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ブレストパスト抗争
北方の暴れ馬の暴れ方
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アシュリーが国王とやり取りをした日から一週間。すべての準備を終えたアシュリーはマーシェリーから教わりながらファスタンを尾行していた。複雑な経路ではあるが、マーシェリーが言うには目的地はどうやら薬の生産拠点らしい。
「あ、アレが路地に入ったわ」
「ではお茶にしましょう。お茶を一杯飲み終わる頃に出て来ますから」
路地裏に入っていった彼を追おうとしたアシュリーを止め、マーシェリーは右手にある喫茶店を示してアシュリーに入るように促した。
その後ろでは平民服に身を包んだ王宮騎士団の中で能力、忠誠心の強い選りすぐりの元平民がマーシェリーの言葉で相互を崩した。
「あら?ここは『コヴァーシュ』じゃない。市井の人たちから人気が高い所よね?」
「経営が傾いていた所、『凡骨の意地』のタツヤさん……お茶を入れてくれた方が方々に手を貸したそうです。
それ以来復活して異国のお茶が楽しめると人気になったそうですよ。
オススメは『凡骨の意地』で頂いた緑茶と紅茶、珈琲とハーブティーの飲み比べが出来るセットです」
開いている席に着きつつ、マーシェリーはわくわくとした表情でメニューの一番上を指す。値段は普通のお茶単品のより少し高めだが高すぎるほどでもなく、市井の人々にも手軽に注文できる値段だ。
「サリーさんが言うには、飲みやすい味を厳選して提供し、気に入ったお茶の別の種類の足がかりにしているそうですよ」
メニューを読み込むアシュリーに、マーシェリーは鼻高々といった感じで説明を続ける。
そう言えば、マーシェリーから説明を受けるなんて久しくなかったなと思いつつアシュリーはマーシェリー一押しの飲み比べセットを注文した。
尾行を再開し、四半刻ほどたった後に漸くファスタンは薬の生産拠点に辿り着いた。
場所は王都の北東の郊外にある森。
その奥まった所を切り開いて畑とあばら屋が四棟。内約は収穫貯蔵に一棟、精製に二棟、出荷待ちに一棟。
案外しっかりした拠点だが、今日落成らしい。
ファスタンが先程から従業員らしきガラの悪い連中に向かって弁舌を振るっている。
最期の講釈の途中だが、良いか。
頃合いを見て、アシュリーは自信の魔力を冷気に換え、周囲に発散させる。
発散させた魔法は植えられた作物を瞬時に凍らせ、あばら屋の壁に霜を纏わせた。
「――で、あるからして、我々は正当な……ん?なんだ?」
ヒートアップしていた演説を、気温の変化で中断させられたファスタンは不快そうに周囲を見渡す。
そこには一面白くなった世界が広がっていた。
植物は既に凍り付いて風になびかず、それだけで甚大な被害が及んでいることが理解できた。
更に追い討ちで、ファスタン達の目の前で有り得ない事が起こり始めた。
あばら屋が唐突に浮かび上がり始め、それに伴い音を立てて潰れ始める。
「おやおや、元婚約者様ではないですか。どうしたんですか?こんな所で」
その光景の途中で、満を持してファスタンの後ろからアシュリーが声をかけた。建物はバキバキと言う破砕音からゴリゴリとすり潰すような音に変わっている。
「お前は……アシュリー!?」
「婚約者ではなくなったのですから名前の、それも呼び捨てはおやめになってくださる?虫唾が走りますわ」
「何故此処へ……」
「何故って、私は反逆者が新しい薬物の生産拠点が出来たと情報を得たので王命を背負い潰しに来ただけですわ。
書状はこちらに」
そう言いつつ、後ろに控えていたマーシェリーが前に出てきて恭しく例を取ってから書状を取り出し、内容を朗読し始めた。
「反逆者であるベーリック商会の拠点を全て砂礫に変え、爆破することを命ずる。関係者はこれを捕らえ、抵抗する者は誅殺する事を許可する」
「お、俺は――」
「まさかその者達に弁舌を振るっていたのを見ていないとでもお思いですか?バカですか?」
「くっ」
何事かを言い募ろうとしたファスタンの機先を制して、冷え切った声音でアシュリーは尋ねる。
もはやこれまでと逃げ出そうとしたファスタンの後ろで砂礫になって集められたあばら屋だった物がプラズマを伴い爆発した。
胆力にも優れる王宮騎士団の面々が怯み竦むほどの爆発は、開墾地の全てを灰に変え、有り余った余波が雲を貫いていく。
「あら?結界を張っていたんですがそこから出てしまったんですか?
さっき、マーシェリーが言いましたよね?
