ある日、始まった物語

どこか儚げな美少女

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備えの章

第15話

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 冬空の下、紅茶の入ったカップを顔に近づける。茶葉の香りが鼻先をくすぐり、湯気が肌に触れると温かな風が包み込んでくる。

 唇にカップを触れさせる、豊かな香りと共に口元に少しだけ含む。

 優しい舌触り、それを飲み込むと食道を撫でるように紅茶の一口が胃袋へと静かに落ちていく。

 胃腸がじんわり温まる、ほぅ………という吐息が冬場の空気に晒されて白色に染まっていく。

 しかし、寒くなどはない。両手指で持ったカップの熱が掌を温めてくれるからだ。

 「ふふっ、今日は素敵な1日になりそうですね。」

 そう私は呟いた、テーブル越しに座る人物に向けて呟いたのである。

 その方はあまり紅茶を嗜まないのか、ズズズゥ……と紅茶を飲むと言葉を発する。

 「愛、お前って高校生の割におばぁちゃんみたいな趣味してるな」

 ___ピキリ

 大変です、私の心にヒビが……

 「ふふっ、フウタローは紅茶はあまりお好きではないのですか?」

 淑女たる者、怒りという感情を晒してはいけません。ここは冷静に……

 「嫌いっていうか、お前に蹴られまくったせいで股関節が痛くてそれどころじゃないんだよ!」

 ___ピキリ

 こ、ここは冷静に……

 「ふんっ、それはフウタローが……」

 反論しようとするが、そこで言葉を遮られる。

 「しかも猫の名前がアレキサンダーって初めて聞いたぞ、もう少し他に良い名前を……」

 ___ピキピキピキ………ピキリ!

 「ハァー……、ねぇフウタロー」

 私は席を立つ、そしてフウタローの前に立ち塞がる。

 「お、おい愛……?、もしもし愛さん?」

 怒りを込めた一撃がフウタローの股間に目掛けて放たれた。

 「クソムシがッ!!」

 ___メキリ…!

 蹴りの食い込む音、顔を青ざめさせたフウタローは悶絶した表情で床に倒れ込む。

 「あ、愛さん……これはヒドい……」

 そんな言葉、私には聞こえません。

 「ふん!、知りません!、そのまま床と仲良くお喋りでもしてたらどうですか!」

 そう言って席に座り直す、頬を膨らませた様子でテーブルに頬杖をついた。





















 「でっ、猫の名前についてでしたか?」

 機嫌を取り戻し、フウタローに問いかける。

 「あぁ、そうそう……さすがに毎回アレキサンダーと呼ぶのもな、こっちが恥ずかしくなるぞ」

 そう言うと彼はクッキーを頬張る、欠片がボロボロと崩れ落ちていく。

 「では、そんなに言うのなら候補の一つぐらいはあるのでしょう」

 少し語気が鋭くなる、その言葉にフウタローは悩んだ。

 「候補…?、候補かぁ……んー」

 少しの間が空き、こう答えた。

 "虎次郎……"

 「黒猫なのに虎ですか?」

 その一言にフウタローは苦笑気味に語った。

 「いや、何か意味がある訳ではないんだ。だけどよ、瑞稀がこいつを保護してた時にそう呼んでたらしいんだよ」

 そう語り、フウタローは膝上の猫を撫でた。その表情には少しばかり悲しさを含んでおり、心がモヤモヤとした。

 「なんだか……妬けますね」

 そう私は呟いた、フウタローは私に告白をした……しかし、本当のところは瑞稀さんの事が好きなのかな…?、と少し心配になる私がいます。

 だって、こんなにも身を案じてもらえるとしたら"好き"以外の何でもないんです。だから、フウタローに心配してもらえている瑞稀さんには少しだけ嫉妬します。

 「いえ…今の言葉は忘れて下さい、たしか虎次郎でしたね?、あなたが良いとおっしゃるのなら私は反対しません、これからは虎次郎と呼ぶことにしましょう」

 告白の回答を保留としましたが、たぶん私は助けられた"あの日"からフウタローの事が好きなのでしょう。だって自分なんかの為に自身の身を投げ打ってでも助けに来てくれた方を嫌いになんて……むしろ、心が高鳴ってしまいました。

 たぶん、これが恋……という感情なのでしょうね。

 しかし___、

 私には分からないのです、恋なんて初めての経験でどうしたら良いかも分からず、この感情の正体が本当に恋と呼べるものなのかすら理解が追いついてない状況。

 だから、私は告白の回答を先送りにする事にしました。正直なところ、こんな私にも乙女の恥じらいがあった事に驚いています。今でも告白の瞬間を思い出すと頬が熱くなってしまい、恥ずかしいです。

 「どうした、なんか顔が赤いぞ?、風邪か……?」

 不意に伸びてきた彼の掌が……私の額に触れる、ドキドキとした心臓の鼓動が鳴り止まない。

 更に顔が赤くなっていく。

 「熱っ!?、おいおい大丈夫かよ…?」

 心配した様子でこちらを見る、なんだかそれが嬉しかった。

 「だ、大丈夫です…!」

 「そ、そうか…?、あんまり無理するなよ、お前が倒れたら心配で仕方ないからな」

 私のこと、心配してくれるんだ……

 あぁ、もっと頬が熱くなってきました。

 顔から湯気が立ちのぼり、愛は倒れてしまった。

 「あ、あぁ……フウタロー」

 ___バタン…!

 「………ッ!?、おい大丈夫か!、しっかりしろ俺が分かるか…?」

 あ~!、顔が近いです。

 意識は歪み、視界はボヤけてきた。

 なんだか私、今なら何でも出来そうな気がします。

 「おい、返事をし……」

 ___チュ…!

 フウタローの首に両手を回して唇を奪う、長いキスの時間が流れた。

 あれ……?、そういえば今、わたし何しているのでしょう…?

 でも、えへへ……なんだか幸せな気持ちです。

 ___ガクリ…!

 愛はそのまま気絶した、その表情は何だか幸せそうに笑っていたのである。







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