境界を飛ぶリス

じゅうごにち

文字の大きさ
4 / 10

4.転校生と私

しおりを挟む
HRが終わると、生徒たちはおもむろに帰っていく。このタイミングで帰らない生徒は、私への質問―拒否権なし―だったりする。
「昨日の数学の宿題、教えて?」
―あれ、わからなかったの?
「レポート写させて!」
―勝手にやってろ。
「ねえねえ、また塾の日数増やしたって本当?」
―知っているなら、はやく私を解放して。
彼らの言葉は決して好意では無い。頭のいい私にたかる、コバエのようなもの。その証拠にこんなに話しかけられるのにもかかわらず、友達は一人もいない。別にそれを気にしていないが、くだらない人間に時間を割くのはもったいない。
「じゃあ、また今度ね。」
「「「え~。」」」
反対と人だかりを押しのけ、私は教室を去る。彼らも追ってくるほど馬鹿では無い。長いため息をつく。今というこの時代、義務教育ではないが高校に行くのは当たり前、という風潮が広がっている。そんなおかしな風潮の元、私は否が応でも高校に行かなければならなかった。それが無ければ、塾さえ通っていれば良かったものを。
そういえば、あの転校生はどこに行ったのだろう。あたりを見渡すがもう姿は無い。今日は尾行して家を暴き出してやろうと思っていたのに。まあ、そんなことをする時間も、今の私にはないか。すたすたと歩いて行く。運動部の元気なかけ声が、わずかに聞こえてくる。運動部の大会が近づくと、練習にも熱が入るのだとか。私は帰宅部なので蚊帳の外。どうせ運動神経のいまいちな私には縁のない話なのだが。

校舎の玄関につくと、そこに新しいラベルが貼られた下駄箱を見つける。自分でも何を思ったものか、『籘月』と書かれたそれを開けてしまう。まだ校舎を出ていないのか…。
ふと、誰かに肩をたたかれた気がする。
振り返るとそこには本人が立っていた。
「村井さんですよね。」
勝手に友達でもない人の下駄箱をあさるなんて、明らかに不審行為だ。不快に思われるだろうか。焦る心を押し隠し、努めて冷静を保ちながら問う。
「……どうして私の名前を?」
さりげなく話題をそらしてみた。
「クラスメートから噂を聞きました。あなたって意外に有名なんですね。頭もいいし、その……。」
よかった。下駄箱に関しては咎められなさそうだ。
「嫌われているからでしょう。」
「違いますよ!」
「いいの。私は気にしてない。」
私は下駄箱から取り出した自分の靴に足を押し込んだ。それに習って籐月も履く。
「村井さんはその、もっと自分に自信を持つべきです。」
「なに、転校してきたわりには偉そうなこといって。自信? そんなもの成績一位の私には必要ないわ。」
私は笑い飛ばしてやった。転校生という弱い立場の彼を見下したいのかもしれない。友達のいない自分を卑下するかわりに。
「そう……ですよね。」
妙に籐月が気落ちした。
「ていうか、あんたこそ人に流されてる。」
「そう……ですよね。」
全く同じ返答を二回している。私はおかしくて苦笑した。
「私、この後塾あるから。お先に。」
逃げるように玄関を出ようとした。
「村井さんは、今のままでいいんですか。」
私は歩みを止める。いきなり何を言い出すかと思ったらなんだ、呆れさせるのもほどほどにしてよと思った。
「どういうこと?」
「なんか、村井さんは必死に駆け抜けてる気がするんです。なりふり構わず、ずっと、何かを探し求めているように。」
籐月の言葉は私があのときに繋ぎあげたマントのようにちぐはぐで、でも一生懸命だった。私は騙されたふりをして真面目に考えてみた。
「探し求める……ねえ。」
 猫のように目を細める。
私にとって大切なのはあの人以外いてはならないから。『友達』ができないんじゃなくて、『友達』を自分の方が拒絶していたのかもしれない。
私は今度こそ、立ち去った。逃げた訳じゃない、わからなかっただけ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...