16 / 64
備えの章
第15話
しおりを挟む冬空の下、紅茶の入ったカップを顔に近づける。茶葉の香りが鼻先をくすぐり、湯気が肌に触れると温かな風が包み込んでくる。
唇にカップを触れさせる、豊かな香りと共に口元に少しだけ含む。
優しい舌触り、それを飲み込むと食道を撫でるように紅茶の一口が胃袋へと静かに落ちていく。
胃腸がじんわり温まる、ほぅ………という吐息が冬場の空気に晒されて白色に染まっていく。
しかし、寒くなどはない。両手指で持ったカップの熱が掌を温めてくれるからだ。
「ふふっ、今日は素敵な1日になりそうですね。」
そう私は呟いた、テーブル越しに座る人物に向けて呟いたのである。
その方はあまり紅茶を嗜まないのか、ズズズゥ……と紅茶を飲むと言葉を発する。
「愛、お前って高校生の割におばぁちゃんみたいな趣味してるな」
___ピキリ
大変です、私の心にヒビが……
「ふふっ、フウタローは紅茶はあまりお好きではないのですか?」
淑女たる者、怒りという感情を晒してはいけません。ここは冷静に……
「嫌いっていうか、お前に蹴られまくったせいで股関節が痛くてそれどころじゃないんだよ!」
___ピキリ
こ、ここは冷静に……
「ふんっ、それはフウタローが……」
反論しようとするが、そこで言葉を遮られる。
「しかも猫の名前がアレキサンダーって初めて聞いたぞ、もう少し他に良い名前を……」
___ピキピキピキ………ピキリ!
「ハァー……、ねぇフウタロー」
私は席を立つ、そしてフウタローの前に立ち塞がる。
「お、おい愛……?、もしもし愛さん?」
怒りを込めた一撃がフウタローの股間に目掛けて放たれた。
「クソムシがッ!!」
___メキリ…!
蹴りの食い込む音、顔を青ざめさせたフウタローは悶絶した表情で床に倒れ込む。
「あ、愛さん……これはヒドい……」
そんな言葉、私には聞こえません。
「ふん!、知りません!、そのまま床と仲良くお喋りでもしてたらどうですか!」
そう言って席に座り直す、頬を膨らませた様子でテーブルに頬杖をついた。
「でっ、猫の名前についてでしたか?」
機嫌を取り戻し、フウタローに問いかける。
「あぁ、そうそう……さすがに毎回アレキサンダーと呼ぶのもな、こっちが恥ずかしくなるぞ」
そう言うと彼はクッキーを頬張る、欠片がボロボロと崩れ落ちていく。
「では、そんなに言うのなら候補の一つぐらいはあるのでしょう」
少し語気が鋭くなる、その言葉にフウタローは悩んだ。
「候補…?、候補かぁ……んー」
少しの間が空き、こう答えた。
"虎次郎……"
「黒猫なのに虎ですか?」
その一言にフウタローは苦笑気味に語った。
「いや、何か意味がある訳ではないんだ。だけどよ、瑞稀がこいつを保護してた時にそう呼んでたらしいんだよ」
そう語り、フウタローは膝上の猫を撫でた。その表情には少しばかり悲しさを含んでおり、心がモヤモヤとした。
「なんだか……妬けますね」
そう私は呟いた、フウタローは私に告白をした……しかし、本当のところは瑞稀さんの事が好きなのかな…?、と少し心配になる私がいます。
だって、こんなにも身を案じてもらえるとしたら"好き"以外の何でもないんです。だから、フウタローに心配してもらえている瑞稀さんには少しだけ嫉妬します。
「いえ…今の言葉は忘れて下さい、たしか虎次郎でしたね?、あなたが良いとおっしゃるのなら私は反対しません、これからは虎次郎と呼ぶことにしましょう」
告白の回答を保留としましたが、たぶん私は助けられた"あの日"からフウタローの事が好きなのでしょう。だって自分なんかの為に自身の身を投げ打ってでも助けに来てくれた方を嫌いになんて……むしろ、心が高鳴ってしまいました。
たぶん、これが恋……という感情なのでしょうね。
しかし___、
私には分からないのです、恋なんて初めての経験でどうしたら良いかも分からず、この感情の正体が本当に恋と呼べるものなのかすら理解が追いついてない状況。
だから、私は告白の回答を先送りにする事にしました。正直なところ、こんな私にも乙女の恥じらいがあった事に驚いています。今でも告白の瞬間を思い出すと頬が熱くなってしまい、恥ずかしいです。
「どうした、なんか顔が赤いぞ?、風邪か……?」
不意に伸びてきた彼の掌が……私の額に触れる、ドキドキとした心臓の鼓動が鳴り止まない。
更に顔が赤くなっていく。
「熱っ!?、おいおい大丈夫かよ…?」
心配した様子でこちらを見る、なんだかそれが嬉しかった。
「だ、大丈夫です…!」
「そ、そうか…?、あんまり無理するなよ、お前が倒れたら心配で仕方ないからな」
私のこと、心配してくれるんだ……
あぁ、もっと頬が熱くなってきました。
顔から湯気が立ちのぼり、愛は倒れてしまった。
「あ、あぁ……フウタロー」
___バタン…!
「………ッ!?、おい大丈夫か!、しっかりしろ俺が分かるか…?」
あ~!、顔が近いです。
意識は歪み、視界はボヤけてきた。
なんだか私、今なら何でも出来そうな気がします。
「おい、返事をし……」
___チュ…!
フウタローの首に両手を回して唇を奪う、長いキスの時間が流れた。
あれ……?、そういえば今、わたし何しているのでしょう…?
でも、えへへ……なんだか幸せな気持ちです。
___ガクリ…!
愛はそのまま気絶した、その表情は何だか幸せそうに笑っていたのである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる