偽りの悪役令嬢は、沈黙の愛に焦がれる

きららののん

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どれくらいの時間、踊り続けていただろうか。
やがて、二人のステップは自然と止まり、エリアスはセレスティーナを優しく抱きしめた。

その腕の中で、セレスティーナは張り詰めていた最後の糸が、ぷつりと切れるのを感じた。

「……う……ぅ……」

抑えようとしても、嗚咽が漏れる。
彼女の瞳から、大粒の涙が、後から後から溢れ出してきた。
それは、悲しみの涙ではなかった。安堵と、喜びと、そして今まで溜め込んできた全ての孤独が溶け出していくような、温かい涙だった。

「……ずっと、怖かった……」

セレスティーナは、エリアスの胸に顔を埋め、子供のように泣きじゃくった。

「ずっと、独りだと思ってた……。悪役令嬢だと、氷の人形だと、誰に何を言われても平気なふりをしてきたけれど……本当は、ただ、怖かった……」

今まで誰にも見せたことのない、彼女の弱さ。本音だった。
完璧な公爵令嬢の仮面の下で、彼女はずっと、独りで震えていたのだ。

エリアスは、そんな彼女の体を、壊れ物を扱うかのように、そっと、しかし力強く抱きしめた。

「……すまなかった」

エリアスの声も、震えていた。

「俺が、君を独りにさせた。君のその苦しみに、気づいてやることさえできなかった。本当に、すまない……」

彼は、自分の不甲斐なさと後悔で、胸が張り裂けそうだった。
自分が冷たい態度をとることで、彼女を守れると思っていた。政争の道具としてではなく、一人の女性として見てしまうのが怖かった。だが、それは、ただの独りよがりな思い込みで、彼女を深く傷つけていただけだったのだ。

「いいえ……」

セレスティーナは、泣き濡れた顔を上げた。

「エリアス様がいたから、私は、最後まで戦えました。あなたが、信じてくれたから……」

市場で、初めて彼が「すまなかった」と言ってくれた時。
深夜の密会で、「手を組まないか」と手を差し伸べてくれた時。
その一つ一つの瞬間が、彼女の孤独な心を支えていたのだ。

「セレスティーナ……」

エリアスは、彼女の涙を、その指で優しく拭う。
二人の距離が、自然と近づいていく。
そして、月明かりの下で、二人の唇は、静かに、そしてゆっくりと重なった。
それは、全ての過去を洗い流し、新しい未来を誓う、優しくて長い口づけだった。
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