『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第1章 リリアの巫女(いわやのはなのみこ)

第69話 リンの秘密

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教会の前まで移動すると、すでに夕焼けで空が赤く染まっていた。
「俺は町の東の入り口付近を探してくる」
ダラがそう言うと
「私は町の中心を探してみるわ、颯竢、付き合って貰えるかしら?」
リンが俺を誘ってきた。
「ん? もちろん構わないけど?」
意外な提案に少し戸惑うが
「じゃ、俺はダラに付き合うよ」
ジャンはダラに同行する様だ。
「私はここで待っていよう」
リーデンは教会の前で待機する様だ。
「あの…私も…」
フミナがダラに手を伸ばすようにしてつぶやく。
「フミナちゃんも一緒に行こうか」
ジャンはフミナの手を取った。
フミナは一瞬戸惑うような表情を見せたが
「はい」
そう言ってうなずいた。

ダラがジャンとフミナを連れて東門へ向かうのをリンと並んで眺めていた。
「てっきりリンはジャンと一緒に行動するのかと思っていたよ」
「そうね、それは良いアイデアだわ」
リンはそう言いながらスタスタと町の中心に歩いて行く。
かなりのスピードだ。
「何か急ぐ理由でも?」
リンは町の中心に来ると、井戸端に移動した。
仕方なくリンに従って付いて行く。

「ごめんなさいね、どうしても貴方に相談したい事があったの」
リンは周りを気にしながら俺の耳元で囁いた。
「最初にひとつだけ確認したい事があるの、大事な事だから一度だけ聞くね」
リンのあまりの剣幕に思わずうなずいていた。
「今回の依頼だけど私、実は別のアプローチでも依頼されているの」
「それはどういう?」
「商隊長は悪い人じゃないわ、でも商隊長に仕事を依頼した人はそうじゃ無い」
リンの言葉は彼女としては微妙に歯切れが悪かった。
その理由は何となく察しがついた。
「聞くよ、リンの信頼を裏切る様な真似はしないから」
「颯竢ならそう言ってくれるんじゃないかと期待していたわ」
リンはとびきりの笑顔を見せるとバックパックの中から何かを取り出した。

「これを見て頂戴」
そう言ってリンが見せて来たのは、手のひらにぴったりと収まるサイズの手鏡だった。

「青銅鏡? のわりに凄く綺麗に映ってるね」
リンの手のひらに収まっている鏡は一片の曇りもなく世界を逆さに映し出していた。
「吸い込まれそうだ…」
「あの夜、運び込まれた木箱の一つにコレが入っていたの」
突然の告白に一瞬理解が追い付かなかったが
「貴方達が私を荷物の見張り番にしてくれたのは本当にラッキーだったわ」
「そうか… ユニークスキルなんてなかったわけだ、 まんまとはめられたね」
リンの表情から何かを読み取れないかと思ったが、邪悪なものは感じられなかった。

「それで、リンはどうしたいの?」
「貴方に手伝って欲しいの、別の依頼人の仕事になっちゃうけど、手伝ってくれたら貴方の事はちゃんと依頼人にも紹介するから」
「今更依頼主を裏切らなければならない理由を教えてもらえるかな?」
「アルテミシア教の神器と巫女を異教徒から護って欲しい、という依頼なの」
「ちょっと待って、異教徒と言うのは誰の事を言っているの?」
ホリウチ神父とすり替わっていたカワイ神父は既に討ち取っていた。
他に異教徒とは…
「ホリウチ神父とその仲間たちの事よ」
リンはキッパリと答えた。

「リンの依頼主はカワイ神父の仲間って事?」
「違うわ、この町に本当の意味でのアルテミシア教は存在しないの」
リンは首を横に振った。
「それはどういう意味?」
リンの言わんとする事がイマイチ理解出来ない。
「ホリウチ神父はこの大陸の人間じゃないわ、もちろんカワイ神父もね」
「異教徒どころかまさかの異邦人だったと言う訳か」
「この神器にはとんでもない力が秘められていて、悪用されれば世界は戦乱の世に突入すると言われているわ」
正直そこまでは言い過ぎだろう。

