全て私が悪かったので許してください!

きららののん

文字の大きさ
17 / 30

17

しおりを挟む
私は、ただ泣きじゃくることしかできなかった。
そんな私の姿を、ディランは困ったように、けれど優しく見守っていた。

しばらくして、私が少し落ち着いてきたのを見計らい、彼は静かに口を開いた。

「リア。俺は、お前が好きだ」

「……え」

あまりにも真っ直ぐな告白に、涙がぴたりと止まる。
心臓が、大きく、大きく跳ね上がった。

「初めて森で会った時から、気になってた。気位が高そうで、世間知らずで、どうしようもねえお嬢様だってのは、すぐにわかった。でも、お前の瞳の奥には、どうしようもないくらいの寂しさが浮かんでた」

ディランは、私の手をそっと握った。
その手は、いつもみたいに温かかった。

「一緒に暮らすうちに、あんたの不器用さも、負けん気の強さも、本当はすごく優しいところも、全部知った。畑仕事で失敗して悔しそうにする顔も、俺が作った飯を美味そうに食う顔も、子供たちと笑ってる顔も、全部好きになった」

彼の言葉が、夢のように聞こえた。
こんなこと、許されるのだろうか。
罪人である私が、こんなにも温かい言葉を、受け取ってもいいのだろうか。

「だから、お前の過去がどうだったかなんて、俺には関係ねえ。俺が好きなのは、クーデリア・アベンティスじゃない。今、目の前にいる、お前だ。……リア」

そう言うと、ディランは私をその力強い腕で、ゆっくりと、しかし強く抱きしめた。
彼の胸に顔を埋めると、汗と土の匂いに混じって、彼自身の優しい匂いがした。
それが、どうしようもなく私を安心させた。

「君が誰であろうと、俺の気持ちは変わらねえよ」

耳元で囁かれたその言葉が、私の心に残っていた最後の棘を、完全に抜き去ってくれた。

ああ、この人は、私が何者であるか、など気にしない。
ただ、私という人間そのものを、見てくれている。
愛してくれている。

「……ディラン」

「ん?」

「わたくしも……あなたのことが、好きです」

やっとの思いで絞り出した声は、まだ涙で震えていた。
けれど、それは紛れもない、私の本心だった。

腕の力が、少し強まる。

「……知ってた」

「えっ」

「お前、俺のこと見てる時、すげえ顔赤くなってたからな」

「な……!」

彼の言葉に、今度は嬉しさと恥ずかしさで、顔が真っ赤になるのがわかった。
ディランの胸の中で、私は彼の意地悪な言葉に、小さく抗議の声を上げた。

「……うるさい、ですわ」

彼は、くつくつと喉を鳴らして笑った。
その振動が、心地よく私に伝わってくる。

過去の罪が、消えてなくなるわけではない。
私が犯した過ちは、一生背負っていかなければならないものだ。

けれど、この腕の中にある温もりだけは、真実だった。
ディランが与えてくれた、無償の愛。
それさえあれば、私はきっと、もう一度前を向いて歩き出せる。

生まれて初めて感じた、本当の幸福。
私は、この温かい胸の中で、静かに、そして固く、そう誓った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

お母様!その方はわたくしの婚約者です

バオバブの実
恋愛
マーガレット・フリーマン侯爵夫人は齢42歳にして初めて恋をした。それはなんと一人娘ダリアの婚約者ロベルト・グリーンウッド侯爵令息 その事で平和だったフリーマン侯爵家はたいへんな騒ぎとなるが…

〘完結〛わたし悪役令嬢じゃありませんけど?

桜井ことり
恋愛
伯爵令嬢ソフィアは優しく穏やかな性格で婚約者である公爵家の次男ライネルと順風満帆のはず?だった。

聖女はもうのんびりしたいんです【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
魔法の国オルレアン。この国には古代より聖女伝説があり、初代聖女エレノアは生きとし生ける者から愛され従わせる事が出来、万物の声が聞こえた。 オルレアンを建国し、初代女王となったエレノアの没後、1000年経っても恩恵を受け、繁栄した国だった。 しかし、甘い汁に慣れきった、恩恵に味を占めた国民達が増え、衰退していって100年。再び聖女を祀れ、とオルレアン国民が声を挙げると、忽ち我が聖女、とその地位を争う様になる。 そんな中、初代聖女エレノアはその1000年を生まれ変わりながら、オルレアン国を見つめて来ていた1人。彼女は1人嘆き悲しむが、エレノアに頼る事だけを考えては駄目だと教えて来たつもりだったが、堕落した国民には届く事は無かった。 そして、再びオルレアン国に生を受けたエレノアは………

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

【電子書籍で販売中】あなたは、親友の恋人だった。〜届かぬ背を追って〜

藤原遊
恋愛
誰よりも強く、美しく、孤独だった彼女。 初めて剣道場で見たあの日から――俺は生涯をかけてその背中を追い続けた。 だが、ある作戦が行われた夜に彼女は爆炎に消え、残されたのは「家がなければ、あなたを気に入っていた」という未完の言葉だけ。 愛と義務、誓いと嘘の狭間で揺れる一人の男の記録。 一途さが痛みに変わるまでを描いた、切なくも熱い恋の物語。 ※Kindleにて、別視点の物語を販売しています。

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。

『白薔薇の神殿で誓うとき ――氷を溶かす三行の言葉――』

柴田はつみ
恋愛
「政略婚約から始まったすれ違い。  舞踏会で耳にした一言が、私の心を凍らせる――。  誤解と嫉妬を越え、三行の言葉で氷を溶かす恋。  白薔薇の神殿で交わす誓いは、距離ゼロの愛へと導いてくれるでしょうか?」

処理中です...