​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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城の正面玄関に並んだのは、王都アステリアの良心を自称していたはずの、高潔なる大貴族たちであった。

彼らは、泥に汚れた外套を脱ぐことさえ忘れ、大理石の床に額を擦り付けている。

その光景を、私は階段の踊り場から、冷めた紅茶のような視線で見下ろしていた。


「……あら。あちらに見えますのは、私を『社交界の毒虫』と呼び、扇で顔を隠して逃げ出したヴェスヴィオ公爵ではありませんこと?」


私は、隣に立つマクシミリアン様の袖を軽く引いた。


「ふん。虫に食われるのが嫌で逃げ出した男が、今度はその虫に縋って命乞いか。滑稽を通り越して、もはや叙事詩的な醜悪さだな」


マクシミリアン様は、一歩ずつ、重厚な足音を響かせながら階段を降りていく。

その背中からは、かつて王都を統べていた頃よりも、遥かに苛烈な王者の覇気が溢れ出していた。


「お、お助けください、マクシミリアン殿下! 王都は……王都はもう、崩壊寸前なのです!」


ヴェスヴィオ公爵が、震える声で叫ぶ。


「リュシアン殿下は、聖女クロエ嬢の甘言に乗せられ、軍の維持費までも施しに回してしまわれました! 隣国は国境を脅かし、民は暴徒となって我々の屋敷を囲んでいるのです!」


公爵の背後で、軟禁状態にあったリュシアン様が、幽霊のような足取りで現れた。


「……公爵、貴様、僕を差し置いて兄上に何を……」


「黙れ、無能な王子よ! 貴様の『正義』のおかげで、我々は財産も誇りも失ったのだ!」


かつての忠臣からの、痛烈な罵倒。

リュシアン様は、言葉を失い、その場に力なく膝をついた。


「……お聞きになりましたか、マクシミリアン様。裏切りの味というのは、これほどまでに苦く、そして芳醇なのですわね」


私は公爵の前に歩み寄り、扇で彼の顎をくいと持ち上げた。

私の独白(モノローグ)は、今や冷徹な審判の記録となって、広間に響き渡る。


私の内なる文豪が、この事態を「没落した権力の解体ショー」と名付け、残虐な笑みを浮かべている。


「公爵様。私を追放する際、あなたは『ついでにこの女も消せ』と仰いましたわね。……今、その『ついで』の女が、あなたの領地の食糧供給権を握っているという事実を、どうお考え?」


「ひっ……! エレオノーラ嬢、いや、エレオノーラ様! どうか、どうかお許しを! あれは……あれはリュシアン殿下に強要されたことで……!」


「嘘は、美しくつきなさいな。その方が、書き甲斐がありますもの」


私は冷たく言い放ち、マクシミリアン様を見上げた。


「さて、主人(マスター)。この這い蹲る犬たちに、どのような首輪を与えましょうか?」


「首輪など不要だ。……公爵、王都へ戻り、貴族院の全会一致で『マクシミリアンの全権委任』を可決させろ。それができれば、明日の朝には小麦を送ってやる」


「ぜ、全権委任……。それは、実質的な……」


「禅譲だ。……嫌なら、今すぐここで貴様の喉を掻き切って、その血を肥料にでもしてやろうか?」


マクシミリアン様の瞳に、本物の殺意が宿る。

公爵は、もはや反論する力もなく、「ははーっ!」と叫んで平伏した。


「……楽しみですわね、マクシミリアン様。王都の門が、私たちのために開かれる日が」


「ああ。だが、ただ戻るだけではつまらん。エレオノーラ、君の望む『最高の断罪劇』を演出してやろう」


「ついでに、あの聖女様の席も、特等席(牢獄)に用意しておいてくださいましね」


私たちは、絶望する者たちを背に、静かに笑い合った。

恥の多い生涯の、これが逆襲の佳境。

王都は今、真の「悪」を迎え入れるための、血のレッドカーペットを敷き始めているのですから。
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