メサイア

渡邉 幻月

文字の大きさ
9 / 44

嫉妬

しおりを挟む
「なんでだ!」
吐き捨てるように、ヨナタンは言った。

夕食を済ませ、久しぶりの家族の団らんも終わり、部屋に戻った後。
真夜中過ぎになっても寝付けず、ベッド上で独り。目が冴えているのは、持て余している感情のせいだ。ヨナタンは行き場のない感情を込めるように、握った拳に力を込めた。

独りになったヨナタンの頭の中を巡るのは、夕方のカインの言葉だった。

アベルと家を抜け出した夜、町中で出会った相手。銀色の長い髪の男の話。

「なんで、俺じゃないんだ。」
呟くヨナタンの声は、負の感情に染まっていた。

メサイアの組織には、幾つかの機密事項があった。 
重要度はピンからキリまであるが、その中でメサイアのメンバー全員に通達されていることがある。

『勇者について』

いずれ現れる勇者、彼を見付け出し保護するのもまた、メサイアの任務でもあった。

メサイアのメンバーに真っ赤な果実を与えた男は、夢の中に再び現れて言った。
「予言を一つ、君たちにあげよう。」
と。
男は言った。
やがて、勇者が生まれると。それによって、世界が救われると。

「勇者が生まれ、育ったら、私はいずれ彼に会いに行く。私と現実世界で出会った者が、勇者だ。」
勇者の印は? と、聞かれた男がそう答えた。
この話は、メサイアの組織内で共有された。
それがもうずいぶんと昔の出来事で、組織の中でもちらほらと勇者の存在は現実味を失っていた。

だからこそ逆に誰しもが、我こそは、と思うに至った。
メサイアとしての力は、彼らに万能感を与えていた。だが、それを上回る『勇者』が居る。今さら二番手になど甘んじられぬ。
自分こそが特別でありたかった。

それは、ヨナタンも同じだった。
もともとは、穏やかな性格だった。家族思いで、それでいて芯の通った少年だった。

十六の時、夢を見た。その時、真っ赤なリンゴに魅入られてしまったのだろう。
それでも、メサイア自体は何人も居る組織の一人でしかない。
選ばれた人間の傲慢さは、誰にも気付かれないほど(それは本人にさえ)ゆっくりと育つことになる。

そうして。

弟二人が、あの男に会ったのだ。
きっとどちらかが、勇者なのだろう。

勇者だから果実が要らないのか、二人居たから渡さなかったのか。
それは分からない。
だが、間違いなく弟が勇者なのだ。

ヨナタンが自ら気付けなかった、
優越感、万能感、傲慢さ、そう言ったものが、夜の闇にのように広がる。
そうして、それは嫉妬となり、憎しみに変わるまでそう時間はかからなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

処理中です...