9 / 13
第9話:夏服の到来。できるだけ可愛いの。ビションフリーゼよりもふわふわの
しおりを挟む「世間」と「人間」は似ている。
「人間」の世の中は「世間」と呼ばれる。
わたしは「世間」に「またあの娘?」と呼ばれる。
「あの娘」はあん。鴨川杏。高校1年生。身長155㎝。体重45㎏。長所なし。短所あり。死亡動機は? 「黄色い線の内側に呼ばれたから」。お悔やみ申し上げます。「けっこうです」。
今日、午後2時10分ごろ、神奈川県のJR横須賀線新守白駅で、名守市高校1年生の女生徒(16)=同市常葉区=が、久里浜発仙台行き普通電車にはねられ死亡した。自殺と見られる。
鎌倉署によると、女子生徒がホームの端に立ち、電車に飛び込む姿を利用客が目撃しており、電車のカメラにも写っていた。乗員乗客に怪我はなかった。
「最近は眠れてる?」今日2時ごろ永眠しました。
「学校のほうはどう?」保健室の匂いは好きです。
「お母さんと仲直りした?」お母さんと喧嘩した憶えはありません。
「憶えてないのは薬のせいだよ」薬の処方箋を書いているのは先生です。
「いい加減起きたら?」
今日、午前8時10分ごろ、わたし──鴨川杏(16)=同市常葉区=はお母さんに起こされました。机の上には水の入ったコップ。朝陽の光に七色を照らし出しています。
担当医によると、七色の光に転がるフルニトラゼパム1㎎2錠はUFO型の錠剤。悪夢の原因と見られる。わたしはベッドの端に座り、ぼー……とする姿をお母さんに目撃されており、窓際に並ぶテディベア──ヴィヴィとププの瞳にも映っていた。
わたしに「おはよう」の挨拶はなかった。
「けっこう痛かったな……」
バラバラになったわたしの記憶と身体は回収されました。回収先は頭の中。まだ狂る狂る回ってるみたいです。
今日は土曜日。学校はお休み。お休み中に宇宙人とお約束。約束の時間は午前11時。どこへ行くのかな? とても楽しみです。
朝ご飯はベーコンエッグ。豚の燻製と生卵。豚は「ぶー」と鳴く。わたしのお腹は「ぐー」と鳴く。昨日ご飯食べられなかったから。どうしてだったっけ?
冷蔵庫から出した卵は真っ白。朝日に照らしてヒヨコの孵化を試みる。黄身は黄色いヒヨコになるかも。
「休みは外に出ちゃ駄目よ」
玄関からドアの閉まる音。鍵のかかる音もする。卵は真っ白。わたしも頭の中を真っ白にしてみる。はい、忘れました。
卵は真っ白。中身の白身と黄身を想像する。割れたら最後、フライパンでジューだから。
卵は真っ白。本当の中身を想像してみる。卵は見た目、真っ白。卵の中身は真っ暗け。光のない卵の中、真っ暗けに決まってる。真っ暗闇。「明」と「暗」は卵の本質。卵の中には夜の暗闇しかない。
明暗を分けるように卵を割る。フライパンでジュー。ベーコンを乗せて蓋。カリカリベーコンよりも蒸し焼き柔らかベーコン派。冷凍ブロッコリーをチンしてフライパンの中に入れる。
あと1分30秒。朝ご飯秒読み開始の90秒。わたしはTVをつける。
『昨夜、午後9時10分ごろ、神奈川県のJR横須賀線新守白駅で、名守市高校1年生の女生徒が──』
ご飯と即席お味噌汁。ブロッコリーとベーコンエッグ。無調整豆乳。お薬1㎎を4錠。朝ご飯の完成。
「いただきます」
「白」と「茶色」と「緑」と「白」と「黄色」と「乳白色」と「白」をお口に混ぜて、胃の中を想像する。卵の中と一緒。真っ暗だった。
服の色も考えなきゃ。下着の色も考えなきゃ。宇宙人好みになりたい。好みの色合いになりたい。色気は足りない。埋め合わせに必要なものはなに? 子犬のような可愛らしさ?
ペット可。ペット化。お利口さんにはできるはず。「おすわり」「お手」「待て」「よし」「ちんちん」昨日いっぱい練習したからできるはず。可愛がってもらえたら嬉しいな。
夏の到来。
出会いの季節。
アブダクションの夜。
揺れる電車に帰納法を使う。連日のコンタクトは今日のため。卵の中のヒヨコは言う。蓋然性の導出に留まるよう。
留まれません。卵の中身を知るには割るしかない。毎朝みんなそうしてる。確率は結果になる。頭と身体を使います。単純に。「よし」と言ってもらえるように。
夏服の到来。
できるだけ可愛いの。
ビションフリーゼよりもふわふわの。
白ワンピ。赤いリボンの麦わら帽子。ひまわりのブローチ。サンダルも白にしよう。
誘拐されそうな装い。手間暇要らずの脱衣仕様。あ、歯磨き忘れてた。キスの準備も怠らない。
くるくる回る床屋のあれ。そんな感じの歯磨き粉。洗面台のコップには「赤」と「黒」の歯ブラシ2本。赤いのはわたしの。黒いのは誰の?
なぞなぞ「長い棒をいっぱい出し入れして、最後に白いのをピュッと出すのはなぁーんだ?」答え──歯磨き。
窓を少し開けて、部屋に鍵を閉める。廊下側から。
探しものは何ですか? 醜いものですか? そうらしいのです。毎日わたしを叱る理由を探すお母さんは探しもの名人。ビックリするほど見つけ出すのです。
トイレのほこりとか庭の雑草とかお風呂のカビとか。服の着方とか姿勢とか階段を上がるときの足音とか。
1年は365日。
叱る理由も365個。
「ごめんなさい」も365回。
だから一緒。なにしても叱られるなら、休日外に出ても叱られるし、門限を破っても叱られる。だから一緒。今日の出来事は内緒。秘密のお出掛け。
「行ってきます」
快晴。
いい天気。
心地のいい風。
麦わら帽子はゆらゆらり。
迷路みたいな新興住宅地。新興宗教よりマシかも。人生の迷路に迷って神頼み。それだけならいいけど、勧誘はご遠慮願います。
十字路。「止まれ」の文字に止まる。カーブミラーに映るあの子は鴨川杏。鴨川さん家の娘さん。あらあら、どこへお出掛けかしら? あんな格好して。学校お休みなのにめずらしいわね。今日は通院の日?
左右を確認。
後ろ指も確認済み。
「さようなら」世間「こんにちわ」新守白駅。今日のご機嫌は如何でしょうか?
『黄色い線の内側まで──』
黄色い点字ブロックは吊り橋。吊り橋に沿ってわたしは歩く。足を踏み外したら溶岩に落ちる設定。バランスは大事。両手を広げる。今日は自由。鳥になった気分だよ?
どこまで飛んでいけるだろう?
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる