『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

文字の大きさ
92 / 103
第2章 環刻館の後継者(かんごくかんのこうけいしゃ)

第92話 生贄

しおりを挟む
そこはかなり広い部屋だった。
ざっと見回した感じでは部屋には扉も窓も無い。
壁際の燭台にろうそくが灯っており、揺れる炎で周りの影もゆらめき、否でも応でも雰囲気が盛り上がる。
って、これは生け贄の儀式か何かなのか?
部屋の中央にはコモォヌォの部屋で見たのと同じような巨大な鏡が置いてあり、ここの鏡は4枚とも一か所にまとめられていた。

そしてどういうわけか俺の身体は宙に浮いている。
体勢は足がやや下向きのうつ伏せ状態だった。
手足は自由に動かせるが、どうもがいても空中に固定されて動かない。
一体どうなってる?
相変わらず周囲には気配もないが、俺の周辺に僅かな魔力を感じる。
俺をさらった奴はここにはいない。
そして何かの魔法でここにつなぎ留められたという事だろう。

頭が重力に引かれて重く感じるようになったのは、謎の黒い被り物を壊したのが原因だろうか?
仮にそうだとしたら身体を糸のような物で吊るされているのかもしれない。
その糸もナイフで切れれば良いのだが…

右手に持ったナイフで左手の周囲を適当に切ってみる。
蜘蛛の巣を木の枝で取り除くようなイメージで動かすと、急に左手の重さが戻った。
糸は上から伸びて来て手首や肘の辺りに繋がっていたようだ。
ナイフを左手に持ち替え、右手の糸も切る。
右脚、左脚、腰の辺りも切ると、肩の部分だけ吊られたようになり、地面に脚が着いた。
肩の糸も切断すると、完全に自由になった。
僅かに感じていた魔力は霧散して何も感じられなくなった。


なるほどね…
身体の自由が戻ったところで部屋の探検を始めた。
部屋の中央に配置された鏡は4枚で、鏡面を外側にむけた四角柱の形に配置されている。
鏡に引きずり込まれてここに来た事を考えると、戻るときもこの鏡が必要になるのだろう。
どういう理屈なのかは全く想像も出来ない。
安全性についてもそうだ。
鏡を手で触れる事には何となく抵抗があった。
懐のシースからナイフを引き抜き、鏡面に刃を当ててみる。
コツコツとした手応えが返って来る。
刃先で鏡面を引っかくと、黒板を引っかくような不快で甲高い音を立てた。
鏡面には小さな引っかき傷が出来ていた。
「普通の鏡か…」
ナイフをシースに戻して左手で拳を握り、裏拳で鏡の表面を軽く叩いてみる。
軽く3回ノックするつもりだったが、最初の一発目が鏡の中に吸い込まれた。
俺の拳を中心に鏡面に波紋が広がる。

「痛っ!」
引っかかれるような痛みに慌てて手を引いた。
鏡面は水しぶきの上がらない水面のように揺らめいている。
俺の手の甲には鏡に付けたのと同じ大きさ、形の傷がついていた。
よく分からないが因果関係は明らかだ。
鏡を使えば戻れそうだという事は分かっているが、戻れる保証もない。
他に方法が無いか、部屋の中を確かめてみる事にした。

改めて見ても感想は、広い部屋だった。
外界から光が差し込む事は無い様だ。
壁際に等間隔に設置された燭台の灯りが部屋の中央に置かれた鏡に映し出され、灯りが踊っているように見えた。
壁は無機質で凹凸もないコンクリートのような材質で出来ている。
燭台はロウソクではなく、油皿に油を入れて灯芯に火を付けるタイプだった。
油の香りを確認するが、嗅いだことのない香りだった。
ふと、強烈なめまいに襲われた。
こ… これは…
意識は長く保ちそうになかった。
ここで気を失ったら、恐らくは敵の思うつぼだろう。
迷っている余裕は無かった。
ふらつきながらも必死に走り、部屋の中央に見える鏡に頭から飛び込んだ。

