悪役令嬢とヒロインが入れ替わりまして

じゅうごにち

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計画 3

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それから、半年がたった。
季節は夏から秋、そして冬へと移ろった。
私はエデンが帰ってくるより前に、ミアへ計画を説明した。もちろんミアは、快く了承してくれた。事前にお互いの情報を交換して、入れ替わったあとも上手く振る舞えるようにした。
それから私は、エデンの帰りを待った。とても心配だった。彼の類まれな身体能力ばかりを見ていて、彼がまだ幼い少年であったことを忘れていた。
ある日のこと、私が机につき、日記を書いていると。
「よお、久しぶりだな、姫。南方の土産物を買い込んでいたら、えらく遅くなっちまったよ。」
エデンだ。帰ってきたのだ!
「エデン! 心配していたんですよ!」
「本当か? それより、ハナバ族の仮面だぜ、面白いだろ。ほら見ろーー。」
エデンが言い終わる前に、私は彼に抱きついた。
「……なっ、何するんだよっ!」
顔を離して、エデンの表情をうかがった。嫌がられちゃったかな。エデンの顔は少し赤くなっているように見える。とにかく、嫌われたわけではないみたい。よかった。
「……あと、もっといい土産があるよ。ほれ。」
  そう言うと、何かをこちらに放った。
  慌てて手で掴んだのは、とろりとした薄茶色の液体の入った小瓶。
 もしかして。
「これが、龍角の秘薬ですか……?」
エデンは静かに頷いた。
「姫の依頼を受けてから、色々な商人に話を聞いたんだ。大抵のところではそんなの伝説に決まってるって、門前払いだったよ。ただ、ようやく有益な情報が手に入ってね。南方の港町に商人達がいて、そこの奴らが扱ってるかもしれない、って。」
私は手の中の物をじっと見た。次第に胸が高鳴ってくるのがわかった。これは、一世一代の大チャンスかもしれない。というか、この機会を逃したら二度と次期王妃という運命からは逃れられない可能性だってある。
「ホンモノかは、分からねえよ。」
エデンは、私の表情をみて言った。
「使うかどうかは、姫次第だ。……でもおれは使わないほうがいいと思う。姫のことだから何に使うかは検討がついてるんだよ。」
彼は見透かしたように言った。
「姫、あのクソ王子から逃げるのは、無理だよ。」
私は首を振った。諦める訳にはいかなかった。婚約が決まったあの日から、私へのお妃教育が始まった。教育係はとても厳しくて、しかし要領の良かった私は、着実に必要な知識を溜め込んでいったのだ。
あの日から私は、何の因果か運命に捕らわれ、自由を失った。いや、あの日からじゃない。公爵家に産まれた時からだ。私は、地位も財産も欲しくはなかった。欲しいのは、自由だった。
「ありがとう、エデン。あなたのおかげで道が開けました。」
「そりゃどうも。くれぐれも危険な事態だけは、招くんじゃないぞ。」
エデンは呆れ顔だったが、もう止める気はないようだった。
「まったく。これだからおれのお姫さまは。」
エデンにアフタレシア金貨を支払うと、彼はいつものように去っていった。
私はもう一度手の中を見た。いつになく心が踊っていた。


翌日、私はミアに秘薬が手に入ったことを報告した。
そのときのミアと言ったら、もう大興奮だった。
「やりましたね、ヘーゼル様! ああ、殿下のお顔を間近で拝見したら、眩しくて目が潰れちゃうー! 婚約者ですもんね、こんなことやあんなことがあったって、おかしくないんですよね! 原作にはないスチルが見れるかもー!」
ミアは早口でよくわからないことをまくし立て、ひとりで悶絶している。大丈夫かな??
「あっ、ヘーゼル様、ごめんなさい。わたしったらひとりで舞い上がっちゃって……。」
「構いませんよ。それより、これを。」
私は笑顔を崩さないようにしつつ、一冊の手帳を手渡した。
これは事前に示し合わせていたことなのだが、入れ替わった後に不自然なく振る舞えるようにするため、お互いの家族構成や日課などを手帳に記して交換しようという策。
「わたしもちゃんと書いてきました。これで準備万端ですね。」
ミアはチェック模様の可愛らしい手帳を渡してきた。にこにこと笑っている。
彼女のふわふわした笑顔は、見ているこちらも癒されそうになる。ちょっと変な子かもしれないけど、彼女のおかげで、私は公爵令嬢を辞められるチャンスを掴んだのだ。
「それでは放課後、公爵家の舘においでになってください。使用人には友人が遊びに来る、と伝えておきますので。」
上手くいった。
そう思った私たちは、きっと彼の執着心をなめていたのだ。
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