいたしますわ。教育のし甲斐がありそうですもの」


「好きにしろ、エレオノーラ。だが、無能なら容赦なく切り捨てるぞ」


「あら、ご安心を。私の手にかかれば、泥人形でも宝石に変えてご覧に入れますわ」


私はティアの顎を指先でクイと持ち上げた。


「ティア。今日からあなたは、このエレオノーラの所有物ですわ。絶望する暇もないほど、こき使ってあげます。光栄に思いなさい?」


「……は、はい! エレオノーラ様!」


少女の瞳に、恐怖ではない、奇妙な熱が灯った。

それは、底辺で足掻いていた者が、初めて自分を必要とする「力」に出会った時の色。


「さて、マクシミリアン様。晩餐はどういたします? 流石にこの埃を食べるわけにはいきませんわ」


「何、心配はいらん。王都を出る際、リュシアンの私有財産から、最高級の保存食とワインを『ついで』に掠め取っておいた」


「まあ! それは流石、私の愛した悪役様。手際がよろしいですわね」


「賊から奪うのは正義ではないが、愚か者から奪うのは知的な愉悦だ」


私たちは、月明かりだけが差し込む冷たい食堂で、奪ったワインで乾杯をした。

銀食器もない。テーブルクロスは煤けている。

けれど、王都の偽りに満ちた宴よりも、ずっと美食の味がした。


「エレオノーラ。明日から、この領地の膿を出し切る。私のやり方は、王都の連中よりよほど残虐だぞ」


「望むところですわ。私も、文筆を剣に変えて、この地の秩序を切り刻んで差し上げます」


「ふ。君といると、退屈だけは逃げていくようだ」


月は高く昇り、廃城を青白く照らしている。

悪意と気品。

その二つだけを武器に、私たちの辺境統治が、今静かに幕を開けた。
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