『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第2章 環刻館の後継者(かんごくかんのこうけいしゃ)

第86話 怪奇現象

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深夜1時頃。
ダラの気配を感じて目を覚ました。
交代の時間だ。
ミカとフミナは完全に熟睡していた。
隣で眠る二人を起こさない様にそっと抜け出した。
座って寝ていた為、少し首に違和感がある。

「ふにゃぁ?」
フミナが目を覚まして変な声をあげるとミカも薄っすらと目を開けた。
「朝でしょうか?」
二人はまだ寝ぼけている。
「体が休まらないから寝袋で寝ると良いよ」
二人の耳元で囁くが
「はぁい」
そう答えてフミナはその場で横になってしまった。
「仕方ない、ダラ、少しだけ二人を見てて」
ダラに二人を任せて馬車の荷台に入った。

まず相棒のバスタードソードを背負う。
ダラでは無いが、やはりナイフでは心もとない。
装着位置が良いか何度か柄を握って確認してみる。
「よし」
装着感に満足すると、荷台の奥に目を向けた。
そこには商隊員達がミカとフミナの為に用意してくれた寝床がある。
二人の寝袋を抱えて荷馬車から飛び降りる。
いびきをかいて寝ている商隊員達を起こさない様、慎重にテント内を移動して外に出た。

寝袋をひとつダラに渡すと、ミカの上に寝袋を開いて被せた。
少し冷えるからか、ミカは寝たまま寝袋の中に潜り込んでいった。
靴を脱がせてファスナーを閉じてやるとミカは幸せそうに寝息を立て始めた。

ダラもフミナに寝袋を被せるとフミナは寝袋の中に吸い込まれる様に潜り込んで行った。
「頭の向き逆」
ダラがフミナに囁くが、起こさないように小さな声で囁いてもフミナには届かない。
結局、寝袋から飛び出した足が冷えないように靴を履いたままファスナーが閉められた。

「何かそういうUMAいなかったっけ?」
フミナの恰好を見て思わず苦笑いが止まらない。
俺の言葉にダラもニヤリと笑った。
「それじゃ後は見とくからダラもおやすみ」
ダラはうなずくと、毛布を身体に巻き付け、座って目を閉じた。

時折、ミカやフミナが『ふにゃふにゃ』と寝言を言う以外は虫の鳴く声しか聞こえない。
脇の下に忍ばせているナイフに無意識に手を伸ばしていた。
転生してすぐ、シド先生からもらったナイフで思い入れもあり、暇な時にはよく手に取っていた。
ブレードとグリップの鋼材が一体化したフルタング構造のナイフは、強度と信頼性に優れ、何かと頼れる存在だった。
収納時に抜け落ちないようにグリップに巻かれた留め金を外し、ナイフを抜いてみた。
硬い質感のある美しい光沢は貰った時のままだった。
木製のハンドル材はすっかり俺の手に馴染んでいて、今や身体の一部の様な感覚で扱える。
食材のカットから工作、薪割り、いざという時は護身用としても頼れる冒険者の必須アイテムだ。
磨き抜かれたブレードに俺の顔が映っている。

思えば色々あったな…

この世界に来る前、そして来てからの事を思い出していた。
最近では思い出すことも無くなってきたが、両親や弟の事。
初めて魔物を討伐した時の事。
アイリスやリディアそしてティファニー。
リンの事もそうだ…

そうだ、まだ感傷に浸っている時間ではない。
共に冒険をした仲間がまだ失われたままだ。
ナイフをシースに戻し、リンが向かったという北の山へ目を向けた。
ここからだと雪を頂いた山は、月明りに照らされて山頂が少し見えるだけだが、かなり高い山だと思われる。


ふと、生暖かい風が吹いた様な気がした。
身の毛がよだつ様な何かを感じた。
気配や息遣いとは違う。
視線…だろうか?
とりあえずその場から3メートルほど前方に跳んだ。
両手で地面に着地して前回り受け身をとって身構える。
周囲を見回すが、特に何者かの姿は見えない。
空か?
寝る前に見た黒い影の様な物を思い出し、上を見上げるが、やはり何もない。

「気のせい…?」
冷たい手で首筋を撫でられる様な不気味な気配を感じ、すかさず振り返る。
やはり何もいない。
これは気のせいなどではない。
それは冒険者としての俺の勘だった。