「颯竢!」
ダラの叫び声が聞こえる。
「颯竢様!」
ミカの声だ。
「颯竢様! 無事だった!」
フミナだ、みんな随分と久しぶりな気分だった。
突如、右手の甲に鋭い痛みが走った。
「いて!」
「颯竢様! お怪我を!」
ミカが咄嗟に呪文を唱える。
「みんな…」
そう言おうとして口を開いたところで意識が暗転した。

「…… …様!」
「…   毒が  …   …効かない…」
「……  大丈夫…    …… …ないです」

「あれ? どうしたんだっけ?」
目が覚めるとベッドの上だった。
「颯竢様、大丈夫ですか?」
ミカが俺の手を握り締めて尋ねてくる。
「うん、確か薄暗い部屋を調べていて、部屋の真ん中に鏡が置いてあって、壁には燭台が…。その後の事が思い出せないな…」
何か思い出せないかと思い、記憶の糸を手探りするが、何も思い出せなかった。

「お? 目が覚めた様だな」
ダラとフミナが部屋に入ってきた。
「何があった? 最初から説明してくれないか?」
ダラの問いかけに頷き、鏡の中での出来事をなるべく正確に話した。
「つまり、どうやって戻ってきたのか覚えてないんだな?」
「気が付いたらここで寝ていたんだ」
ダラの質問にも、そう答えるしかなかった。

フミナが「あれ?」という顔をした。
「左手の怪我の事は?」
「ん? 右手じゃなくて左手?」
フミナの問いに逆に尋ね返す。
「なるほど、そうか」
「やっぱり何かの毒物か薬品の様ですね…」
納得した様子のダラにミカも頷く。
「フミナも気を失う前の記憶が抜け落ちているんだ、同じ毒薬なら同一犯の線もあるが…」
「それは気に入らないね」
ダラの言葉を首を振って否定した。
「ふむ?」
ダラは俺に聞き返してきた。

状況から見て、攫われたのはベルファム卿と夫人、ルーヴァルとイィガァ、そして未遂ではあるが、フミナと俺だった。
そしてその事件の中では…
「今回の事件、フミナちゃんの誘拐だけ、やたらと大雑把なんだ」
「確かに、街の中で白昼堂々と女の子を担いで誘拐するなんて… 大雑把過ぎる気がしますね」
ミカが人差し指を頬に当てて上目遣いで言った。
そんな仕草も少しリンに似ていた。
「動機が分かる程ベルファム卿の事も犯人の事も知っている訳でも無いしな、最悪このまま手を引く、ってのも一つの手だが…」
そう言うダラをフミナがジト目で睨む。
「分かってる、きちんと助けるさ」
ダラは肩をすくめて言った。

「あれ? そういえばコモノは?」
コモノの姿が見当たらない事に気付いて誰にとも無く尋ねる。
「この部屋では落ち着かないみたいなので隣の部屋で休んでもらっています」
ミカの説明で納得する俺にダラがニヤリと笑い掛けて来た。
「颯竢がさらわれている間、こっちも分かった事がある」
「この鏡ですが、ゲートの魔法が使われています」
ミカが聞きなれない単語を口にした。
「ゲートの魔法?」
「いつぞやの地下神殿で儀式に使った鏡と同じ原理だそうだ」
ダラが説明するが、やはりよく分からない。
「それは、神器だから使えたんじゃ?」
俺の問いにミカが首を横に振る。
「神器の箱と繋ぐにはあの鏡が必要ですが、ゲートの魔法自体は普通の鏡でも問題無いのです」

「それで、結局そのゲートっていうのは?」
よく分かっていない俺はもう一度聞き直した。
「聞いて驚け、なんと、どこでもドアだ」
「噓でしょ? 鏡の中の世界だと思っていたよ」
「それじゃ鏡の中では左右が反転していたのか?」
ダラに指摘されて俺も気が付いた。
「確かに、右手は右手だったかも…?」

