メサイア

渡邉 幻月

文字の大きさ
34 / 44

修行:マルクトエリア編 【八日目最終日、そして次のエリアへ】

しおりを挟む
【八日目】
朝から雨だった。正確には昨日の午後降り出した雨が、まだ止んでいなかった。
尤も、雨雲の色合いが昨日よりも白くなっている。今日中にはやむかもしれない。
「止まなかったら午前だけで今日は終わりにしよっか。」
取り敢えず、スライムは出現するし。と、二人は外出する。
さすがに昼の休憩は面倒でも街に戻ることにした。あずまやも無い草原地帯なので当然と言えば当然の流れだ。
一度宿に戻り濡れ鼠のカインが着替えてから昼食へ。外に出るのもおっくうなので宿の食堂で済ませることにした。
雨脚が次第に弱くなって、休憩も終わる頃には空に虹がかかっていた。

「…。止んだね。」
窓から外の様子を見ていたカインは、じゃあ準備してくる、そう言って部屋に戻っていった。
「うん。やっぱりマジメだよね。」
アタシまだ何も言ってなかったのに、食後のコーヒーを片手にリリンは独りごちた。

雨が止んだこともあり、草原の出現怪物がスライムからウサギ型の怪物とボブキャットに変わる。マン・イーターの動きも普段の速度に戻っていく。

「物理攻撃との相性が悪いスライムくらいだねー、怪我しちゃうの。」
ボブキャットにも慣れて、初戦の苦戦が嘘のように討伐できるようになった。
「マルクトエリアはクリアで良いかな!」
リリンのその言葉に、カインは瞬きを一つ。
「良いの?」
「魔法が使えるようにさえなれば、スライムくらいもっと楽に倒せるようになるの分かってるしね。それにスライムはね、いずれ挑戦する幻獣亜種戦の布石ですよ。核を破壊するってコトを覚えてくれたらいいよ。無傷で倒せたら、その方がベストだけど。」
幻獣亜種、カインは呟いた。

【九日目】
端切れのような雲が、ところどころ浮かんでいる。
「今日は天気は良さそうだね。旅立ちにピッタリ。」
窓を開けて、リリンが言った。
「もう出るんだ?」
着替えを終えてきたカインが、リリンに尋ねる。
「んー、朝ごはん食べてー、次のイェソドまでの携帯食料買い込んでから出発かな!」
リリンの答えを聞いて、そう言えば手持ちの食糧はほとんど残ってなかったな、とカインは自分の荷物に視線を移した。

朝食を済ませると、リリンは弁当を宿の食堂に頼んでから商店街に出かけた。
六日目の休みを爆睡して潰したカインには久しぶりの商店街である。それも活気のある食料品店街。装備一式揃えた日に、買い物はリリンに任せた方が良いと結論付けていたカインはおとなしく荷物持ちに徹することにした。
リリンはほいほいと携帯食料を見繕っては購入している。
「…なぁ、こんなに要るのか?」
ほとんどが乾物なのもあって重さは無いが、かさばりはする。両手にいっぱいになったところで、カインはリリンに声をかけた。
「わお! 自分で持たなかったから、こんなになってるとは思わなかったよ。」
もう宿に戻って整理しよっか、そう言ってリリンはくるりと向きを変える。
もっと早く声かければよかった、カインはぼそりと呟いた。

こんな大荷物、どうするつもりなんだろう。カインが疑問に思っていると、リリンは使い魔を呼び出した。
「じゃあ、コレ預かっといてね。」
リリンの言葉に、にゃあん、と一声鳴いて使い魔は荷物と一緒に姿を消した。
「!? どういうこと?」
「かさばるでしょ? あっちで預かってもらって、必要な分だけ持ってこようと思って。」
まるで当然のことと言わんばかりの調子でリリンが答える。
「…便利だね。」
「ヒトに見付からなければね。じゃ、お弁当受け取りに行くね。防具装備したら来て。外で待ってるから。」
「分かった。」
身支度の要らないリリンが先に部屋を出て行った。
カインは装備を整え、荷物をまとめる。次のエリアに行く。イェソドはどんな所なんだろう。
準備が整ったカインは、部屋を後にした。

イェソドまでは何事も無ければ徒歩で七日くらいの道程になる。
「これも修行のうちだね!」
とリリンは言って敢えて怪物を避けることなく、地図上の最短距離を進む。マルクトエリア滞在中に経験を積んでいた分、それほど障害とは感じなくなっていた。
そのことにカインは自信を持つ。家にいた時より、強くはなっている。と。

マルクトエリアの境界が近くなるとリリンが目くらましの結界を使った。出現する怪物がまだらになり、新しく出現する怪物が今のカインでは手に負えないかもしれないからだ。
「イェソドに着いてからだね。怪我を癒しても野宿じゃ完治できないから。」
と、リリンは言った。
拠点を確保してから、というのが彼女のスタンスらしい。カインはこっそり、確かに無茶なところがあるからその方がいいだろうな、などと考えていた。

道程はほぼ半分まで来た。先を急ぐように、二人は地図に従って進むのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

処理中です...