『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第1章 リリアの巫女(いわやのはなのみこ)

第70話 月の巫女

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「こっちはミカちゃんと出会えたぞ」
ジャンが得意そうに言った。
「この度は妹が大変お世話になりました。 姉のミカと申します」
そこにいたのは間違い無く、あの時の女性だった。
確かに憂いを帯びた表情が大人びて見えるが、幼さを残した顔立ちをしていた。
「よろしく」
「よろしくね」
挨拶だけした俺の横でリンがミカに手を差し出した。
「はい」
ミカはリンの手を取ると微かに微笑んだ。

「私の方は収穫無しだよ」
リーデンに収穫が無かったと言う事は洞窟への出入りも無かったと言う事だろう。
「私達も収穫ゼロだわ、人影すらほとんど見当たらなかったわ」
リンがキッパリと言った。
なるほど、知らなければリンが嘘を言っているとは気が付かない。
「そろそろ晩飯の時間だし仕方ないさ」
ダラは収穫が無かったと聞いても想定内だという感じだった。

「さて、ミカの話だとホリウチ神父が海底神殿にいる事はほぼ間違い無い様だ」
「海底神殿?」
初めて耳にするワードが当然の様に出て来た為思わず聞き返すが
「例の地下ピラミッドの事だ、ここから東へ約4キロ沖の海底らしいぞ」
「前回あんなに苦労して帰って来たのに、また行かなければならないとは…」
予想通りの回答に思わず愚痴が漏れた。

「あまり時間が無いから手短に紹介しよう、俺がダラ、隣がリン、その横がジャン、そっちが颯竢でミカとフミナだ」
「アニキ、流石にちょっと雑過ぎない?」
ジャンは少し見ない間にダラをアニキと呼ぶ事にした様だ。
「そうか? さて、海底神殿に行くとして、どうするかだな」
「どうするかとはどういう事?」
ジャンが不思議そうに尋ねる。
「人選ね、商隊長は当然置いて行くとして、フミナとミカちゃん?」
リンは初対面のミカを呼び捨てにする事に抵抗があったようだが、フミナは呼び捨てになっており、最後の『ちゃん?』が微妙なイントネーションになっていた。

「私は巫女です、元々行く予定でしたし、行かない訳にはいきませんので、でも…」
ミカは言い淀んだ。
「私も行きます! それが私のすべき事だと思うから…」
フミナはミカの言葉の意図を汲み取ったのか、強めに自己主張した。
ミカもそれに異を唱える事はしなかった。
「置いて行くにしても安全とは言い切れない、だったら傍にいて護るのが冒険者のやり方だね」
俺とリンにはミカもフミナも連れて行くべき事情があった。
それに、守るべき者を置いて行った後悔は、今でも俺の心に深く突き刺さっている。
「颯竢の言う通りだな」
ダラもうなずいた。

「商隊長は部屋に鍵をかけて待機、明日の昼前に町の外、街道脇に集合、それでいいな?」
「わかった、皆無事に戻ってくれ」
リーデンはダラの指示に頷くとミカとフミナに目を向けた。
「二人の事は私達が責任を持って守るわ、ね、颯竢?」
リンが俺に振ってきた。
フミナに負い目を感じている俺に対する配慮だろう。
「あぁ、今度は俺達が絶対に守る」
それは自分に言い聞かせる為に言ったのかもしれない。

「隊列を決めよう、先頭は颯竢、頼めるか?」
ダラの言葉に頷いた。
順当だろう。
「次にジャン、フミナとミカを挟んでリン、しんがりは俺が務める、問題無いか?」
ジャンとリンも頷いた。
「途中から通路が広くなったら2列縦隊になって進む」
「オッケー、アニキ、それで行こう」
ジャンはダラに親指を立てて見せた。

洞窟の前に着くとミカが何かを詠唱した。
「サンスクリット語に似てるな…」
ダラに言われたが、サンスクリットそんなに詳しくないので…
「基礎知識ね」
返事に困っている俺を尻目にリンが頷いた。
え? 何の基礎なの?
「そうなのか? 覚えておくよ」
ついていけずに狼狽する俺の横をジャンが軽く追い越して行ったが、絶対聞いた端から忘れていくのだろうな。

