メサイア

渡邉 幻月

文字の大きさ
33 / 44

修行:マルクトエリア編 【五日目~七日目】

しおりを挟む
【五日目】
白い雲が空を覆っている。雲の色合いを見る限り雨は降らなそうだなと、空を見上げたカインは考える。
夜遅くまで降り続いた雨で、草原に生い茂る草花はしっとりと濡れている。ぬかるみに気を付ける必要はあるかな、と、カインは呟いた。

この日はそこそこ機敏な動きのマン・イーターとスライムを倒して、昼休憩。
上空は風が強かったのか、昼前には晴れ間が見え始め午後には気温も上がった。マン・イーターの動きは戻り、スライムの姿も確認できなくなった。
午後はウサギ型とボブキャットと戦う。
「もう、マン・イーターとウサギ型は大丈夫そうだね。晴れてれば。」
天気が回復しても、ぬかるみは残っている。少々泥試合気味の結果だったが、リリンはそう判断した。
「そう? あとは、やっぱりボブキャットか。」
「レイピアは斬撃に向かないから、仕方ないとこもあるかな。魔法が使えるようになれば、もっと楽になるだろうけど。霊力をもっとコントロールできるようにならないとね。」
「あー…」
リリンの言葉に、カインは毎晩のトレーニングを思い出す。細かくコントロールするのがどうにも苦手だ。緩急つけるのはそこそこいい感じにできてると思っている。
リリン曰く、細かい動きを制御できないと魔法が暴走しやすくなるのだそうだ。
案外出来なきゃいけないこといっぱいあるな、カインは呟いた。

【六日目】
「今日の予定は?」
さすがに六日目ともなると筋肉痛の連鎖が半端なく、カインは曇った表情でリリンに尋ねた。今日はそこそこ天気もいいので、スライムは居ないかな… いないといいな。アイツ、めんどくさいし。
カインはフォークを片手にリリンの答えを待つ。
「今日はお休みにするね! 怪我はアタシのアイテムで治したけど、疲労は残ってるでしょ? ゆっくり休んで。」
リリンは、朝食を食べながら答えた。
「マジで?」
「一日寝るもよし、体力がまああるなら、商店街を見るもよし。」
カインの疲れた顔を見ながら、リリンは、あ、これは一日爆睡かな? とこっそり考える。
「どうしようかな…」
カインは取り敢えず午前中休んで、午後に街を散策しようなどと考える。朝食を済ませて、一度部屋に戻った。

…結局のところ、リリンの予想通り爆睡で一日が終わったのだった。

【七日目】
どんよりとした雲が空一面を覆っている。今にも雨が降りそうだ。カインは以前のスライム戦を思い出しげんなりした。
午前中はボブキャット戦と時々ウサギ型と戦う。前日休んだこともあって、体は軽い。戦闘の要領も得てきて、一戦一戦の時間も短縮されてきている。
カインは密かに手ごたえを感じていた。

昼休憩のあと腹ごなしにウサギ型の怪物を戦っていると、朝方の不安が現実になった。ぽつぽつと雨が降り始めたのだ。
「おさらいに雨の日のマン・イーターと、スライムと戦って戻ろうか。」
空を覆う雲は暗く、今日はもう回復しそうもないと判断したリリンがカインに言う。
「そうだなぁ。正直スライムとは関わりたくないけど… 前回のは納得できないっちゃできない出来だったしな。」

雨に濡れて、衣服が重みを増す。地面は雨水でぬかるみ始める。
それでもどうにかスライムを倒す。
「コイツ、うねうねして核も動くから無傷で倒すのは無理なんじゃないの。」
一部溶かされたところを眺めながら、カインはリリンに聞いた。
「うーん、そうかもね。でも、マン・イーターはいい感じだったね。」
肩を竦めてリリンが答える。確かに性質上物理攻撃だけでは厳しいのかもしれない。弱いは弱いんだけどなぁ、とリリンは呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...