​『王太子とついで私も悪いですって?!』

きららののん

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王都を包む夜は、静謐という名の贅沢を極めていた。


かつての騒乱も、偽善に満ちた祈りの声も、今や遠い神話の底へと沈んでいる。


私は、新しく作り替えられた王城の最上階、月光が銀の滴となって降り注ぐバルコニーで、一輪の黒い薔薇を弄んでいた。


「……お疲れ様でございますわ、マクシミリアン様。この国から、ようやく『無能な善』という名の害虫が駆逐されましたわね」


私は、隣に立つ男——この国の真の支配者となったマクシミリアン様を仰ぎ見た。


彼の横顔は、月光に照らされて彫刻のように冷たく、しかし同時に、私だけに向けられた確かな熱を帯びている。


「ああ。長く、退屈な喜劇だった。……だが、エレオノーラ。君という毒がなければ、私はこの舞台を途中で降りていただろう」


マクシミリアン様は、私の手から薔薇を奪い取り、その棘で自らの指先を薄く傷つけた。


滲み出す赤い雫が、銀の月の下で黒く、妖しく光る。


「……あら。自傷とは、随分と近代文学的な趣味ですこと。ついでに、私のドレスを汚さないようお気をつけあそばせ」


「案ずるな。この血は、君との永遠の契約を彩るための絵具だ」


彼はその指先で、私の唇をなぞった。

鉄の味が、私の口内に微かな痺れをもたらす。


私の内なる文豪が、この幕引きを「恥辱の果ての、至高の戴冠」と名付け、震える手で最後の一行を書き込もうとしている。


「マクシミリアン様。一つ、白状してもよろしいかしら?」


「何だ。今更、愛の告白でもするつもりか?」


「心外ですわ。……私、あの断罪の夜、あなたが『ついでに私も悪い』と仰った時、生まれて初めて、世界が色彩を持って見えたのですわ」


私は扇を閉じ、彼の胸元にそっと寄り添った。


「ついで。……なんと投げ遣りで、なんと自由な言葉でしょう。正義や道徳という名の鎖から解き放たれ、ただあなたの『悪』に寄り添う権利を与えられた。あれこそが、私の人生における唯一の救済でございましたわ」


「……くくっ、はははは! 君は本当に、救いようのない悪女だな、エレオノーラ」


マクシミリアン様は、私の腰を強く抱き寄せ、その低い笑い声を夜風に響かせた。


「ならば、これからも私の『ついで』でい続けろ。私が世界を壊すなら君がそれを記録し、私が地獄を築くなら君がその玉座に座れ」


「ええ。喜んで。ついでに、その地獄を世界で最も美しい社交場に変えて差し上げますわ」


私たちは、深い闇の中で、互いの唇を重ねた。


それは愛よりも重く、信頼よりも残酷な、悪役同士の「共犯」の儀式。


恥の多い生涯を送ってまいりました。

けれど、この男と共にあるならば、その恥さえもが宝石のように輝き、歴史という名の闇を照らし続けることでしょう。


かつて追放された悪王子と、そのついでに悪を背負わされた令嬢。

二人の影は、月下で一つに溶け合い、誰にも届かない高みへと舞い上がっていく。


アステリア王国の歴史は、ここで一度途絶える。

そして明日からは、私たちの「美しき地獄」という名の、新しい物語が始まるのです。


「……さて。ついでに、明日の朝食には最高級の『ケソミの蜂蜜』を用意させておきましょうか。……甘い一日の始まりには、相応しい毒ですもの」


「ああ。君の毒なら、喜んで飲み干そう」


月は冴え渡り、二人の悪行を祝福するように、銀の光を降り注ぎ続けていた。


——『王太子とついで私も悪いですって?!』 完——
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