ライオット・パーク

Luckstyle

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二話

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「さて、技能面はこれぐらいで良いだろう。次はーー」
「どれくらい動けるか、動けないかの確認ね」
俺の言葉尻を拾ってエリーが胸辺りで両拳を握る。俺は頷いて棒を投げ捨てた。
 先ずは左足での廻し蹴り。エリーは少し早めに見切り、温泉饅頭程度の距離を置いて俺の足を避けた。吹き抜けた足は大きめの盥ほどの距離を置いて止まった後、折り返して裏廻し蹴りとなりエリーの側頭部へ。エリーはそれを先ほどの半分ほどの距離で反応して体を沈み込ませて避け前進。吹き抜けた脚を直角に地面へ突き立てつつ右の膝を跳ね上げるが、エリーは後ろへ飛すさって回避した。
「・・・・・・動かねえな」
「鈍ってる訳じゃないんだけどねぇ」
辟易したようにため息を付く。今の動きだけで多少息が上がった。エリーも同じ様だ。
 物心付いた頃から柔軟や筋トレを欠かしていなかったが、流石に戦闘レベルの動きをしていなかったためかイメージよりも動きが硬いしキレもない。思った以上に動けないな。
「毎日、朝と夜に組み手をやれば多少はマシになるかな?」
エリーの言に俺は首を傾げる。
「組み手だけじゃ多分、悪い動きになるな。型もやらないと」
「あー、そっかぁ。じゃあ、型二日、組み手一日の組み合わせだね。懐かしいな」
「それだと追っ付かない気もするが・・・・・・まぁ、仕方ないか。それで行くか」
こちらの世界では実力を高めていく年齢は二十歳から五十歳まで、ピークが五十歳から百五十歳まで、寿命が二百歳と神様から聞いた。それで自我が芽生えるのが五歳らしいから寿命はかなり長い。
 しかしこれは繁殖力が高く寿命が短い人族の基準で、長命と名高い無角類耳長族エルフ無角類小人族ドワーフはこれの倍くらい生きるらしい。見た目は無角類耳長族が死ぬまで若々しい見た目を保のに対して、無角類小人族は壮年期までは人族と同じように加齢し、そこで一旦老化が止まり、寿命の十年前辺りで老化が進み始めると言う。
 無角類と言うのは人類種の種別の事で、ここには俺とエリーが属する無角類猿人族ヒューマンが含まれ、文字通り角がなく、尚且つ牙も持たない種族の総称だ。その他には頭に角を持つ有角人類と、犬歯が発達した有牙人類が有る。
 現在確認されている人類種族は二十八種類だそうだ。
 さて、無手での動きは確認した。次は、・・・・・・そうだな、槍にしようか。
「次は槍術にしようか。本物の槍はないが棒で良いだろ」
そう言いつつ、広場の片隅にある小屋まで行って二本の棒を取り出して一方をエリーに放る。
 エリーは飛んできた棒に手を這わせてたて回転を加え、腕を中心に何度か廻すとその回転を横にして背中に回し逆の腕へ。その後に胸へ廻して回転を利用して逆立ちしながら足の方へ登らせ、つま先で回し、そこから真上へ蹴り上げて逆立ちを直して落ちてきた棒を腕で拾いつつぴたりと構える。構え方は右手で棒の中心を持ち、高さは臍かそれよりも下辺り。左手は棒の先よりも少し内側を持ち視線と同じ高さ。
「うーん、動きに違和感が・・・・・・」
「仕方ないだろ。あっちからこっちまでで四十年は扱ってなかったんだから」
そう言いつつ、俺も棒を構える。左手はエリーの様に棒の先より少し内側を持ち、右手は中心より少し左手寄り。高さは両手とも臍より上で棒は地面に水平だ。
 一旦、二人の動きが止まる。
 先に動いたのは俺だ。両手を出来る限り素早く動かし一突き。エリーはそれを背の方ーー俺から見て左へ動いて躱し、更に俺が突き出した棒に己の持つ棒を合わせて追撃を防ぐ。俺の引き戻す動作に合わせ半歩俺の方へ近づき、俺が突き出すと同時に転身して躱すと同時に俺の棒へ再び棒を合わせる。これで一歩半俺に近づいた。これでは負けるので俺は転身しつつ棒を引き戻し半回転したところで身を投げ出しつつ身体を捻る。胸の辺りを下から弧を描いた棒の先が過っていった。
 両手で着地した俺は顔も上げずに右手で棒を凪ぎ払いつつ身体を丸め、顔を上げてエリーの姿を姿を探す。
正面。居ない。
右。居ない。
左。居ない。
そこまで確認したらすぐさま両手で棒を掲げる。そこに渾身と思われる一撃が振り下ろされた。
 重撃にのたうち回る棒を痺れる手で抑え込みつつ上半身を仰け反らせて顎と棒をできる限り引っ込ませる。空を切る棒の気配と押し出された空気の作る風が顎先をなぞる。
 そのまま倒れ込みつつ背中を丸めて立ち上がり、当てずっぽうに右へ棒を構える。エリーならばこちらの筈だ。
 刹那の後に棒から衝撃が伝わり、それを感じつつ後ろへ大きく飛んで同じ構えで仕切り直す。俺の両目がエリーを捉えた。
 エリーは大きく踏み込みつつ突きに来る体勢。先程とは真逆だ。しかし、エリーの右手は中心よりこちら側、左手はその分こちらに寄り棒の中心が身体に沿っている。
 俺は背後に少しだけ動いてエリーの棒を己の持つ棒で合わせて追撃を押さえつつ棒を走らせ上へ弾く。その勢いでもって逆の先をーー
「あだっ」
下から打ち上げる前に弾かれた勢いも乗せたエリーの打ち上げが鳩尾を掠らせ俺の腕を打ち据えた。
「棒対棒なら弾いた後は身を引かなきゃダメじゃない。私が棒をどう持ってるかは見えてるんだろうからどう攻めるかわかるでしょ?」
「そこは見えたんだが、どう攻めてくるか気付けなかったな」
言葉を交わしつつ、エリーは思った以上に勢い余って打ち据えたらしい。痛み的に骨にひびが入った気がする。
 二人して応急処置の回復魔法を患部にかける。
「アレぐらいでひびが入るとは・・・・・・」
「言っておくけど、それが普通だからね?」
俺が嘆くように呟くと、エリーは呆れたように言い返してくるのだった。
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