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27. それって、不敬罪にあたりませんか?
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貧乏令嬢ゼラ・ロッターレは、どうしてこうなったのだろうか、と己の不運を嘆いた。
久しぶりに実家に帰ろうとしたら吹雪に見舞われ、避難してきた先では一部屋しか用意できないと言われ。
でも今はひたすら詫びるしかない。
皇太子であらせられるヴァイス殿下を従者と同じ部屋で過ごさせる、という非礼を。
「あ、あの……すみませんっ!!」
部屋の中央に鎮座するのは、一つのベッド。しかも、大きめの一人用。ゼラはその前で懸命に頭を下げ、考えの至らなかったことを後悔していた。
「構わない。結局、この部屋に泊まるほか無かった。」
殿下は部屋の奥へ進んでいくと、着ていたコートを脱いでかけた。
内装は綺麗で、ふかふかのソファに暖炉もある。唯一の難点はそう、ベッドが一つしかないことだ。
私がソファで寝ればいいだけ、とゼラは自分に言い聞かせた。
なんだか、胸が高鳴っている。殿下と二人っきりで一つの部屋にいるだけで、おかしくなりそうだ。
おそるおそる殿下の方を見やると、バッチリ目線が合ってしまった。思わず赤くした顔をごまかすように、言う。
「お風呂、お先にどうぞ。私は暖炉に火を入れておきますので……。」
「……あ、ああ。行ってくる。」
殿下はどこか挙動不審なご様子で、部屋の一画にあるバスールームへ向かわれた。
従者と共に泊まらなければならないのが、よほどショックだったのかもしれない。
「はぁ~~」
ゼラは深いため息をついた。旅の疲れだけではない何かが、身体の中に溜まっていたのだ。
「…どうしましょう。」
小石同士を打ちあわせ、生まれた火花が木屑の上に落ちる。
木屑に息を吹きかけると、メラリと小さな炎があがった。
それから手慣れた様子で、暖炉の中に小枝、薪の順番で投入する。
寒さの厳しいロッターレでは、メイドがいないときに自分で暖炉に火を入れることも多かった。そして、パチパチ薪の爆ぜる音を聞きながら読書をするのが好きだった。
お湯の音が聞こえる。
ホームシックになってる場合じゃない。バスルームの方向が気になって、チラチラ見てしまう。ぼんやりと殿下のすらりとした影が動いているのが見える。
お湯をかけ流す音がやむと、しばらくして殿下が姿を現した。宿に置いてあったのだろう、白いバスローブを身にまとっている。
バスローブの襟元から程よく付いた胸筋が覗いている。知らなかった、殿下も身体を鍛えていらしたとは。
「……何を見ている。」
「きょうきn……、いえ、何でもないです。」
殿下が怪訝そうな顔をしたので、ゼラはサッと目線を逸らした。
「それでは、私はソファで眠らせていただきますね!
殿下、よい夜を」
ゼラはベッドから離れた所に行こうとした。従者に干渉されたくないだろうし。
「狭いソファで寝ては疲れが取れないだろう。明日の移動に備えて、きちんと身体を休めるべきだ」
殿下はゼラの不思議そうな顔を見ると、困ったように眉をハの字にしてこう付け加える。
「お前のために言っているのではない。俺の護衛のためだ。」
ゼラはにこりと笑って、心の中でVサインを掲げてみせた。
「ご心配は無用です! 父にキャンプと称して、山奥に一週間ほど放置されたことがありますゆえ」
「以前から思っていたことだが…、お前の家は随分変わっているな」
「家族がゴリラだからですかね?」
「ゴリラ…? まあ、とにかくベッドで眠るといい。お前は……、女性だろう」
女性、という言葉を聞いてドキリとする。自分が女性として見られていること、男女が一室で過ごすこと。自身の置かれた状況をようやく理解したのだ。
「あるいは、一つしかないベッドを最大限有効活用する。俺と一緒に寝るという選択肢もあるが。」
「そ、それは身分差的にまずいのでは」
殿下はベッドにゆったりと腰を沈め、長い脚を組んだ。その優雅な所作に目を奪われる。
「身分的な問題だけか?」
俺と一緒に寝るのが嫌ではないのか、と問われてこくこくと首を縦に振った。
「では俺が許可すると言ったら? 問題ないだろう。」
おいで、と呼びかける殿下の甘く優しい声に導かれてフラフラとベッドに近づいていく。疲れのせいか、まともな思考が失われていた。
ふらついていたゼラは殿下に抱えられ、ベッドに入る。
殿下のあたたかい体温が全身に伝わってきて、不思議と心地よかった。すぐに瞼が重くなってくる。
「その様子だと、やはりな。不測の事態に備えて、一日中気を張っていたのだろう」
「はい……、殿下は素晴らしいですね。近衛の様子にも気を配ってくださるのですから」
「お前は俺にとって、ただの近衛ではない。特別なんだ」
「とく、べつ……?」
睡魔に勝てそうもなく、それでも頭を浮かせて殿下のお言葉に耳を傾けていると、殿下はゼラの頭をそっと撫でられた。