目を閉じ、意識を集中する。
人の気配はダラとミカ、フミナの三人分。
鈴虫の鳴く声、焚火の薪が燃える音。
すぐ背後に僅かな魔力…
魔力?
ナイフを抜き、後頭部の後ろの空間に突き立てた。
薄いガラスを割った様な音と感触が伝わってきた。
振り向きつつ飛び退くと、黒いお椀型の何かが砕け散った状態で空間に張り付いていた。
お椀の口をこちらに向け、聞き耳を立てているようにも見えた。
「何だ?」
目を凝らしてそれを見ようとするが、見ようとするほどにピントがぼやけてよく見えない。
それは徐々に透明になり、1分程度で消滅した。
それが消えると、今まで感じていた違和感も全てが嘘の様に無くなった。
まだ暗いが、もう朝なんじゃないかというくらい、夜が明けたような感じがした。
よく分からないが全て解決した様な気分だった。
謎のやり切った感に包まれ、日が昇るのをひたすら待った。


「おはよう、問題無かったか?」
日が昇ると真っ先にダラが起きて来た。
最初から起きていたんじゃ無いかという位の寝起きの良さだ。
「実は…」
正体不明のお椀のような物体について事細かくダラに話した。
「ふむ、ちょっと良く分からないな…」
俺の話を聞いたダラはしばらく考えるとそう答えた。
よく分かってない俺が説明するのだから当然とも言える。
俺達の話し声で目が覚めたのか、ミカがモゾモゾと動き始めた。

「おはようございます」
ミカが目をこすりながら挨拶した。
「おはよう、寒くなかった?」
昨夜は冷えた事もあり、体調を崩していないか心配だった。
「暖かいですよ?」
どうやら快適に寝られたようだ。
「でもちょっと怖い夢を見てしまいました」
ミカは胸の前で拳をキュッと握った。
「怖い夢?」
ダラが意外そうに聞く。
巫女でも怖い夢くらい見るだろう。
「黒い人影が追いかけて来る夢です。 ひらひらと飛んでいました」

ダラに視線を向けると、ダラもこちらを見ていた。
あの時、ミカとフミナは寝ていたはずだ。
「黒い影が私を捕まえるとみんな私の事を忘れてしまって『待って! 置いて行かないで!』って叫んでも声が出なくて、一人きりになるの…」
過去のトラウマか何かだろうか?
「俺はここにいる。 ミカちゃんの事置いて行ったりしないから」
ミカは俺に抱きついてきた。
よほど怖かったのだろう。
「はい、颯竢様…」

「ふにゃ? おはよ?」
フミナの寝袋から声がした。
フミナは寝袋の足が入る方に頭が入っていて、足しか見えない。
「起きたか? 寝坊助」
ダラがそう言って寝袋のファスナーを開ける。
「こうなっていたかー」
全ての謎が解けたと言わんばかりの顔でフミナが呟く。
「どうもこうもねー」
まだ寝ぼけているフミナにダラが呆れた様に返した。

フミナは俺にしがみついているミカを見てこちらを指差した。
「ゆーれー出たのー?」
寝ぼけている割りになかなか話についてこれているな…
「いや、出てない… とは言い切れないんだよなぁ」
空飛ぶ黒い影を思い出すと、俺もちょっと自信が無かった。
「こわいねー」
フミナはそう言うと再び寝袋に顔を埋めた。
「ここでも幽霊っていたりするの?」
まだしがみついてきているミカに何となく尋ねる。
「ここでも、と言うのはよく分かりませんが、リリアの町でも何度か噂は聞きました」
どこの世界でも一緒なのか…
ミカの話を聞いて俺はうなずいた。


「何だ? 楽しそうな話をしてるじゃないか?」
フミナを再び寝袋に封印したダラが話に割り込んできた。
「楽しそうなのはダラだけだよ、きっと」
「そうか? ロマンがあって良いじゃないか?」
ダラが訳の分からない事を言い出した。
「無くて良いです」
ミカも思わず反論するが、ダラは遠慮なく言われて嬉しそうに見える。
「まぁ、そんなに嫌うなよ、幽霊だって生きてるんだぞ?」
「生きてねーよ!」
ダラのボケに盛大にツッコミを入れずにはいられなかった。

空高く、うろこ状の雲が白い山の方まで続いていた。
だんだんと冷たくなる風が、俺達の足元に枯れ葉を運んで来た。
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