メサイア

渡邉 幻月

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金色の髪。
真紅の鎧。

違う。カインの本能が告げた。顔はそっくりなのに、声も同じ、はずなのに、違う。
あの夜の男じゃない。

髪の色が違う、けど、そんなことじゃない。
あの夜の不思議な男は、赤い衣を身に纏っていた。鎧ではなくて。けど、違和感の正体は、きっとそんなとことじゃない。

分からない。
何か、が、決定的に違う。死の恐怖すら覚える、違和感。
あの時も恐怖を感じたけど、そんなものじゃない。あの時は、何も知らなかったから感じた、未知への恐怖。
だけど、今の、これは。
間違いなく、あの金髪の男に恐怖している。心臓を握りつぶされるような、全身の血液が凍り付くような、恐怖。

「違う、アベル、あの人じゃない。」
目を逸らすことができない。目を逸らしたら、狩られる。
恐怖と共にようやく口をついた言葉も、
「ええ~? そうかぁ?」
アベルは首を傾げるだけだった。

男は笑った。
カインには、それがとても恐ろしく感じた。
アベルには、あの夜と同じ笑顔に見えた。

「ジュード、私の勇者はあの子だ。アベルだ。」
金髪の男は高らかに宣言した。ジュードは頷く。

勇者・・
カインは違和感を覚えた。
それを口にする間もなくジュードが金髪の男に問うた。

「それでは、彼、カインは…」
「不用だ。」
残酷な言葉。切り捨てるような。
笑顔で発せられたが故の、背筋も凍るほどの恐怖。
「では、アベル君、こちらへ。カイン、君は大人しく故郷へ帰りたまえ。」
ジュードが二人に言った。微笑みを浮かべていたが、カインは彼からも得体の知れない恐怖を感じ言葉を失った。

「えっ!?」
代わりにアベルが声をあげた。
「なんでだ? なんでカインと離ればなれにならなきゃいけないんだ?」
「彼は、勇者ではない。メサイアでもない。ここに居る必要がないのだ。」
凍り付くような目でジュードがカインを見ている。
「だからって!!」
ジュードの言葉に、思わずカインが叫んでいた。
「おれ、カインと一緒が良い!」
続けざまにアベルも叫ぶ。
「却下だ。…つまみ出せ。」
張り付いたような笑顔が消えた金髪の男がジュードに命令する。

それからは早かった。外に待機していたメサイアのメンバーが、ジュードの指示に従ってカインを門外に放り出す。
カインの抵抗も、アベルの懇願も、意味を成さなかった。
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