「ゆっくりと眠るがいい。おやすみ、ゼラ」
おやすみなさい、と言葉を返す気力もないまま、ゼラの意識は沈んでいった。
久しぶりに実家に帰ろうとしたら吹雪に見舞われ、避難してきた先では一部屋しか用意できないと言われ。
でも今はひたすら詫びるしかない。
皇太子であらせられるヴァイス殿下を従者と同じ部屋で過ごさせる、という非礼を。
「あ、あの……すみませんっ!!」
部屋の中央に鎮座するのは、一つのベッド。しかも、大きめの一人用。ゼラはその前で懸命に頭を下げ、考えの至らなかったことを後悔していた。
「構わない。結局、この部屋に泊まるほか無かった。」
殿下は部屋の奥へ進んでいくと、着ていたコートを脱いでかけた。
内装は綺麗で、ふかふかのソファに暖炉もある。唯一の難点はそう、ベッドが一つしかないことだ。
私がソファで寝ればいいだけ、とゼラは自分に言い聞かせた。
なんだか、胸が高鳴っている。殿下と二人っきりで一つの部屋にいるだけで、おかしくなりそうだ。
おそるおそる殿下の方を見やると、バッチリ目線が合ってしまった。思わず赤くした顔をごまかすように、言う。
「お風呂、お先にどうぞ。私は暖炉に火を入れておきますので……。」
「……あ、ああ。行ってくる。」
殿下はどこか挙動不審なご様子で、部屋の一画にあるバスールームへ向かわれた。
従者と共に泊まらなければならないのが、よほどショックだったのかもしれない。
「はぁ~~」
ゼラは深いため息をついた。旅の疲れだけではない何かが、身体の中に溜まっていたのだ。
「…どうしましょう。」
小石同士を打ちあわせ、生まれた火花が木屑の上に落ちる。
木屑に息を吹きかけると、メラリと小さな炎があがった。
それから手慣れた様子で、暖炉の中に小枝、薪の順番で投入する。
寒さの厳しいロッターレでは、メイドがいないときに自分で暖炉に火を入れることも多かった。そして、パチパチ薪の爆ぜる音を聞きながら読書をするのが好きだった。
お湯の音が聞こえる。
ホームシックになってる場合じゃない。バスルームの方向が気になって、チラチラ見てしまう。ぼんやりと殿下のすらりとした影が動いているのが見える。
お湯をかけ流す音がやむと、しばらくして殿下が姿を現した。宿に置いてあったのだろう、白いバスローブを身にまとっている。
バスローブの襟元から程よく付いた胸筋が覗いている。知らなかった、殿下も身体を鍛えていらしたとは。
「……何を見ている。」
「きょうきn……、いえ、何でもないです。」
殿下が怪訝そうな顔をしたので、ゼラはサッと目線を逸らした。
「それでは、私はソファで眠らせていただきますね!
殿下、よい夜を」
ゼラはベッドから離れた所に行こうとした。従者に干渉されたくないだろうし。
「狭いソファで寝ては疲れが取れないだろう。明日の移動に備えて、きちんと身体を休めるべきだ」
殿下はゼラの不思議そうな顔を見ると、困ったように眉をハの字にしてこう付け加える。
「お前のために言っているのではない。俺の護衛のためだ。」
ゼラはにこりと笑って、心の中でVサインを掲げてみせた。
「ご心配は無用です! 父にキャンプと称して、山奥に一週間ほど放置されたことがありますゆえ」
「以前から思っていたことだが…、お前の家は随分変わっているな」
「家族がゴリラだからですかね?」
「ゴリラ…? まあ、とにかくベッドで眠るといい。お前は……、女性だろう」
女性、という言葉を聞いてドキリとする。自分が女性として見られていること、男女が一室で過ごすこと。自身の置かれた状況をようやく理解したのだ。
「あるいは、一つしかないベッドを最大限有効活用する。俺と一緒に寝るという選択肢もあるが。」
「そ、それは身分差的にまずいのでは」
殿下はベッドにゆったりと腰を沈め、長い脚を組んだ。その優雅な所作に目を奪われる。
「身分的な問題だけか?」
俺と一緒に寝るのが嫌ではないのか、と問われてこくこくと首を縦に振った。
「では俺が許可すると言ったら? 問題ないだろう。」
おいで、と呼びかける殿下の甘く優しい声に導かれてフラフラとベッドに近づいていく。疲れのせいか、まともな思考が失われていた。
ふらついていたゼラは殿下に抱えられ、ベッドに入る。
殿下のあたたかい体温が全身に伝わってきて、不思議と心地よかった。すぐに瞼が重くなってくる。
「その様子だと、やはりな。不測の事態に備えて、一日中気を張っていたのだろう」
「はい……、殿下は素晴らしいですね。近衛の様子にも気を配ってくださるのですから」
「お前は俺にとって、ただの近衛ではない。特別なんだ」
「とく、べつ……?」
睡魔に勝てそうもなく、それでも頭を浮かせて殿下のお言葉に耳を傾けていると、殿下はゼラの頭をそっと撫でられた。
「ゆっくりと眠るがいい。おやすみ、ゼラ」
おやすみなさい、と言葉を返す気力もないまま、ゼラの意識は沈んでいった。
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