異世界探訪記

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百十九日目。アンダッシュにて

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百十九日目。
 昨夜寝たところから一刻も歩かない内に畑が見えたので笑ってしまった。
 畑の先から四半刻程歩いたところに門があり、そこから建物があるのかと思えばそんな事は無く、さらに四半刻に一軒くらいの間隔で建物がある。近くにいた農夫に聞くと納屋だそうだ。それを二軒程越えたあたりで石を積んだ土台とその上に先端を尖らせた丸太を立たせて敷き詰めた木の壁。
 この先が村だとわかる強固な守りだ。その前の門は門構えだけ立派で、後は丸太で作った柵のような感じだった。
 門番に挨拶すると、白豹の獣人だった門番さんが鷹揚に応えてくれた。
 門番さんがギルビットさんを認識したら是非グラザットさんを訪ねてくれと言われつつ通してくれた。
 門番さんには申し訳ないが最優先は村長さんの家を訪ねる事。アズラータさんにギルビットさんが書簡を預かっていたからだ。
 門をくぐってさてどうしようかとなった時に言い出さないでいただきたい。立ち止まる必要無かったじゃないか。

 今の村長はヒューマンのザラキアさん。この村には既に合議制が敷かれていて、各種族の代表が割合に比例して数人選出されている。
 ヒューマン三人、エルフ二人、獣人三人、その他種族一人ずつ。
 村長は毎年持ち回りで議長の代わりだそうだ。

 ザラキアさんの家を訪れてギルビットさんと別れ、俺達は村の散策に出た。
 見かけるのは子供三、大人二、老人一と言った割合。
 その辺を歩いていたヒューマンに話を聞くと、三日働いて1日休む施策を取って居るそうだ。これは石を食べるベレッテムと言う種族の習慣で、話を聞いた当時の村長が試しに導入してみた所、定着してしまったらしい。
 その関係で、売れた金額、使った金額を四日に一度担当箇所毎に公表して分配。余ったお金を村の金庫に保管して納税の際そこから出して余ったら村の整備に当てる事にしているのだとか。
 今の所それで巧く回っているらしい。本当かよ。

 昼過ぎあたりでギルビットさんの下に戻ると話し合いが終わっていた。
 散策中に見つけた宿の事を話すと数日泊まりたいと言ってきたので宿の部屋を借り、それが済むとギルビットさんはグラザットさんの所に行ってくると出て行った。
 俺達は今一度アンダッシュを散策。
 宿屋の周りには木が植えられているほか、石畳とは行かないが踏み固められ、小石の取り除かれた歩きやすい道が敷かれてその道は中央広場に繋がっている。中央広場から放射状に道が延び、雑然と並んだ家々の軒先に接続している。元々有った木を切り倒さずに置いているのか植えたのか知らないが、それなりの大きさの木がちらほら見え、木登りに興じる子供や枝に乗っかって船を漕ぐエルフが見えた。
 中央広場はあるが、区画などの概念が無い感じだ。そこから見える家の中には煙が出ている家が有り、すれ違った獣人に聞くと大体ドワーフの住居兼工房で、農具その他を作っているとの事。
 後、見える範囲の家に接続されてない道の先には別の広場が有るそうだ。どこの広場も中央広場と呼ばれていて、場所を特定する場合は村の中心から見てどの方角がを言うらしい。宿を借りた中央広場は『南の』中央広場。西と東の広場へはしっかりした道が伸びているが、北へは獣道のようなひょろっとした細い道が延びていた。

 子供に捕まって二人で子供の相手をしていると陽が沈みかけて一人一人送っていった。二人して肩車に一人、両腕に二人を抱えて訪問していたらどこの家でも「懐かれたのねぇ」なんて声をかけられた。
 またねーと言う声と共に笑顔で手を振られるとこちらもついまたねーと返してしまう。
 宿に戻ってギルビットさんと合流し、夕餉に舌鼓を打ちつつ情報交換。
 グラザットさんはギルビットさんの教え子で、成人する前まで良くギルビットさんのお手伝いをしていた過去が有るらしい。
 口減らしの為に村を出てここに流れ着き、ここに定住。
 ギルビットさんのお手伝いを思い出して三年くらい前から野菜の改良や土壌の改良を始め、それなりに成果を出している。
 村を出たのは十五年程前。正確には十三から十四年前だそうだ。
 此方からは村の働き方について。それと、村の構造についてくらいか。あの集落が大きくなる兆しがあるならこういう村も参考になる。と言うか、何も計画を立てずに大きくすればここと同じ感じになるだろう。それを是とするならばそれも良し。非とするならばどうするか考えねばなるまい。
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