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第十四篇第二章 大蜘蛛を背負う者
感恩戴徳の日々 “狂天”
しおりを挟む迫るバルモア軍の追手の気配を感じ取り南側
の山道を前にしてアラネアが崖の上で咄嗟に
立ち止まると背中を向ける。
「何やってんだ、アラネア…止まってる暇はねぇだろうがッ!!」
叫んだストラーダの声にアラネアは振り返る
事無く、返答を始めた。
「ああ、そうだ。立ち止まってるヒマはねぇ……オマエらはな…?」
「………アラネアさん…?」
サーラに名を呼ばれアラネアはやっとの事で
首だけを背後に向けて笑みを見せ付ける。
「ディルよォ……あの店は、オマエとリゼアにくれてやる。どうしようがオマエらの自由にしろ…」
「…………いつもいつも、まるで突風の様な物言いだな…アラネア…」
アラネアの言葉を受けたディルの拳は固まり
力が強く込もって、震えている。
「ああ、そうだ。自由にしていいがオレの依頼を一つ訊いてくれ…万屋ディルくん」
「………ッ?」
「ストゥとサーラの息子…ロードはよ。きっとこの先…とんでもねぇモンを背負う。運命の子なのかもしれん……だから、オマエも力を賭して“護って”やってくれ」
アラネアの言葉にディルの震えた身体に力は
入らず首を縦に振る事も返答をする事も何も
出来ず終いになってしまった。
「なんだよ、ストゥ…サーラ…。そんな一巻の終わりみてぇな暗ェ表情しやがってよ」
其の言葉を残しアラネアはまた前を向く。
そして、突如として上着を脱ぎ捨てると背中
に強く閃く“蜘蛛”の刺青を晒した。
月明かりが、シンボルを照らし上げる。
「いいか、良く聞け?オレは天下御免の傾奇者……アラネア・ケイオス。オレはよ……コイツはァ……“狂って”やがると“天”が匙を投げる程に自由に生き抜いてやるッ!!」
大きく天に両手を広げたアラネアは背中越し
にストラーダ達の視線を感じながら叫ぶ。
「心配すんな……オマエら。蜘蛛って生きモンはよ…しぶといんだ…“蜘蛛は死なねぇよ”」
グッと息を呑んだディルが振り返る。
そして、ストラーダとサーラの肩を押し山道
へと導く様に走り出そうとした。
いつかは、追い付かれる。
そう判断したアラネアの想いは正しい。
そう理解したディルは零れ落ちそうになって
いる涙をグッと堪え前へと向かう。
「待って、ディルくんッ!!」
「アラネアを置いてけねぇよッ!!」
そう叫ぶサーラとストラーダにディルの口を
離れた言葉が胸の中へと突き刺さる。
「五月蝿いッ!!!アラネアはァ……自由なんだ……ッ……!!走れッ!!アラネアの想いを無駄にするなら私は……お前達を潰してでも連れて行くッ!!!!」
ディルの悲痛な叫び声。
ストラーダ達は其れを初めて聞いた。
驚きの余り流されてしまったのだろう。
「ハッ……後は任せたぜ?ディル」
「アラネアァァァァァァ!!!!」
ストラーダの最後の叫びを背にアラネアは
迫るバルモア軍に向かって断崖を跳び下りて
生命の終焉へと立ち向かって行ったーー。
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