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アンチ・メサイア
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ヨナタンは三日ほどすると、友人の所に顔を出す約束をしているから、と言って荷物をまとめ始めた。
我ながら苦しい言い訳だな… とヨナタンは溜息を吐いた。だが、それでも。
とてもじゃないが、弟二人への負の感情を抱えたまま今まで通りの優しい兄を演じ続けることはできない。そうヨナタンは思った。同時に、メサイアへ弟たちのことも報告したくない。そうも考えていた。結局逃げ出すように家を出ることしか、今のヨナタンには選択肢が無いように感じられたのだ。
「なんだい、もっとゆっくりしていくんだと思っていたのに。」
母親が残念そうに言う。
「ごめん母さん、次の休暇はそいつ連れてきても良いかな?」
「構わないけど…」
ありがとう、ヨナタンは答える。
弟二人から逃げたいとは、さすがに両親にも弟たちにも言えないと思っていた。言えば理由も聞かれるだろう。それだけはどうしても、誰にも言いたくなかった。
「ホントにもう行っちゃうのか?」
双子が悲しそうに見上げてくる。
ちりちりと嫉妬の炎に胸を焼かれながら、ヨナタンは二人の頭を撫でた。
「次の休みはゆっくりするからさ。」
嫉妬と憎しみを呑み込んで、ヨナタンは笑顔を作った。
誰を恨めばいいのか。
生まれつきの勇者、ってことは、本人も知らぬ間の事だ。今も自覚は無い。それなら、可愛い弟を、邪魔だと思うのは…
罪悪感はある。
だけど、それでもこの負の感情は消えない。
お前達が会った、銀髪の男の事はちゃんと調べるから。誰にも言うなよ?
ヨナタンは、二人だけに囁いた。
「じゃあ、また帰ってくるまでいい子にしてるんだぞ?」
そう言ってまた、くしゃくしゃに二人の頭を撫でる。
「じゃあ、父さんも母さんも、元気で。」
精一杯明るく振る舞って、ヨナタンは家を後にした。
一歩ごとに、笑顔が無くなっていくのを、本人は気付いていただろうか。
町を出た頃には、ヨナタンの両目は深い闇を湛えていた。
やはり、納得は出来ない。
メサイアとして、それも討伐隊の一員として前線に出ていたヨナタンには、自分こそが人々の安全を守っていると言う自負があった。
なれるものなら、自分こそが勇者に。
そう思って、日々精進してきた。
それが、まさか一回りも違う弟が。まだ、怪物と戦う能力も無い弟が。
悪魔ノ囁キ
ヨナタンは、友人の所でもなく、メサイアの本部でもなく、別の所へ足を向けた。
噂でしか聞いたことがない、そこは、メサイアの中でも過激派が集まる場所であった。
クーデターの話も、元は彼らの存在故に語られるようになったものだ。
名を、不滅の魂。
神を拒絶し、勇者の存在を否定し、夢の中の男からも独立しようとする集団。
弟たちへの愛憎に苛まれながら、ヨナタンはペルペテュエル・アムの門戸を叩いた。
勇者など居ない。
そう思わなければ、気が狂れそうだった。
ペルペテュエル・アム。
不滅の魂と名乗る彼らは普段、何食わぬ顔でメサイアとして行動する。
より慎重により狡猾に、虎視眈々と権力の転覆を狙っていた。
勇者など居ない。
それは予言から月日が経ちすぎた、からではない。自らが選ばれし者ではない、と言う不満からの、屁理屈に過ぎない。
屁理屈に過ぎないが、今のヨナタンにとっては居心地の良い思想であったのだ。
このペルペテュエル・アムの中で、ヨナタンが頭角を現すまでそう時間はかからなかった。
もとより、傲慢さが背中合わせに在るほど優秀ではあったのだ。
より狂暴な感情が芽生えることによって、皮肉にも彼の力は花開いたのだった。
やがて、彼は。
ヨナタンが組織のトップへと上り詰め
