皇太子殿下と婚約すると思いきや、近衛騎士を任されました。

じゅうごにち

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26.ついにこの日が……!

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ついに実家へ帰る日の前日になった。
ゼラは大きめのカバンに荷物を詰める作業をしていた。
タンスから一着の洋服を取り出す。
この前殿下に買っていただいた空色のワンピース。あのデートを思い出して、頬がゆるむ。
 
もちろんこれも持っていこう。

ロッターレは王都より北にあって冬の寒さが厳しく、時折雪崩の被害も出るほどだ。防寒は徹底しなければ。
殿下はそれをご存知だろうか。明日出発するとき、もし薄着だったら注意しよう。

そんなことを考えながら、必要な物を確認する。ここからロッターレの道のりは馬車を使って半日程度。実家に服が残されていることを考えると、着替えはいらない。

「うーん。」

しばし考え込んだのち、下着も持っていくことにした。
冬のロッターレでは何が起こるかわからない。吹雪で足止めされ、途中で外泊することになるかも。
もちろん、そんなことにならないといいのだけれど。

明日は実家に帰る日だが、ロッターレに向かうまでの殿下の護衛でもある。気を引きしめて行こう。

そうは思ったけれど、浮き立つ心が抑えられない。

お母様やお父様はお元気だろうか。
ダリアお姉様の花嫁姿はきっと綺麗だろうな。
そして、ルティとジルが上手くいってるといいな。

数々の期待を胸に、ベッドに横たわる。
ゼラは寝付くまでに、何度も寝返りをうったのだった。


日は上り、迎えた翌日。天気は快晴だ。日射しがあると、いつもより暖かい。旅のメンバーは、ゼラと殿下。加えて執事のレンゾさんと、二人のメイドが付き従う。
殿下とレンゾさんが一台目の馬車に乗り、ゼラは二人のメイドと共に二台目の馬車にいた。

殿下に何かあればすぐに駆けつけられるよう、外の様子に目を光らせておく。

「……あのー、ゼラ様ですよネ?」
「あ、チョット! ゼラ様は勤務中なのヨ。」

声を掛けてきたのは二人のメイドのうちの茶髪の方。人懐っこい笑顔を浮かべて、自己紹介をした。
「はじめましテ! アタシ、ディピカと申しまス!」
金髪の方も、グイッとこちらに近づいてきた。
「ワタシはネハ、でス! よろしくデスネ!」

なんだか押しの強い子達だ。異国情緒漂う褐色の肌。話し方には独特の訛りを感じる。

「えっと……、ゼラ・ロッターレと申します。お二人は何処か別の国のご出身ですか?」

「ハイ! インディジオ国から来ましタ! アタシタチ、双子なんでス!」

二人の顔をよく見てみる。髪の色以外、言われてみればそっくりだ。

「そういえば何故、私の名前を?」
さっきゼラ様と名前を呼ばれた。この方達とは初対面のはず。

「よく殿下からうかがっているんでス、アナタのこト!」
「いつもはキビシイお顔が、途端にやわらかくなるんですヨ!」
「ダカラどんなお方か、お会いしてみたかったのでス!」

二人は交互にペラペラとよく話し、ゼラはそれに答えるので精一杯だった。

「コイビト同士なんですよネ!」
「きっとそうでショウ! ワタシたち、オウエンしてまス!」

慌てながら首を振って否定する。
その時、ふと窓の外が目に入った。

「あ……、曇ってきてる。」

二人も外の様子に気付き、おしゃべりを止めた。
この先は山道だったはず。
「……これは、吹雪くかもしれねぇな。」
御者のつぶやきが聞こえる。
ゼラは馬車を止めるよう指示すると、外へ出た。
少し遅れて、殿下のお乗りになっている馬車も停車する。

外は風が強く、山の奥は厚い雲が立ち込めている。気温的に雪になることは間違いないだろう。
加えて、風も強まってきていた。

「何があった?」
殿下が現れたので、ゼラは事情を説明する。
殿下はしばらく黙考なされた後、こう仰った。
「ここの近くで一夜を明かそう。周辺に宿はあるか?」
ゼラは頭の中に地図を展開する。王城からロッターレまでの道のりは、前日までに記憶していた。
「三つございます。ただ突然の悪天候なので、どこの宿も混んでいるかもしれませんね。」

「場所はどこだ?」

「三つともこの山の奥です。まずは麓の宿から探しましょうか。」

答えてから、ゼラは身震いした。寒さが強まってきている。実を言うと山道に入りたくはないが、宿に留まるにはそうするしかない。

一同は進む決意を固めると、馬車を急がせた。

予想は的中した。
外では明らかに雪がちらついている。

「ムー、不安ですネ。積もりだすと馬車が止まっちゃうかもでス。」
「そうですネ、宿はもうすぐでスカ?」

能天気な二人もそわそわしだした。焦る気持ちはゼラも同じだが、今の自分に出来るのは待つことだけだ。
車輪が滑ったのか、馬車がガタガタと音を立てて揺れ始める。
そして、少しずつ減速し……、止まる。

「あのー、お客様。雪にはまっちまったんですけども!」
御者がそう呼び掛けてきた。
「今見に行きます!」
ゼラが素早く下車する。車輪の上にこんもりと雪が積もり、動けない。殿下の乗られていた馬車の方は雪を払えば動かせそうだが、ゼラの馬車は厳しいだろう。

ゼラは殿下にこう訴えた。

「殿下、私とメイド達の乗車していた馬車が動きません!
どうか殿下はお先に宿へ向かってください!」

殿下はかぶりを振る。

「お前や使用人を見捨てては主人の名が廃る。故障した馬車が直るまで、俺は残ろう。」

「そんな……。」

「これは俺の決断だ。異論はあるか?」

ゼラはいいえ、と言う。ただ本当のことをいうと、殿下には宿へ向かって頂きたかった。

残ると決めた殿下の代わりに、メイドの二人が先に出発することになった。レンゾさんも一緒だ。
ひとまず彼らの安全が確保されたので、ひと安心した。

早速、手袋をはめて車輪回りの雪を取り除いていく。

「俺も手伝う。」
「あ、いいんですか! 助かります!」
二人で地面にしゃがんで、黙々と雪をどかし続けた。
早く、終わるといいな。



「いやあ、申し訳ないねぇ。急な吹雪でどこの宿も満室でしょ。ここも、あと一室しか空いてないんだよ。」

宿の受付で言われたのは、そんな言葉。
ゼラと殿下は茫然自失となって、互いに顔を見合わせた。

「まあ、雪原で凍死するよりは、マシじゃねぇかい。」

ようやく我を取り戻したゼラがこくこく頷く。

「構いませんので、チェックインさせてください!」

「お、おい!」

殿下がうろたえたので、ゼラは彼の言わんとすることを察してにこりと笑った。

「ご安心ください。殿下には指一本触れないと誓います。」

「逆だろ! ……まあ、お前がそれでいいなら、泊まってもいいが」

殿下は目を泳がせつつ、言った。心なしか頬が赤らんでいるように見える。

「何にせよ、宿が見つかって良かったですね、殿下!」

「あ、ああ……。そうだな。」

ゼラの頭のなかには、「宿に泊まる」ということしかなかった。






更新だいぶ間が空いてしまって、すみません…。
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