鬼人の恋

渡邉 幻月

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人ノ部 其之弐 最初の聖女は二周目で復讐を遂げる

六. 魔王城にて

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 ヨリコはいきなりの召喚に混乱した。同時にアマハラ王国の国王以下、全員がヨリコの容姿を見て驚く。トヨタマに瓜二つだったのだ。その場は騒然としたがどうにか落ち着きを取り戻した魔道将軍が、ヨリコに事情を説明するが彼女の精神状態は暫く不安定なままであった。

 兎にも角にも、魔王をどうにかしないことには元の世界にさえ帰れないのだと、数日かけて納得したヨリコは、嫌々ながら魔王討伐へ向かうことを了承した。了承するしかなかったとも言える。
 そうして魔力や魔法とは縁のなかった世界から来たヨリコは、魔王討伐に向かう前に戦闘訓練を受けることになった。その際に、彼女には浄化の力があることが分かり、作戦もそれを考慮して練られることとなった。同時に事が完了するまでホデリがヨリコに近付かないよう周囲の者たちは神経を尖らせた。タマヨリのことがあったからだ。ヨリコは召喚直後から暫く不安定だったので、周囲の者たちの動揺には気付かないままだった。

 ヨリコの戦闘訓練時に、色々と分かったことがあった。魔獣は『瘴気』から生まれ出ること、浄化の力が瘴気を消すことができること。瘴気を纏った魔獣の攻撃による怪我はヨリコの浄化の力で治せること。聖なる浄化の力を持つ彼女を、人々は次第に聖なる乙女、聖女と呼ぶようになっていった。彼女に寄せられる期待は日を追う毎に増していき、それが彼女を追い詰めることになるなどこの時は誰も思い至らなかった。

 数ヶ月後、ヨリコを中心とした魔王討伐隊が編成され、出発した。最短で魔王を倒すことこそが、被害を最小限に収めることができるだろうと魔王討伐隊は最短距離で魔王城へ向かった。魔獣に襲われている他の地域は、引き続き王国軍で対処することになった。人々に不満はあれど、魔王さえ討伐できれば魔獣の襲来も無くなるという説明に納得するしかなかった。

 一方、最短で魔王城に向かった聖女一行は玉座の前で魔王と対峙した瞬間に、互いに硬直していた。正確には聖女であるヨリコ以外が、であるが。
 魔王は聖女の姿を見て、聖女以外の討伐隊は魔王の姿を見て。
「ホオリ…様?」
討伐隊は聖女の他、彼女を補助しかつ指揮役として魔道将軍、攻撃役として近衛騎士から能力の高い者を二名、壁役と回復要員をそれぞれ一名で構成されていた。聖女のヨリコ以外は当然、ホオリの姿を知っている。
 ヨリコもまた、この異様な空気にどうしていいのか分からず立ちすくんでいる。魔王はじっと自分を見詰めている。敵意でもなく、ただ、驚いているようにも見える。
「…タマヨリは自害したのではなかったのか。」
魔王のその言葉に、我に返った魔道将軍は彼女がタマヨリではないことを説明した。
「やはり、ホオリ様ですね? いったい、どうして…」
ホオリはその問いに、素直に答えた。最愛のタマヨリに似たヨリコを前に、ほんの少し憎しみが解けたからだ。同時に、魔道将軍始めヨリコに付いてきた彼らがホデリの息がかかった者ではないことが分かっているからでもある。
「何という… それでは、先代魔王には害意は無かったということですか。」
「しかも、ホオリ様の隊が全滅したのは裏切りがあってのことだったとは。」
とても魔王討伐戦が始まるような空気ではない。ヨリコも魔王が悪だと聞かされてここまで来たが、自分を見つめる魔王の目に悪意が無いことは感じ取っている。

「…その娘は、魔王討伐が成されぬ限り元の世界に帰れぬのか。」
魔王が呟くように言った。魔道将軍が頷くと、そうか、と魔王は言って、
「そなたは以前から信用のおける者だった。」
と魔道将軍を見て魔王は言う。憑き物が落ちたようにすっきりした表情に変わった魔王は、以前のホオリと何ら変わらぬように見える。
「ありがたきお言葉。」
「そなたを、そなたらを見込んでの話をしよう。」
そう言って魔王は胸のうちを明かす。一同の感情が乱れるのを目にしても、魔王ホオリの決意は揺らがない。

「どのみちそなたらにも手段は残っておらんだろう。兄への報復もいいが、トヨタマに逢いたいとも思っている。…その娘は帰してやれよ。」
魔王ホオリは彼らに自身の討伐を許した。討伐後、魔道将軍に自身の持つ魔力を一部譲ることも告げる。そのままではヨリコを帰せないだろうことに気付いたからだ。
「しかし…!」
ホオリに帰ってきて欲しいというのは、ホオリを知る者全てが望むことでもある。だが、ホオリは首を緩く振った。
「兄への復讐心で何をしてきたか、自分で良く分かっている。ホオリはあの日死んだのだ。それで良い。」

討伐隊は涙を流す。聖女であるヨリコは、ここにきてようやくアマハラ王国が抱えていた問題を知ることになった。そうして不自然なまでの侍女たちの動きを思い出して、少なくとも自分はホデリと言う存在から守られていたのだと知る。

「さあ、決別の時だ。」
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