メサイア

渡邉 幻月

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邂逅

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ある、月の綺麗な夜だった。

町の外に冒険に行く計画がことごとく失敗するのは昼間だからなんじゃないか、と言う結論に至ったカインとアベルは、夜を待ってそっと家を出た。
それは、本当に子供らしい単純な結論だった。夜なら町の人も寝静まる。メサイアの見張りも、居ない訳じゃないけど人数が少ない。町を抜け出すチャンス、だと。

 晩御飯を済ませて、カラスの行水と言われながらも風呂を済ませ、二人はベッドに潜り込んだ。満月が空高く登り詰めるまで、じっと我慢して両親が眠りに就くのを待つ。

そうやって漸く、二人は家を抜け出した。

 その夜、不思議と静かだった。まるで音が死んだかのように。
「なあなあ、なんか静かだなー。」
自分の声がやたらと響いているようで、その不思議な感覚にアベルはワクワクしていた。
「なんかな、みんな寝てるのかなー。」
きょろきょろとアベルは辺りを見回した。酔っぱらいの一人も居ないどころか。

「静か、って言うか、変だ。夜間警備のメサイアが一人も居ない。」
「…ほんとだー。」
二人の声だけが、やたらに響いた。響くだけ響いて、夜の町に飲み込まれていく。
「なんか、誰も居ないみたいだなー。」
アベルのその言葉に、カインはゾッとした。

誰もいない。そうだ、変だ。まだ大人ならちらほらと起きててもいいはずなのに、どこの家も、酒場さえも光が消えている。
生活音の何一つ、話し声も誰かのイビキも漏れ聞こえてこない。
見回りをしているはずの、メサイアの姿も、無い。まるで二人だけ、別の世界に迷い込んでしまったような…

「おかしい、変だ、アベル家に帰ろう。」
青褪めた顔で、カインはアベルの袖を引く。何か、危険なことがあるかもしれない。いつの間にか、どこかの世界に紛れ込んでしまったのだとしたら。そんな話は聞いたこともないけれど、今のこの町の状況はあまりにも… おかしい。
「なんでだ? せっかくの冒険なのに。」
「ばか! 今は、それどころじゃ…」
言いかけて、カインは息を飲んだ。アベルはカインの視線の先を追った。

そこには。
月明かりの下に一人、佇んでいた。後ろ姿からは、男か女か分からない。ただ、静かに月を見上げていた。
銀色の長い髪がキラキラと月の光に照らされていた。
ふらふらと近付こうとするアベルを制止し、カインは囁く。
「帰るぞ。冒険は明日にしよう。今日みたいにしたら、うまく抜け出せるさ。それに、アイツには近付かない方が、」

「やあ。」
美しい声が。いつの間にか銀色の髪のそいつが、こちらを見ていた。

何だろう。カインは不安になった。今までの全てが覆されるような不安を感じる。何かが変わってしまうような。一方、アベルは興味を示す。
「なあなあ、お前だれだ?」
「ちょ、アベルっっ!」
人懐っこい性格のアベルに、カインは焦りを隠せない。そんな二人を見、その銀色は穏やかに笑っていた。
「なっ、何がおかしいんだ?」
警戒心も露に、カインが問う。

「いや、懐かしいな、と思っただけだよ。私にも、そんな弟が居た。太陽のような、弟が。」
「お、おう。」
そう返事をして、カインはふと疑問に思う。アベルが弟だって言ったか? いや、アイツの弟がアベルに似てるってだけの話か? なんか、大事なことのような気がするのに、何も分からない。

「弟どうしちゃったんだ?」
方や、アベルは警戒もせず疑問を投げる。
「もうずいぶんと会ってない。離れ離れになってしまった… 元気にしているだろうか…」
アベルの問いにそう答えて、月の彼方を見やる。

「なあなあ、あんた男なのか?」
カインはぎょっとした。それを今聞くのか。
声からして男だろ、ばか! と、アベルの耳元で囁く。
だってなあ、髪が女みてーに長いだろ? と、悪びれもなくアベルが返す。
「はは、男だよ。私たちの一族は、髪に力が宿るからね。強くあるためには、髪を切れないんだ。」
カインとアベルのやりとりを眺めながら、彼、は言う。

「なんか… 大変なんだな。うん? でも、そんな話、聞いたこと無い。あんたの一族って…?」
カインの問いに意味深な笑みだけを返し、
「それでは… 私はもう戻らなくては。会えて良かった。いずれ、また。」
彼、はそう言った。

ぐにゃり、と空間が歪む。酷い目眩が双子を襲った。

待って、との声は、声にならないまま、歪んだ空間に呑まれていった。
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