砂礫に変えた後爆破すると。
抵抗するなら誅殺すると。
逃げる事も逮捕に抵抗することですから死にますよ?」
かろうじて右腕のみの消失に止まって固まっているファスタンに、冷笑に似た笑みを投げかけつつアシュリーは声をかけた。
そこに、今まで控えていた王宮騎士団の面々が割って入りその場にいる者達を捕らえていく。先ほどの爆発とそれに耐えられるだけの結界を同時に行使した実力の持ち主が相手にいることから、ファスタン以下十数人に上る者達はスムーズに逮捕されていった。
「あ、アレが路地に入ったわ」
「ではお茶にしましょう。お茶を一杯飲み終わる頃に出て来ますから」
路地裏に入っていった彼を追おうとしたアシュリーを止め、マーシェリーは右手にある喫茶店を示してアシュリーに入るように促した。
その後ろでは平民服に身を包んだ王宮騎士団の中で能力、忠誠心の強い選りすぐりの元平民がマーシェリーの言葉で相互を崩した。
「あら?ここは『コヴァーシュ』じゃない。市井の人たちから人気が高い所よね?」
「経営が傾いていた所、『凡骨の意地』のタツヤさん……お茶を入れてくれた方が方々に手を貸したそうです。
それ以来復活して異国のお茶が楽しめると人気になったそうですよ。
オススメは『凡骨の意地』で頂いた緑茶と紅茶、珈琲とハーブティーの飲み比べが出来るセットです」
開いている席に着きつつ、マーシェリーはわくわくとした表情でメニューの一番上を指す。値段は普通のお茶単品のより少し高めだが高すぎるほどでもなく、市井の人々にも手軽に注文できる値段だ。
「サリーさんが言うには、飲みやすい味を厳選して提供し、気に入ったお茶の別の種類の足がかりにしているそうですよ」
メニューを読み込むアシュリーに、マーシェリーは鼻高々といった感じで説明を続ける。
そう言えば、マーシェリーから説明を受けるなんて久しくなかったなと思いつつアシュリーはマーシェリー一押しの飲み比べセットを注文した。
尾行を再開し、四半刻ほどたった後に漸くファスタンは薬の生産拠点に辿り着いた。
場所は王都の北東の郊外にある森。
その奥まった所を切り開いて畑とあばら屋が四棟。内約は収穫貯蔵に一棟、精製に二棟、出荷待ちに一棟。
案外しっかりした拠点だが、今日落成らしい。
ファスタンが先程から従業員らしきガラの悪い連中に向かって弁舌を振るっている。
最期の講釈の途中だが、良いか。
頃合いを見て、アシュリーは自信の魔力を冷気に換え、周囲に発散させる。
発散させた魔法は植えられた作物を瞬時に凍らせ、あばら屋の壁に霜を纏わせた。
「――で、あるからして、我々は正当な……ん?なんだ?」
ヒートアップしていた演説を、気温の変化で中断させられたファスタンは不快そうに周囲を見渡す。
そこには一面白くなった世界が広がっていた。
植物は既に凍り付いて風になびかず、それだけで甚大な被害が及んでいることが理解できた。
更に追い討ちで、ファスタン達の目の前で有り得ない事が起こり始めた。
あばら屋が唐突に浮かび上がり始め、それに伴い音を立てて潰れ始める。
「おやおや、元婚約者様ではないですか。どうしたんですか?こんな所で」
その光景の途中で、満を持してファスタンの後ろからアシュリーが声をかけた。建物はバキバキと言う破砕音からゴリゴリとすり潰すような音に変わっている。
「お前は……アシュリー!?」
「婚約者ではなくなったのですから名前の、それも呼び捨てはおやめになってくださる?虫唾が走りますわ」
「何故此処へ……」
「何故って、私は反逆者が新しい薬物の生産拠点が出来たと情報を得たので王命を背負い潰しに来ただけですわ。
書状はこちらに」
そう言いつつ、後ろに控えていたマーシェリーが前に出てきて恭しく例を取ってから書状を取り出し、内容を朗読し始めた。
「反逆者であるベーリック商会の拠点を全て砂礫に変え、爆破することを命ずる。関係者はこれを捕らえ、抵抗する者は誅殺する事を許可する」
「お、俺は――」
「まさかその者達に弁舌を振るっていたのを見ていないとでもお思いですか?バカですか?」
「くっ」
何事かを言い募ろうとしたファスタンの機先を制して、冷え切った声音でアシュリーは尋ねる。
もはやこれまでと逃げ出そうとしたファスタンの後ろで砂礫になって集められたあばら屋だった物がプラズマを伴い爆発した。
胆力にも優れる王宮騎士団の面々が怯み竦むほどの爆発は、開墾地の全てを灰に変え、有り余った余波が雲を貫いていく。
「あら?結界を張っていたんですがそこから出てしまったんですか?
さっき、マーシェリーが言いましたよね?
砂礫に変えた後爆破すると。
抵抗するなら誅殺すると。
逃げる事も逮捕に抵抗することですから死にますよ?」
かろうじて右腕のみの消失に止まって固まっているファスタンに、冷笑に似た笑みを投げかけつつアシュリーは声をかけた。
そこに、今まで控えていた王宮騎士団の面々が割って入りその場にいる者達を捕らえていく。先ほどの爆発とそれに耐えられるだけの結界を同時に行使した実力の持ち主が相手にいることから、ファスタン以下十数人に上る者達はスムーズに逮捕されていった。
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