『アンチ・メサイア』
と、呼ばれるに至るまで、あと──…
我ながら苦しい言い訳だな… とヨナタンは溜息を吐いた。だが、それでも。
とてもじゃないが、弟二人への負の感情を抱えたまま今まで通りの優しい兄を演じ続けることはできない。そうヨナタンは思った。同時に、メサイアへ弟たちのことも報告したくない。そうも考えていた。結局逃げ出すように家を出ることしか、今のヨナタンには選択肢が無いように感じられたのだ。
「なんだい、もっとゆっくりしていくんだと思っていたのに。」
母親が残念そうに言う。
「ごめん母さん、次の休暇はそいつ連れてきても良いかな?」
「構わないけど…」
ありがとう、ヨナタンは答える。
弟二人から逃げたいとは、さすがに両親にも弟たちにも言えないと思っていた。言えば理由も聞かれるだろう。それだけはどうしても、誰にも言いたくなかった。
「ホントにもう行っちゃうのか?」
双子が悲しそうに見上げてくる。
ちりちりと嫉妬の炎に胸を焼かれながら、ヨナタンは二人の頭を撫でた。
「次の休みはゆっくりするからさ。」
嫉妬と憎しみを呑み込んで、ヨナタンは笑顔を作った。
誰を恨めばいいのか。
生まれつきの勇者、ってことは、本人も知らぬ間の事だ。今も自覚は無い。それなら、可愛い弟を、邪魔だと思うのは…
罪悪感はある。
だけど、それでもこの負の感情は消えない。
お前達が会った、銀髪の男の事はちゃんと調べるから。誰にも言うなよ?
ヨナタンは、二人だけに囁いた。
「じゃあ、また帰ってくるまでいい子にしてるんだぞ?」
そう言ってまた、くしゃくしゃに二人の頭を撫でる。
「じゃあ、父さんも母さんも、元気で。」
精一杯明るく振る舞って、ヨナタンは家を後にした。
一歩ごとに、笑顔が無くなっていくのを、本人は気付いていただろうか。
町を出た頃には、ヨナタンの両目は深い闇を湛えていた。
やはり、納得は出来ない。
メサイアとして、それも討伐隊の一員として前線に出ていたヨナタンには、自分こそが人々の安全を守っていると言う自負があった。
なれるものなら、自分こそが勇者に。
そう思って、日々精進してきた。
それが、まさか一回りも違う弟が。まだ、怪物と戦う能力も無い弟が。
悪魔ノ囁キ
ヨナタンは、友人の所でもなく、メサイアの本部でもなく、別の所へ足を向けた。
噂でしか聞いたことがない、そこは、メサイアの中でも過激派が集まる場所であった。
クーデターの話も、元は彼らの存在故に語られるようになったものだ。
名を、不滅の魂。
神を拒絶し、勇者の存在を否定し、夢の中の男からも独立しようとする集団。
弟たちへの愛憎に苛まれながら、ヨナタンはペルペテュエル・アムの門戸を叩いた。
勇者など居ない。
そう思わなければ、気が狂れそうだった。
ペルペテュエル・アム。
不滅の魂と名乗る彼らは普段、何食わぬ顔でメサイアとして行動する。
より慎重により狡猾に、虎視眈々と権力の転覆を狙っていた。
勇者など居ない。
それは予言から月日が経ちすぎた、からではない。自らが選ばれし者ではない、と言う不満からの、屁理屈に過ぎない。
屁理屈に過ぎないが、今のヨナタンにとっては居心地の良い思想であったのだ。
このペルペテュエル・アムの中で、ヨナタンが頭角を現すまでそう時間はかからなかった。
もとより、傲慢さが背中合わせに在るほど優秀ではあったのだ。
より狂暴な感情が芽生えることによって、皮肉にも彼の力は花開いたのだった。
やがて、彼は。
ヨナタンが組織のトップへと上り詰め
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と、呼ばれるに至るまで、あと──…
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