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ケテル:王冠という名の第一の都市
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白亜の壁が取り囲む都市、ケテル。
ここは、メサイア本部のあるティフェレトを除けば最も守りが堅固な町だった。
何故か。
それは、ここが世界が姿を変える前から続く王室に連なる方々が身を寄せる都市だからだ。
「ケテルってかなり厳重な警備だって聞いてるんだよな。オレ、ケテルに入る許可証なんて持ってないけど、どうする予定なんだ?」
ケテルに近付くにつれ、カインは不安に思う。
メサイアならともかく、一般人は許可証なしにこのケテルには入れないことになっている、と言う事を思い出したのだ。そもそもヨナタンの消息を調べたかったカインはティファレトに向かうのに必要な通行許可証しか申請していない。
「大丈夫! あたしに任せて! 短期間の滞在なら、あたしの魅了でどうにかできるから。」
「え? チャームって、何?」
「えぇ~、知らないの? チャームって言うのはね、相手を自分に惚れさせて操ったり記憶を操作したり出来ちゃう能力のコトよ!」
リリンは胸を張る、が、リリンの説明を聞いたカインは顔をひきつらせていた。
「どしたの?」
「え? いや、なんか怖い能力だと思って、その… チャームってやつ。まさかとは思うけど、それ、オレに使ってないよな…?」
恐る恐るカインはリリンに尋ねる。今のオレは、操られたオレなんだろうか。記憶は、オレの記憶なんだろうか、まさか作られた記憶だなんてそんなことは。もやもやとした不安が襲ってくる。一瞬面喰らった表情を見せた後、そんな彼の不安を笑い飛ばすようにリリンは答える。
「…。やーね! 使ってないわよ。そんなコトしたらルシフェル様に怒られるだけじゃ済まないじゃない。」
「怒られるって、なんで?」
「えぇ? だって君はルシフェル様の勇者じゃない。」
お互いきょとんとした顔で見つめ合う。
「…。オレ、結局その勇者ってのがなんだかよく分かんないんだよな…」
根負けしたのはカインの方で溜め息のあとに呟くように言った。
「あ、そっか。じゃあ、とりあえず宿を手配しようよ。まとめて説明するね!」
さてと、そう言ってリリンは町に向き合う。
魅了という初めて聞く能力に、恐怖と不安を覚えながらカインはリリンの後についていく。
カインはリリンを観察した。純粋に魅了という能力がどんなふうに発動するのか、どんな効果があるのかが気になった。それに、彼女と自分の違いも。
初めて見る紫の瞳が、彼女が人外なのではないかと告げている。魅了なんて能力も、そういえばアニキは口にしたことがなかったな、ぼんやりとカインは考えていた。
リリンの瞳が、妖しく輝く。紫の瞳は輝きに満ちてアメジストのように透明で澄んだ色から、明度はそのままに深い深い紫になる。
「レピドライトみたいだ。」
カインは呟いた。いつの日か、ヨナタンに見せてもらった、メサイアの守護石。変革の石だ。
妖しげな空気がリリンの回りに漂う。
「さ、行こっか。」
鬼気迫る空気、とカインは感じた。ただ事ではない気配を纏ってリリンはカインに声をかける。笑顔なのが怖い、密かにカインは考えていた。
ケテルを守るように張り巡らされた外壁にある門は一つ。堅固な門に、屈強な守衛が左右に二人、見上げればさらに弓兵が二人ずつ控えている。
カインは息を呑んだ。許可もないのに、この町に本当に入ることができるのだろうか。そんなカインの不安をよそにリリンは前進を止めない。
「──あ、」
ついにリリンが守衛の目の前に。カインは慌てて彼女を庇おうと、駆け寄る。
が。
「どうぞ、お通りください。」
守衛は警戒することなく、むしろ恭しくリリンを通す。
「ほら、早く行こう!」
「え? あ、うん。」
その一瞬で何が起こったのかカインには理解できなかった。キツネにつままれたような感覚を覚えながら、促されるままリリンの後についていく。
「ここって、宿屋が無いのよね、確か。」
辺りを見回したリリンが言う。
「…詳しいね。」
「まあね、それなりに調べてきたよ。」
「宿屋がないって知ってて、なんでここに来たわけ?」
「さっきのダアトの森が近いからね! あと宿についてはメサイアの宿舎に行って部屋を借りようと思ってるから大丈夫だよ。」
けろっとしてリリンがカインの問いに答えた。
「えっ? でもさ、ここのメサイア支部ってメサイアたちしか利用できないはずだけど?」
「そこはそれ、チャームを使うのよ。」
リリンはそう言って自分の瞳を指差す。
あ、そうか。と、カインは納得する。何でもありだなぁ、と妙に感心していた。
メサイアの討伐隊は、遠征に遠征を重ね危険な怪物を退治して回っている。そのため、各支部には彼らのための宿泊用に一棟は施設が建てられていた。
基本的にその施設は討伐隊が使用するが、時折メサイアメンバーの遠方に住まう身内が面会に来た際に部屋を貸し出すこともある。
ただし、このケテルだけは違っていた。街のその特殊性故に、外部の者は町の中に入ることも許されない。そして一部の許可を得た者たち、例えば商人などだが、彼らは用を果たしたのち、即日近くの町まで転移させられる。