「颯竢様、少しナイフを見せてもらっても良いですか?」
ミカが突然そう言った。
「勿論、どうぞ」
愛用のナイフをシースから抜くと、ハンドルをミカの方に向けて差し出した。
ミカはナイフを受け取ると、ナイフの刃に映る自分の顔を見つめているように見えた。
「どうかしたの?」
真剣な顔でナイフを見つめるミカに、不安になって尋ねる。

「このナイフで鏡の表面に傷をつけたと聞きましたが、このナイフには切れ味を良くする為でしょうか? ゲートの魔法が使われています」
ミカはナイフを俺に返しながら言った。
「いや、そんなに身近な魔法なの?」
ミカに尋ねるが、ミカも不思議そうな顔をして首を横に振った。

「ところで、ベルファム卿達が拐われた時の事、コモノに詳しい話は聞けたのかな?」
俺には気になっている事があった。
「コモノちゃんがまだ精神的に安定していなくて…」
フミナが隣の部屋の方に目を向けた。
「何か気になる事でもあるのか?」
ダラが何となく、俺に尋ねてきた。
「一人だけならまだしも、4人とも鏡の中から引き込まれたとは考えがたくてね」
一人が引き込まれたら普通みんな鏡から離れるだろう。
「つまり?」
ダラが俺に続きを促した。
「誰かがこっちから鏡の中に押し込んだのでは?」
俺の言っていることは仮説に過ぎない。
「もしそうだとすれば、敵はいつでも『こっち』に来れると言う事か…」
ダラが唸った。

「はっ!」
フミナは弾かれた様に隣の部屋に走った。
「もしかして隣の部屋にも鏡がある?」
俺の問いを聞いたダラが青い顔をして部屋を飛び出して行った。
「コモノちゃん…」
フミナが呆然と立ち尽くしている。
「クソ! やられた!」
コモノがいるはずの部屋の中にはフミナとダラしかいなかった。

「コモノを取り返して犯人はぶっ飛ばす! しかし、手がかりになるのはもうあの獣人しかいない…」
ダラは決意も新たにそう宣言した。
「冴えない話ではあるけど仕方ないね…」
ダラの決意に俺の台詞が水を差す。
「その獣人さんは無事でしょうか?」
ミカがふとそんな事を言い出した。
俺はダラと顔を見合わせると、全速力でガレージに戻った。
ガレージに戻ると馬車の荷台に飛び込んだ。
しかし、そこに俺達が放り込んだ獣人の姿は無かった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~

かくろう
ファンタジー
【ためて・放つ】という地味スキルを一生に一度の儀式で授かってしまった主人公セージ。  そのせいで家から追放され、挙げ句に異母弟から殺されかけてしまう。  しかしあらゆるものを【ためる】でパワフルにできるこのスキルは、最高ランクの冒険者すらかすんでしまうほどのぶっ壊れ能力だった!  命からがら魔物の強襲から脱したセージは、この力を駆使して成り上がっていく事を決意する。  そして命の危機に瀕していた少女リンカニアと出会い、絆を深めていくうちに自分のスキルを共有できる事に気が付いた。 ――これは、世界で類を見ない最強に成り上がっていく主人公と、彼の元へ集まってくる仲間達との物語である。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

【収納】スキルでダンジョン無双 ~地味スキルと馬鹿にされた窓際サラリーマン、実はアイテム無限収納&即時出し入れ可能で最強探索者になる~

夏見ナイ
ファンタジー
佐藤健太、32歳。会社ではリストラ寸前の窓際サラリーマン。彼は人生逆転を賭け『探索者』になるも、与えられたのは戦闘に役立たない地味スキル【無限収納】だった。 「倉庫番がお似合いだ」と馬鹿にされ、初ダンジョンでは荷物持ちとして追放される始末。 だが彼は気づいてしまう。このスキルが、思考一つでアイテムや武器を無限に取り出し、敵の魔法すら『収納』できる規格外のチート能力であることに! サラリーマン時代の知恵と誰も思いつかない応用力で、地味スキルは最強スキルへと変貌する。訳ありの美少女剣士や仲間と共に、不遇だった男の痛快な成り上がり無双が今、始まる!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...