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第10話:わたしは世界滅亡のカウントダウンを指折り数える
しおりを挟む約束の駅前広場。
時計塔は午前10時12分をお報せします。噴水は水を噴き上げます。今日の朝見たような七色の虹。光の拡散。解き放たれた太陽光。七色の熱量を思う。「赤色」と「青色」の温度差は?
光は輪。波紋。形はこう「◎」。虹は「赤色」から始まり「紫色」に終わる。
「赤い揺り篭」から「紫色の棺桶」まで。「赤い赤ちゃん」と「紫色の死体」。「赤い血」と「紫色の腐敗」。わたしは今を生きてます。
「まだかな……?」
駅前は大勢の人。ロータリーはバスにタクシーに自家用車。排気ガスいっぱい。二酸化炭素いっぱい。「緑」は少ない。「土」も少ない。
食物連鎖の土台は引っ繰り返されそう。オセロの盤上みたいに。負け続けだから。わたしみたいに。
昨日「サボタージュ」の意味を調べてみたら、破壊活動を指すフランス語だった。
環境破壊は人類の十八番。地球侵略は宇宙人の十八番。わたしは世界滅亡のカウントダウンを指折り数える。
「まだかな……?」
時計塔は午前10時13分をお報せします。待ち合わせは11時。ちょっと早いかも。
約束は「プロミス」。昼食のお約束。なに食べるのかな。誰かとご飯するのは久しぶり。白ワンピは大丈夫? 染みは作れない感じ。サンドイッチなら安心。お箸の持ち方にも注意されない。
チューリップ。駅前広場にある花壇の。「赤」に「青」。「黄色」に「白」。彩り豊か。昆虫だったら有毒種。毒にご注意。「黄色」もあるし?
「赤」はケチャップ。「青」はレタス。「黄色」は玉子。「白」はパン。やっぱり昼食はサンドイッチにしよう。食中毒にご注意。手洗いうがいは忘れずに。
「まだかな……?」
時計塔は午前10時14分をお報せします。機械仕掛けの時計塔は疑えない。毎正時に踊り出す絡繰り人形──楽曲隊は音楽を奏でる。
ウェストミンスターは不吉な予感。キンコンカンは気落ちする。だけど、この時計塔の曲は子犬のワルツ。子犬は喜び庭駆け回る素敵な調べ。午前11時の楽しみは増幅中。胸が破裂するほど待ちきれない。
気分は遊園地。
くるくる駅前ロータリーはくるくる回るメリーゴーラウンド。違いは馬に乗るか車に乗るか。二つ合わせて馬車にしてもいいかもね。
大通りの向こうに見える鉄道橋の電車はジェットコースター。山手線もくるくる回る。人身けっこう多いから、絶叫系かな?
駅前広場はフードコート。移動販売のクレープ屋さんもあるし。種類も豊富。イチゴ&生クリーム。バナナ&チョコ&生クリーム。キャラメルカスタード。子供たちは大喜び。コーヒー片手に、大人まで食べてるよ。
うさぎの着ぐるみは風船の代わりにチューリップを配ります。配ってないけど。ホントに浮くなら欲しいかも。
「まだかな……?」「お前なにしてる?」
時計塔は午前10時15分をお報せします。11時まで残り45分。2700秒のカウントダウン。2700本も指はないから、人の指で数えよう。
指折り数える手のひらを見る。10本は10秒。1人10秒計算。2700秒なら、たった270人。桁違いの数えやすさ。わたしを抜いて269人。狙いは家族連れ。あの家族の指を折れ。
「……おい」
13人目。130秒の2分弱で中年女性の信者を発見。駅前広場だから仕方ない? ここ……本当は宗教の勧誘活動禁止なんだけどな。
人は神様を信じると他人を信じない人になる。神様を否定されると、人格否定されたかのように怒り出す。あたかも自分こそ神様だと言わんばかりに。
なのに──なのに、信者は他人を救いたがる。家族を捨ててでも他人を救いたがる。神になりたいのか救世主になりたいのか、その本質は同じだと思うけど、社会性を持つ動物として精神的進化を遂げているのか精神的退化を遂げているのか、と問われれば──「どちらでもない」
「……おい」
家族を捨てるというのは家庭を捨てるということ。家庭を捨てるというのは家庭環境を捨てるということ。
その環境に適応した信者の精神的変化は、薬物中毒の猿に似ている。猿に似てる人……類人猿。DNAの螺旋階段。上ったり下ったりを繰り返して、新しい類人猿は新しい神様を発明する。他人教の多神教。もう降参のお手上げ。諦めの万歳三唱。こっそり降りていい? この螺旋状の世界から。
──ピコン。
「あ、LINEっ」
時計塔は午前10時18分をお報せします。UFOを出たのかな? UFOに住んでるのなら。
> なにしてる? お前は 午前10:18
Twitterみたい。「いまなにしてる?」だって。
宇宙人はわたしの日常に興味あり? わたしは降りたいのです、この日常から。常日頃の行いから。わたしはなにもしていません。毎日なにしていいのか全然わかりません。
でも、今日はわかります。最初に昼食。食べるものはサンドイッチ。朝ご飯は豚と卵だったから、昼食もハムエッグ──ミックスサンドを食べよう。飲み物はソイラテ。あるかな?
< ミックスサンドにします 午前10:18
< と、ソイラテ。あったら 午前10:18
「……っと」
「俺はなにしてるのか尋いたんだけどな!」
時計塔は午前10時19分をお報せします。わたしも楽曲隊にお報せです。その人は、いつもわたしの後ろにいるのです。世界の隅っこにいる、わたしの後ろに。
押し競まんじゅうの世界と押し競まんじゅうの満員電車に乗るコツは、角を取ること。その角の後ろに、いつだっているのです。
振り向けば──ほら、いるのです。
善い子の皮を被った悪い子のわたしの前に、人間の皮を被った宇宙人の……柏葉さんが……。
「は、初めまして。か、鴨川……杏です」
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