鬼人の恋

渡邉 幻月

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人ノ部 其之弐 最初の聖女は二周目で復讐を遂げる

八. 未来への抵抗

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 ヨリコは頬を抓ってみる。普通に痛い。
「夢じゃなさそう…」
溜息と共に呟いて途方に暮れる。そうして、ここに居る理由を思い出そうと目を閉じた。

 晩餐会も佳境に入って、人に酔ってテラスに出たことは覚えている。そうしてホデリと二人きりになってしまった。迂闊だった、と今は反省している。誰か、本当に誰でもいいから誰かと一緒に行動すればよかったのかもしれない。
 恐怖が蘇る。悪寒のようにあの夜の恐怖と絶望が背中を走っていく。
「そうだ、刺されたんだ。私…」
悪意のある一撃だった、とヨリコは身震いする。心臓目掛けて、一撃。
『わたしから離れていくというのなら、お前も死ぬがいい。』
薄れ行く意識の中、ヨリコの視界に入って来たのは凶悪な笑みを浮かべるホデリだった。
「意味が分からない…」
なんでそこで人を刺すの? と怒りがこみ上げてくる。感情のままに悪態を吐きまくって、少し気持ちが落ち着いたところで気付く。
「そうだ、ここ、どこなんだろう。」
少なくとも元の世界… 日本ではなさそうな雰囲気ではある。どちらかと言えば、アマハラ王国の雰囲気に近い。帰れるはずだったのに、と思うと、自分の浅はかさと共にホデリへの怒りが湧いてきて仕方がない。
 苛々しながら周囲を窺い、そう言えば、とヨリコは自分の掌を見た。ここがアマハラ王国なら、魔法は使えるのだろうか。浄化の魔法以外は回復や補助魔法が少し使えるだけだが、無いよりはマシである。何があってもいいように防御力を少しでも上げておこうと、魔法が使えるかの検証も兼ねて自分に魔法をかけてみる。
「うん、使える。」
無事に防御力が上がったのを確認して、そうしてやっぱりここはアマハラ王国のどこかなのだと思い知る。さてどうしたものか、とヨリコは思い悩む。ホデリにだけは絶対に会いたくないが、元の世界に帰るためには王国の魔道士たちの力が要る。

「ヨリコ様!」
一人思い悩んでいたところに、不意に声を掛けられヨリコはびくりと跳ね上がった。聞いたことのある声ではある。恐る恐る振り向くと、
「ご無事で何よりです。」
そこには魔道将軍がいた。記憶より少し若く感じるのは気のせいだろうか。ヨリコは首を傾げる。
「…将軍ですよね?」
「ああ、はい。いえ、今はまだ違います。」
どういうこと? と言うヨリコの問いに将軍は、今はヨリコが召喚された日より七年ほど前になると説明した。同時に、彼は未来の自分から事の顛末と魔王の力を譲り受けたのだと告げた。
「申し訳ございません。我々の不注意でヨリコ様の命を危険にさらしました。癒すことができないほどの致命傷だったと、未来の私が伝えてきました。元の世界に戻したとしても絶命してしまうのではと。それで過去に戻すことにしたそうです。」
「なるほど?」
「今ならまだ、ホデリ様はヨリコ様のことを知りませんので、我々で匿えますし、ホオリ様のご協力を仰ぐこともできます。」
「すぐには帰れないの?」
「そのお姿で戻られてもご家族やお知り合いの方は混乱されるのではないでしょうか…」
困ったように言う将軍の言葉にヨリコはハッとする。七年前に戻って姿かたちも、その分若返っているのだ。声も変だし、道理で手足が小さいわけだ。約七年前なら…
「そっか、今九才くらいか… 一年くらいなら誤魔化せるのにね…」
申し訳ございません。ホデリ様の謀略も阻止するならば、ということでここまで過去に戻したようです。」
「それは… しょうがないよね。ホオリさん、可哀想だなって思ってたから… その代わりっていうか、今度はホデリって人と関わらないようにしてくれる?」
「勿論です。」
将軍はそうヨリコに約束すると、一度タマヨリの家である伯爵家に身を寄せるよう提案した。王宮よりはホデリに遭遇する機会が無いことと、未来の謀略を防ぐために伯爵の助力を得るつもりであることを説明された。どのみち縁もゆかりもない世界のことであるので、ヨリコは将軍に一任することにした。

 密かに伯爵邸に逃れ、タマヨリによく似た容姿に伯爵家の者たちに驚かれつつ、温かく迎え入れられたヨリコはほっと体から力が抜けるのを感じた。
 その後、ホオリも合流し将軍からヨリコについてと、七年近くたってから起こるホデリの謀略とその結果について説明される。
「バカな! なんてことを!」
優しそうなホオリも、温厚そうな伯爵も、激昂し怒鳴るように感情を吐き出す。トヨタマと伯爵夫人は青褪め今にも気を失いそうなほどだ。
「お怒りは尤もですが、今は、来る未来を変えることが先決かと。」
将軍は静かにホオリと伯爵に物申す。
「ああ。そうだな。お前は冷静だな…」
「いえ、既に一度怒りをぶつけてからこちらに参りましたので…」
肩を竦める将軍にホオリはそうか、と微笑む。気を取り直して今後についての作戦を練ることにする一同だった。
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