習作

Luckstyle

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 一週間が経った。その間スールは開き直ったように暇さえあればキスを強請るようになった。どうも自分からディープキスをして多少吹っ切れたらしい。
 その事は結構と言うか万々歳と言うか願ったり叶ったりなので良しとしよう。問題は俺も健全な男子。毎回毎回理性が崩壊しそうになるくらいのとろっとろなスールの表情を見ると、思わず押し倒したくなる。
 それと、毎回毎回ベッドに入るとスールは体を密着してくるのは完全に無意識らしい。キスを終えた後にそれとなく聞いてみたところ、指摘されて初めて気付いたような反応で真っ赤になって混乱していた。
 ・・・・・・うん、知っていたよ。キスするだけで一大事業だったもんね。たとえ布越しでも体を合わせるなんて恥ずかしすぎて意識してたら出来ないよね。
 指摘したら意識してしまうようになってしまったのか、密着される事はなくなった。寂しい気もしないではないが、俺の股間の安寧の為には仕方のない処置だと言い聞かせている。・・・・・・まぁ、朝起きると抱き合ってるんだけどね。
 
 閑話休題。一週間が経った。今日は待ちに待った休暇の日。だって言うのに、プリムとレイラに呼び出され、先々週の喫茶店に来ていた。何故かアーラムとミューイも同席している。
「あんたらさ、最近なんか変よ?どうしたの?」
注文したモノが届き、口を付けて一息入れると、レイラがそう切り出してきた。
「そうか?」
心当たりがないため三人とも首を傾げた。
「先ずはアーラムとミューイ。この前誰も受けないから私らが受けたゴブリン討伐、覚えてる?」
「覚えてるぞ。なかなか見つからないから隣の村近くまで行ったな」
「私らが受けた当該の集落は北にあったの!そして二人が討伐してきたのは東南東と南南西!逆に行ってどうするのよ!」
レイラが吠える。
「そしてレヴィ!あんたが討伐したゴブリンは北東と北西!しかも四つ!どうして当該の集落を見落とすのよ!」
「あの時はスールのお疲れさまのキスが欲しくて頑張ったなぁ」
俺に向けて怒鳴り散らし始めたレイラにあの時の心境を吐露する。すると、アーラムとミューイが「あぁ、お前も?」とでも言うかのように見つめてきた。
 俺達は頷き合い、
「ご褒美のために頑張った」
と、口を揃えて言い放つ。直後にアーラムはレイラに、ミューイはプリムに鉄拳制裁を受けた。レイラとプリムは顔が真っ赤だ。

「で、次だけどね。一昨日、Aランクのレッドドラゴン出たじゃない?」
「出たな。気付いたら頭部が無くなって絶命してたが」
「あんたらが倒したんじゃない。レヴィが攻撃引き受けてアーラムが注意を逸らし、ミューイがトドメを刺す感じで。私らは身が竦んで動けなかったのに」
俺が返答すると、呆れたようにレイラはその時見た光景を簡潔に伝えてくる。それを元にもう一度記憶を探ると、ある一念に突き動されて行動していた記憶を思い出した。
「スールを守るのに必死だったと思う」
「俺はレイラだな」
「俺はプリムだ」
三者、各々の想い人の名を口にし、そこで顔を見合わせる。それで思いは一緒なのだと知る。
「そして、あわよくばご褒美が貰えーー」
言い切る前にアーラムとミューイの二人が脱落した。想い人の剛拳に止められたのだ。俺はその神速をも凌駕する体捌きに戦いて口を引き結んでしまった。

「さてと、アーラムとミューイが使い物にならなくなったから今の内に本題でも聞きましょうかね」
ホコリを落とすように両手を叩いてやることはやったと、どこか清々しい表情を見せてレイラはこちらに向き直った。
 それだけで俺の体がビクッと反応してしまうのは無視してほしい。
「・・・・・・で、スールには聞いてるけど、あんたらどこまで行ったの?」
胡乱気な眼差しを俺に注いだ後、レイラは気を取り直して問いただすように俺に聞いてきた。スールに聞いているなら、どうして俺に問い直すのか。
「・・・・・・キスまでだが」
黙っていると怒りそうなので渋々答える。すると聞いたレイラだけでなくプリムまでもが呆れたように溜め息を吐いた。
「あんた、どうしてスールに手を出さないの?意中の子なんでしょ?普通だったら二、三週間で手を出すんでしょ?男なら。・・・・・・甲斐性なしなの?それともスールに女の魅力無い?」
「馬鹿言え。甲斐性くらい有るわ。有り余っとるわ!スールに魅力が無い?笑わせるな!スールの魅力に比べたらお前等二人と比べてもお釣りがわんさか出るわ!」
「そこには意義を申し立てたい!」
レイラの言葉に思わず反論が口をついて出る。しかし、隣でくたばってた筈のアーラムとミューイが口を挟んでくる。鬼気迫る表情だ。
「すまん、言い過ぎた」
「はいはい。わかったから大人しくしててね」
謝罪する俺を後目に、レイラはどこ吹く風と言うように言葉では軽くあしらう。しかし頬にはまんざらでもなさそうに喜色の色が見え隠れしている。
「あんたにとってスールが魅力的なのはわかったから。それじゃあ、どうして手を出さないの?彼女なら普通にあんたの求めには応じるでしょ?」
「そうだろう事はわかってはいるんだが、・・・・・・だがなぁ」
「なんかあるの?」
「俺がキスをされるとき、少しだけ悩むみたいなんだよな。なんというか、覚悟を決める?みたいな。致したいのは山々なんだが、そこがちょっと気にかかってな。・・・・・・嫌われるんじゃないかと」
「そんな素振りあったっけ?」
俺とスールのキスしている現場を思い出しているのだろう。レイラがプリムに話を振るが、プリムはわからないと首を横に振る。
「まあ、いいわ。それともう一つ。取り敢えず目を瞑って真剣に私の言葉をイメージしてくれる?」
「なんだ?藪から棒に」
い・い・か・ら!と拳を握って凄絶な笑みを浮かべ始めるレイラに、慌てて俺は言われたとおりに目を瞑る。
「取り敢えず、スールを二人思い浮かべて。一人は性格が男の子っぽい性格。一人は女の子っぽい性格ね」
「楽園は瞼の中に有った!」
思わず吠える。それに対してレイラが俺に拳骨を食らわせる。
「だまらっしゃい!・・・・・・いい?続けるわよ?そのスール二人はあんたに思いを寄せてるわ。でも、どちらかしかあんたは連れていけない時、あんたはどっちを選ぶ?」
「ここに居よう」
即答した。は?とレイラは問いかけてくる。
「連れていけないんだろう?なら俺は連れて行かずここに住もう。スールの一人や二人、十や二十人くらい俺が面倒見てやる。それくらいの甲斐性は持ち合わせている積もりだ」
断固たる意志を持って告げる。告げられた方はどういう表情か。・・・・・・ん?そう言えば、男っぽい性格のスールは普通のスールだとして、女っぽいスールはキス後のちょっとした時間だけ見せてくれるスールに似ているような?
 そんな事を考えていると、急に背後から抱きすくめられた。何事かと思ったがすぐにスールの香りがするのに気付き、誰が後ろから抱きすくめたのかわかった。
 目を開くと、そこにはジト目でこちらを見、疲れ果てた表情で「はいはい、あついあつい」と片手で顔を扇いでいるレイラとプリムが居た。
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