メサイア

渡邉 幻月

文字の大きさ
7 / 44

廻り出す運命の輪

しおりを挟む
気が付いたら朝だった。

「なあなあ、カイン、あのさ、昨日の夜な、」
並んだベッドの中で目覚めた。
きょろきょろと見渡して、どう見てもここは自分のベッドで、隣には目覚めたばかりの兄弟がいる。
アベルは、夢ともうつつとも判断できず、カインに思うがままを伝えようとした。
「うん。オレも見た…」
二人は顔を見合わせた。
あれは、夢だったのだろうか。確かに、二人で外に出たのに、気が付いたら自分のベッドの中だ。

「夢なのかな? でもおれ、赤い果物もらわなかったぞ…」
「そうだな。夢… だったのかな。でも、外に出たのに、あの、見たこと無いヤツにも会ったし、話したのに…」
狐につままれたような顔で、お互いを見る。

「夢じゃなかったのかな? メサイアに果物をくれたのとは違うヤツなのかな?」
「どうなんだろうな?」
漏れ聞こえてくる、夢の中の男に良く似ていたのだと、カインは今さら思い至る。

メサイアの誰かに話を聞いてみようか。カインがぽつりと言った。
なんで? アベルが聞く。
「オレたちが、昨日見たヤツがさ、みんなが、夢で見たヤツとおんなじヤツか気になるだろ?」
「あー、おれも気になる。おんなじだったら、なんでおれたち果物もらえなかったんだろうな?」
「そうなんだよな。…夢じゃないとダメなのかな…」
昨夜の出来事について考えれば考えるほど、二人はもやもやしたものに支配された。

もういいや! カインが、言った。
「やっぱり、今日はメサイアのとこに行こう。」
「そうだなー。」
考えても何も分からないので、二人はメサイアのギルドに行くことに決めた。
ちょうどその時、
「カイン、アベル、いい加減起きなさい!」
母親の呼ぶ声がした。

「あっ、やば」
「ママ怒ってるー?」
苛ついているだろう気配が、漂う声にカインとアベルは顔を見合わせると急いで身支度をして、慌ただしく部屋を出た。

「おはよう母さん。」
「ママおはよー!」
「おはよ、あんたたち今日に限って起きるのが遅いんだから、もう…」
困ったような顔をして、二人の母親が言った。
「あれ? 今日、なんかあったっけ?」
カインは首を傾げた。
「やぁねぇ。今日はヨナタンが帰ってくる日じゃないのよ。」
「兄ちゃん! 今日、兄ちゃん帰ってくるの?」
「前に言ったじゃないのさ。ちょっと長めの休暇が貰えたから帰るって手紙が来たって。」
「そうだ! 今日だ!」
ぱぁっと、二人の顔が輝く。メサイアになった自慢の兄に久しぶりに会えるのだ。
「ヨナタンを迎える準備があるんだから、早くごはんを食べて手伝ってちょうだい。」
「分かった!」
昨夜の出来事も、兄の前には霞んでいた。二人はヨナタンに会うのを楽しみに、朝食に手をつけた。

数ヵ月ぶりに兄が帰ってくる。

よく噛んで食べなさい! と言う母親の言葉も今日ばかりは二人には届かない。
土産話が楽しみで、朝食がなんだったのかも記憶に残らないような状態だった。
「ごちそうさま!」
「なあなあ、何手伝うんだ?」
目をキラキラと輝かせて、カインとアベルが食いぎみに尋ねる。
いつもこれだけ聞き分けが良かったら、と、二人の母親がため息をついた。

「まずはヨナタンの部屋を掃除してちょうだい。」
分かった! そう言って二人は兄の部屋に向かった。母親が掃除してはいても、人の出入りがない分少し部屋の気配が陰気だった。窓を開けて、それから二人は丁寧に掃除を始めた。

ふと、カインは思い付く。
「アニキが帰ってくるなら、アニキに聞けばいいのか!」
「うん? 何を~?」
「昨日の、あの銀髪のヤツのことだよ。」
「あっ!」
アベルがはっとする。
忘れてたのかよ、まあ、オレもさっきまで忘れてたけどさ… カインが呆れたように言った。
「自分も忘れてたんじゃないか~。」
「悪かったな。ギルドに行く時間なさそうだし、他のメサイアよりアニキの方が何でも話せるしな。」
「そうだなー! 早く兄ちゃん帰ってこないかな。」
帰ってくる前に、掃除終わらせないとな。カインが止めていた手を、動かし始める。
そうだよな、他にも手伝うことあるかもだしな! アベルもまた掃除を再開する。

普段は進んでやりたいと思わない手伝いも、今日だけは楽しい。いつもより手早く終わらせて、次の手伝いへ。今度は食材の買い出しだ。その次は、昼食を済ませてから、兄・ヨナタンも同席する夕食の仕込みの手伝いだ。

「ありがとう。あとはヨナタンが帰ってくるのを待つだけね。」
「兄ちゃん、いつ帰ってくるんだ?」
アベルの問いに、時計を見上げた母親が答える。
「そうね、あと1~2時間後、ってところかしらね。少し遊んできたら?」
どうする? 遊んでる間に帰ってきてたらやだよな。誰に聞かれて困る話題でもないのに、こそこそと相談し合う。たったそれだけで、兄の帰還が秘密の大事件に変わったような気分になって、二人のわくわくした気持ちが大きくなった。カインとアベルは結局、家でおとなしく待つことにした。

じっとしていられない年頃の彼らにとっては、ヨナタンが帰ってくるまでは楽しくもあり、本の少しの窮屈さもあり、そんな時間だった。
ヨナタンが帰ってきたら、何をしようか。二人はそんな話で盛り上がる。

 そして。

「ただいま。」
穏やかな声が、久しぶりに聞く優しい兄の声がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

処理中です...