そんな町に今、カインとリリンはいた。そして一晩過ごそうというのだった。
ここは、メサイア本部のあるティフェレトを除けば最も守りが堅固な町だった。
何故か。
それは、ここが世界が姿を変える前から続く王室に連なる方々が身を寄せる都市だからだ。
「ケテルってかなり厳重な警備だって聞いてるんだよな。オレ、ケテルに入る許可証なんて持ってないけど、どうする予定なんだ?」
ケテルに近付くにつれ、カインは不安に思う。
メサイアならともかく、一般人は許可証なしにこのケテルには入れないことになっている、と言う事を思い出したのだ。そもそもヨナタンの消息を調べたかったカインはティファレトに向かうのに必要な通行許可証しか申請していない。
「大丈夫! あたしに任せて! 短期間の滞在なら、あたしの魅了でどうにかできるから。」
「え? チャームって、何?」
「えぇ~、知らないの? チャームって言うのはね、相手を自分に惚れさせて操ったり記憶を操作したり出来ちゃう能力のコトよ!」
リリンは胸を張る、が、リリンの説明を聞いたカインは顔をひきつらせていた。
「どしたの?」
「え? いや、なんか怖い能力だと思って、その… チャームってやつ。まさかとは思うけど、それ、オレに使ってないよな…?」
恐る恐るカインはリリンに尋ねる。今のオレは、操られたオレなんだろうか。記憶は、オレの記憶なんだろうか、まさか作られた記憶だなんてそんなことは。もやもやとした不安が襲ってくる。一瞬面喰らった表情を見せた後、そんな彼の不安を笑い飛ばすようにリリンは答える。
「…。やーね! 使ってないわよ。そんなコトしたらルシフェル様に怒られるだけじゃ済まないじゃない。」
「怒られるって、なんで?」
「えぇ? だって君はルシフェル様の勇者じゃない。」
お互いきょとんとした顔で見つめ合う。
「…。オレ、結局その勇者ってのがなんだかよく分かんないんだよな…」
根負けしたのはカインの方で溜め息のあとに呟くように言った。
「あ、そっか。じゃあ、とりあえず宿を手配しようよ。まとめて説明するね!」
さてと、そう言ってリリンは町に向き合う。
魅了という初めて聞く能力に、恐怖と不安を覚えながらカインはリリンの後についていく。
カインはリリンを観察した。純粋に魅了という能力がどんなふうに発動するのか、どんな効果があるのかが気になった。それに、彼女と自分の違いも。
初めて見る紫の瞳が、彼女が人外なのではないかと告げている。魅了なんて能力も、そういえばアニキは口にしたことがなかったな、ぼんやりとカインは考えていた。
リリンの瞳が、妖しく輝く。紫の瞳は輝きに満ちてアメジストのように透明で澄んだ色から、明度はそのままに深い深い紫になる。
「レピドライトみたいだ。」
カインは呟いた。いつの日か、ヨナタンに見せてもらった、メサイアの守護石。変革の石だ。
妖しげな空気がリリンの回りに漂う。
「さ、行こっか。」
鬼気迫る空気、とカインは感じた。ただ事ではない気配を纏ってリリンはカインに声をかける。笑顔なのが怖い、密かにカインは考えていた。
ケテルを守るように張り巡らされた外壁にある門は一つ。堅固な門に、屈強な守衛が左右に二人、見上げればさらに弓兵が二人ずつ控えている。
カインは息を呑んだ。許可もないのに、この町に本当に入ることができるのだろうか。そんなカインの不安をよそにリリンは前進を止めない。
「──あ、」
ついにリリンが守衛の目の前に。カインは慌てて彼女を庇おうと、駆け寄る。
が。
「どうぞ、お通りください。」
守衛は警戒することなく、むしろ恭しくリリンを通す。
「ほら、早く行こう!」
「え? あ、うん。」
その一瞬で何が起こったのかカインには理解できなかった。キツネにつままれたような感覚を覚えながら、促されるままリリンの後についていく。
「ここって、宿屋が無いのよね、確か。」
辺りを見回したリリンが言う。
「…詳しいね。」
「まあね、それなりに調べてきたよ。」
「宿屋がないって知ってて、なんでここに来たわけ?」
「さっきのダアトの森が近いからね! あと宿についてはメサイアの宿舎に行って部屋を借りようと思ってるから大丈夫だよ。」
けろっとしてリリンがカインの問いに答えた。
「えっ? でもさ、ここのメサイア支部ってメサイアたちしか利用できないはずだけど?」
「そこはそれ、チャームを使うのよ。」
リリンはそう言って自分の瞳を指差す。
あ、そうか。と、カインは納得する。何でもありだなぁ、と妙に感心していた。
メサイアの討伐隊は、遠征に遠征を重ね危険な怪物を退治して回っている。そのため、各支部には彼らのための宿泊用に一棟は施設が建てられていた。
基本的にその施設は討伐隊が使用するが、時折メサイアメンバーの遠方に住まう身内が面会に来た際に部屋を貸し出すこともある。
ただし、このケテルだけは違っていた。街のその特殊性故に、外部の者は町の中に入ることも許されない。そして一部の許可を得た者たち、例えば商人などだが、彼らは用を果たしたのち、即日近くの町まで転移させられる。
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