異世界探訪記

Luckstyle

文字の大きさ
120 / 141

百十九日目。アンダッシュにて

しおりを挟む
百十九日目。
 昨夜寝たところから一刻も歩かない内に畑が見えたので笑ってしまった。
 畑の先から四半刻程歩いたところに門があり、そこから建物があるのかと思えばそんな事は無く、さらに四半刻に一軒くらいの間隔で建物がある。近くにいた農夫に聞くと納屋だそうだ。それを二軒程越えたあたりで石を積んだ土台とその上に先端を尖らせた丸太を立たせて敷き詰めた木の壁。
 この先が村だとわかる強固な守りだ。その前の門は門構えだけ立派で、後は丸太で作った柵のような感じだった。
 門番に挨拶すると、白豹の獣人だった門番さんが鷹揚に応えてくれた。
 門番さんがギルビットさんを認識したら是非グラザットさんを訪ねてくれと言われつつ通してくれた。
 門番さんには申し訳ないが最優先は村長さんの家を訪ねる事。アズラータさんにギルビットさんが書簡を預かっていたからだ。
 門をくぐってさてどうしようかとなった時に言い出さないでいただきたい。立ち止まる必要無かったじゃないか。

 今の村長はヒューマンのザラキアさん。この村には既に合議制が敷かれていて、各種族の代表が割合に比例して数人選出されている。
 ヒューマン三人、エルフ二人、獣人三人、その他種族一人ずつ。
 村長は毎年持ち回りで議長の代わりだそうだ。

 ザラキアさんの家を訪れてギルビットさんと別れ、俺達は村の散策に出た。
 見かけるのは子供三、大人二、老人一と言った割合。
 その辺を歩いていたヒューマンに話を聞くと、三日働いて1日休む施策を取って居るそうだ。これは石を食べるベレッテムと言う種族の習慣で、話を聞いた当時の村長が試しに導入してみた所、定着してしまったらしい。
 その関係で、売れた金額、使った金額を四日に一度担当箇所毎に公表して分配。余ったお金を村の金庫に保管して納税の際そこから出して余ったら村の整備に当てる事にしているのだとか。
 今の所それで巧く回っているらしい。本当かよ。

 昼過ぎあたりでギルビットさんの下に戻ると話し合いが終わっていた。
 散策中に見つけた宿の事を話すと数日泊まりたいと言ってきたので宿の部屋を借り、それが済むとギルビットさんはグラザットさんの所に行ってくると出て行った。
 俺達は今一度アンダッシュを散策。
 宿屋の周りには木が植えられているほか、石畳とは行かないが踏み固められ、小石の取り除かれた歩きやすい道が敷かれてその道は中央広場に繋がっている。中央広場から放射状に道が延び、雑然と並んだ家々の軒先に接続している。元々有った木を切り倒さずに置いているのか植えたのか知らないが、それなりの大きさの木がちらほら見え、木登りに興じる子供や枝に乗っかって船を漕ぐエルフが見えた。
 中央広場はあるが、区画などの概念が無い感じだ。そこから見える家の中には煙が出ている家が有り、すれ違った獣人に聞くと大体ドワーフの住居兼工房で、農具その他を作っているとの事。
 後、見える範囲の家に接続されてない道の先には別の広場が有るそうだ。どこの広場も中央広場と呼ばれていて、場所を特定する場合は村の中心から見てどの方角がを言うらしい。宿を借りた中央広場は『南の』中央広場。西と東の広場へはしっかりした道が伸びているが、北へは獣道のようなひょろっとした細い道が延びていた。

 子供に捕まって二人で子供の相手をしていると陽が沈みかけて一人一人送っていった。二人して肩車に一人、両腕に二人を抱えて訪問していたらどこの家でも「懐かれたのねぇ」なんて声をかけられた。
 またねーと言う声と共に笑顔で手を振られるとこちらもついまたねーと返してしまう。
 宿に戻ってギルビットさんと合流し、夕餉に舌鼓を打ちつつ情報交換。
 グラザットさんはギルビットさんの教え子で、成人する前まで良くギルビットさんのお手伝いをしていた過去が有るらしい。
 口減らしの為に村を出てここに流れ着き、ここに定住。
 ギルビットさんのお手伝いを思い出して三年くらい前から野菜の改良や土壌の改良を始め、それなりに成果を出している。
 村を出たのは十五年程前。正確には十三から十四年前だそうだ。
 此方からは村の働き方について。それと、村の構造についてくらいか。あの集落が大きくなる兆しがあるならこういう村も参考になる。と言うか、何も計画を立てずに大きくすればここと同じ感じになるだろう。それを是とするならばそれも良し。非とするならばどうするか考えねばなるまい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!

本条蒼依
ファンタジー
 氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。  死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。  大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。

万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜

黒城白爵
ファンタジー
 異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。  魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。  そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。  自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。  後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。  そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。  自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...