ミカが両手の指を組み合わせて力ある言葉を発すると波紋の様に力が広がるのが視えた。

「これが…巫女の力?」
ダラが衝撃を受けた様子で言ったが
「これはホリウチ神父から教わった魔物避けのおまじないです」
首を横に振りながらミカが答えた。
「俺にも出来るかな?」
「無理ね、明らかに何か力が出てたもの、おまじないの域を超えてるわ」
目を輝かせてミカに詰め寄るジャンをリンが制止した。
「えー? やってみるだけ~。 教えてミカちゃん~」
「やめなさい、困ってるでしょ」
しつこく食い下がるジャンの頭をリンが叩いた。
「遊んでる暇は無い、突入するぞ」
ダラの号令を聞き、俺は先陣を切って洞窟に飛び込んだ。

「あれ? 明るい!」
洞窟の中が普通に明るい事に気付き、思わず声が出た。
「おまじないの効果です。 『竜牙兵』も襲ってこなくなります」
驚く俺にミカが答えた。
「『竜牙兵』?」
ジャンがダラに尋ねた。
「そうか、剣で簡単に倒せたからおかしいと思ってたんだ」
「なになに?」
ダラは何かに気付いた様だが、ジャンはさっぱりという顔だった。
「前回戦ったスケルトンの事だ、ドラゴンの牙を触媒にして創る魔法生物の一種で基本的な構造はゴーレムと同じだな」
ダラがジャンに説明する。

「へぇ、それは凄い! それじゃゴーレムも?」
ジャンがミカに尋ねるが、ミカはキョトンとした表情を浮かべた。
「『ゴーレム』って何ですか?」
「あれ? 何か洞窟にウヨウヨいたんだけど…」
ジャンが困惑気味に答えた。
「ミカ、前に神殿に来たのはいつの事だ?」
「10カ月くらい前です」
「カワイ神父がいじった可能性があるのか… フミナ、神殿に来た事は?」
「ありません」
ダラは矢継ぎ早に二人に尋ねるが、ゴーレムの件については分からないようだ。
「このスケルトンだけでもスルー出来るのは助かるよ」
ジャンは気楽に笑った。

時々すれ違う竜牙兵は確かにこちらに全く反応しなかった。
「何だかかえって不気味ね、いきなり後ろから襲って来ないかしら?」
リンは時々後ろを振り返りながらダラに問い掛けるが、ダラは全く気にしていない様だ。
「しんがりなんだからしっかりして欲しいわ」
リンがダラに注文を付けるが、ダラは涼しい顔をしたままだ。
「魔法生物にそんな知能は無いさ、単純なコマンドを遂行するだけだ」

洞窟の奥まで行くと巨大な扉に辿り着いた。
「さて、問題はこれからだ、ゴーレムが復活していたら見逃してくれるかは未知数だ」
ダラが振り返り、ブリーフィングが始まった。
「もし襲い掛かって来たら蹴散らすしか無いね」
前回使った『安全装置』がまだ使えるなら楽に進めるのだが、楽観論で作戦を立案するようでは長生き出来ない。
加えて、ダラの剣は刃こぼれが酷く、ジャンのクレイモアに関しては最初から刃こぼれも酷く、少し曲がってさえいる。
「コソコソ行ける人数じゃ無いから、颯竢、ジャン、頼んだわよ」
リンが俺達にプレッシャーをかけてくる。
今回は、リリアの町が田舎すぎて補給もままならないのが一番堪えるんだよな。

「お役に立てず、すみません」
ミカが俺達に頭を下げるが
「いや、竜牙兵の件も本当に助かった、あとは俺達に任せてくれれば良いさ」
ダラはミカに笑い掛けた。

前回戦って破壊したゴーレムは放置されていた。
ミカはその残骸を見て『あれ?』という顔をした。
「どうかしたの?」
何となく尋ねると
「いえ、これがゴーレムですか?」
「そうそう、随分苦労したなぁ」
「動くんですか?」
「まぁ、ゴーレムだしね」
ジャンの答えはいかにもジャンといった感じで実に味わい深い。
「ずっと石像だと思ってました…」
ミカの返事に違和感があった。
つまり…
もしかして俺達に反応して襲い掛かってきてるって事?

元々ミカは一人でこの道を通る予定だったはずだ。
ゴーレムに襲われていたらミカは儀式が出来ない。
まぁ細かい事は気付かなかったフリをするのが一番だな。
「ふむ、俺達を異物と判断して排除しようとしてるって事か… ミカだけの時は動かない事を考えると俺達が侵入している事は最初からバレてると考えて良さそうだな」
あえて触れなかった事をダラが真面目に考察する。
「なるほど、さすがアニキだな」
ジャンはすっかりダラに懐いていた。



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