凡骨の意地情報局

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ハリス、幼女を拾う

再会

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アステム・ラインバッハが入ってくると、その前から立ち上がっていたタツヤが腰を折ってお辞儀をした。
 それを見たアステムは驚いた表情をしたが、すぐに表情を引き締めて同じように腰を折る。
「アステム・ラインバッハと申します。最近陞爵した男爵と聞き及んでおりましたが、立派な方を召して居られるようですね」
アステムは子爵位の子、侯爵家の執事長と言う事でマナーにはうるさいと思っていたが、タツヤの礼を見てハリスの評価を上げたらしい。
「まぁ、座ってくれ。
 ……で、貴族のあなたが此処に来た理由は?」
「はい。約一ヶ月前に当主のミスリー・アステヤック様が失踪なさいまして、情報通の『凡骨の意地』様にご存知ないかと伺いに来た次第に御座います」
「……容貌などは?」
「金髪に碧眼でございます。
 その他ですと、あまり周知されたくはないのですが、後見人のボートマンに虐待されておりまして、三歳くらいの背丈に骨と皮だけのような、大変おいたわしいお姿に御座います。
 声は玉の鈴の様にお綺麗で御座いますが、母御の死と父と継母の虐待で失ってございます」
現在育てている手前、賛美も事実とも受け取れてしまうアステムの言葉に、ハリスは家の中でも味方が居たのだと確信する。
 アステムが言葉を切ったところで扉が音を鳴らした。
 位置や軽さからリリーだと思い、入るように伝える。
 一瞬、アステムは非難するような眼差しをハリスに向けるが、入ってきたリリーを一瞥して驚愕にその眼を開く。
『じぃじ!』
入ってきたリリーは、部屋の中を見渡すとアステムに向けて頭から突撃した。
 その勢いから、リリーが彼に大分助けられていたことを推察できる。
『会いたかった!』『じぃじ!』『ひどい事されてない?』『無事で良かった!』
色々と言いたいことが溢れてリリーは幾重にも書記魔法を発動させて自らはアステムにしがみつく。
 アステムは宙に浮く文字を見て困惑顔だ。
「此方では本名が判明せず、本人も本名を呼ばれる事を拒んだためリナリーと名付け、リリーと呼んでます」
「そうでしたか……。
 私もリリー様とお呼びしても?」
リリーの現状を説明するハリスに、大きく頷いたアステムは問う。
 それにリリーは嬉しそうに頷いた。
『リリーもじぃじにリリーって呼ばれたら嬉しい!』
「ホッホッホ。
 此処では伸び伸びと過ごされている様ですな」
快活に、必要以上に大きい文字で答えるリリーに、安心したように笑うアステム。
『此処に来ていろんな人から褒められた』『毎日が楽しい』『赤くなった鉄に触ろうとしてエドに起こられた』『裁縫のお手伝いをしている時に針を指に刺してアフィに心配された』など、リリーがこの一ヶ月――約九十日の内に体験したことや感じた事を思い付くままに報告し、アステムは朗らかに相槌を打ったり、鋭くハリスを睨みつけたりする。
 睨まれたハリスは状況説明とどういう考えでそれを体験させたかを語り、リリーも追加でどう感じたかをアステムに報告する。

「今日はありがとうございました。
 これからもよろしくお願いします」
 話し合いの後、リリーの実際の仕事場を見学したアステムはその後の話し合いでリリーを『凡骨の意地』に預けることを決めた。
 その代わりではないが、リリーを慕う者達の安心のためリリーの回復の記録と念の為にと今日の様子を記録していた記憶玉、それから空の記憶玉を二つ渡すとアステムは帰って行った。
 見送るリリーは寂しそうだったが、健気に我慢する様子を見せる。
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