「そろそろ聞かせてもらえるかしら? 颯竢は私に協力してくれる?」
「ここまで聞かされて断る選択肢が用意されていた事に驚きだけど、分かった、協力するよ」
リンの話は突拍子もない様にも思えたが、何かが腑に落ちた感もある。
「ありがとう、心強いわ」
リンは俺の手を両手で掴み、握手をした。

「それで? 具体的には何をどうすれば良い?」
「依頼の内容は三つ。 神器を異教徒に渡さない事、巫女の安全を確保する事、そしてもし、儀式が行われてしまった場合、正しい儀式をさせる事」
「正しい儀式?」
「巫女が二人で行うのが本来の儀式のやり方なの」
「ホリウチ神父はそれを一人でやらせようとしている?」
「そのようね、依頼人としては『正しい儀式をする事』が最善だと考えているみたいだったわ」
「儀式をするのが異教徒でも構わない、と?」
「巫女と神器さえ揃えばあとは関係ないみたいね」
「結局フミナの姉が見つからなければ行く意味がないのか…」
「いいえ、フミナのお姉さんも護衛の対象だから、どうあっても行くしかないのよね」
納得したわけではないが、一応理解はした。

「もし、不完全な形で儀式が行われそうになった場合、私は鏡を持って逃げるから、颯竢は巫女を連れて逃げて欲しいわ」
「あぁ、なるほど、って随分難易度高くない?」
俺はフミナを殺しかけていて、関係は良好とは言えないし、もう一人の方は面識もない。
どちらかと言えばダラの方がふさわしいだろう。
「大丈夫よ、多分追いかけられるのは私の方だから」
「鏡はそんなに大事な物って事?」
「そうね、召喚した力を封印出来るとか何とか…」
「それってリンが鏡を持って行かなければ全て解決って事には?」
「私も詳しくは知らないのだけれど、巫女を犠牲にすれば召喚自体は鏡が無くても可能らしいの」
「それは…あまり考えたくないな…」
「結局私も雇われただけで、それ以上の事は分からないのよね」

それにしても何てことだ、リンは最初からほとんど知っていたようだ。
そう言われれば思い当たる節も無くはない。
「ちなみにジャンはこの事は?」
「あの子にこんな事が理解出来ると思ってるのかしら?」
「いや、さすがにその言い方はジャンが気の毒…でもないのか?」
「ふふっ、貴方って残念なイケメンよね」
「転生前はフツメンだったんだよ」
「でもそれくらいの方が私は好きよ」
どこまで本気で言っているのか分からないリンの顔をまじまじと見る。
驚くほど整った顔立ちだが、こんなにじっくり見たのは初めてかもしれない。
こんな時だが、何故か『あの』笑顔が脳裏をよぎる。

いや、別に浮ついた気持ちになってる訳じゃない…
俺は目を瞑り、軽く頭を振った。

「颯竢に話して良かったわ、それじゃ戻りましょ」
「人探しは?」
「残念だけどそろそろ集合の時間だわ」
確かに長く話し過ぎたようだ。
リンは最初から人探しをする気は無かったのだろう。
「それじゃ戻ろうか」
いつの間にか日は沈んでいた。
思ったより明るい月の光に照らし出されたリンの姿は妖精のようにも見えた。

「おーい! リン! 颯竢! おかえりー!」
すっかり暗くなった教会の前でジャンが手を振っている。
リーデン、ダラ、ジャン、フミナ、そして黒髪の女性の姿も見えた。
「どうやら役者は無事に揃ったみたいね、巫女の事、お願いね」
リンは俺の耳元でそっと囁くと、ジャン達の方へ走って行った。



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